【完結】国立第5魔導研究所の研究日誌

九条美香

文字の大きさ
12 / 140
新人魔導師、配属される

4月2日、5時21分

しおりを挟む
 やけに早く目覚めてしまった。
 天音は起床予定から1時間以上前の時刻を示す文字盤を見て、もうひと眠りするか悩んでいた。

 朝食は7時から。そう聞いているので、早く起きたところでどうしようもない。

 しかし、再びベッドに横になっても、眠気は訪れなかった。
 昔から、遅刻が怖くて何かある日は予定より早く目覚めてしまう。そして、二度寝もなかなかできない。

(水、飲もう……)

 天音は諦めて身支度をする。食事ができていなくても、飲み物を飲むくらいはできるだろう。
 幸いにも、この部屋には個人のシャワールームがついており、洗面台なども備えられていた。外に出てもおかしくないように支度をする。

 スーツに袖を通す。これがいつか第5研究所の魔導衣に変わることはあるのだろうか。そんなことを考えた。

(いや、それはないな……)

 流石に一月以上ここに残ることはないだろう。
 緩く首を振って、天音は部屋を後にした。







 「家」はすでにカーテンが開けられていて、朝の光が差し込んでいた。

「あ……お、おはようございます。早いですね」

 食堂には既に和馬の姿があった。魔力の匂いで気づいていたのだろう。食堂に入ってすぐに声をかけられた。

「おはようございます。すみません、何か飲み物を頂いても?」
「あ、そっちの冷蔵庫の中に入ってる、名前の書いてないやつは大丈夫です。お、お好きにどうぞ……」

 一言断って冷蔵庫を開けると、オレンジジュースと水を見つけた。それ以外の飲み物には、まだ天音の知らない人物のものと思われる名前が書かれている。大量のエナジードリンクは、見なかったことにした。

「い、伊藤さんは朝強いタイプですか……?」
「いえ、どちらかというと苦手です。ただ、まだ緊張しているようで、早く起きてしまいました」
「だ、大丈夫ですよ、ここの人たち大抵朝弱いんで……あと1時間は誰も来ないんじゃないかと……」

 食堂の時計を見ながら、和馬はそう言った。相変わらず、話しながらも手が止まることはなく、手際よく料理を作っている。

「今日の朝食ですか?」
「あ、いえ、これは徹夜組への差し入れです。さっき、技術班の方が区切りがついたと言っていたので……」

 ならば、今日の研修は技術班だろうか。あの奇声の持ち主ではないことを願いながら、さりげなく探りを入れてみることにした。

「技術班の方は、どんな方ですか?」
「え、あ、うーん……ちょっと待ってくださいね、その、なんと言ったらいいのか……」

 言い淀む和馬を見て、嫌な予感がした。まさかあの笑い声は技術班から聞こえていたのだろうか。まともに会話ができるか怪しくなってきた。

「……うん、そうですね、あれです! 良くも悪くもプロフェッショナル!」
「良くも悪くも」
「だ、大丈夫です、ちゃんとストッパーがついてますから!」 
「ストッパーがついてないと駄目なんですか!?」

 笑い声の主は技術班の人物に確定した気がする。昨日の説明では技術班は2名、と言うことは片方が奇声の主、もう片方がストッパーだろう。ストッパーが優秀であることを祈る。

「す、すごい人ですよ。役に立つもの、たくさん作ってくれて……魔導衣も、俺に合うものを考えてくれたんです」
「コックコートのようですよね」
「見た目もそうですけど……俺、魔導構築値が他より低めで。それを補えるようにって、特殊な魔導繊維を使ってるんですって」
「どのような素材を使われているんでしょうか?」
「俺もそこまでは。さすがに、そこは専門知識が必要なので……」

 魔導衣や魔導師の使う道具についての製造方法は、教本にも載っていなかった。恐らく、漏洩を恐れてそこまで詳しく書くことができなかったのだろう。

 奇声の主を恐れつつも、技術班について興味がわいてきた。
 一体、どのような人物なのだろうか。どんな研究をしているのだろうか。
 この研究所への関心が高まってきた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

没落港の整備士男爵 ~「構造解析」スキルで古代設備を修理(レストア)したら、大陸一の物流拠点になり、王家も公爵家も頭が上がらなくなった件~

namisan
ファンタジー
大陸の南西端に位置するベルナ子爵領。 かつては貿易で栄えたこの港町も、今は見る影もない。 海底には土砂が堆積して大型船は入港できず、倉庫街は老朽化し、特産品もない。借金まみれの父と、諦めきった家臣たち。そこにあるのは、緩やかな「死」だけだった。 そんな没落寸前の領地の嫡男、アレン(16歳)に転生した主人公には、前世の記憶があった。 それは、日本で港湾管理者兼エンジニアとして働き、現場で散った「整備士」としての知識。 そして、彼にはもう一つ、この世界で目覚めた特異な能力があった。 対象の構造や欠陥、魔力の流れが設計図のように視えるスキル――【構造解析】。 「壊れているなら、直せばいい。詰まっているなら、通せばいい」 アレンは錆びついた古代の「浚渫(しゅんせつ)ゴーレム」を修理して港を深く掘り直し、魔導冷却庫を「熱交換の最適化」で復活させて、腐るだけだった魚を「最高級の輸出品」へと変えていく。 ドケチな家令ガルシアと予算を巡って戦い、荒くれ者の港湾長ゲンと共に泥にまみれ、没落商会の女主人メリッサと手を組んで販路を開拓する。 やがてその港には、陸・海・空の物流革命が巻き起こる。 揺れない「サスペンション馬車」が貴族の移動を変え、「鮮度抜群の魚介グルメ」が王族の胃袋を掴み、気性の荒いワイバーンを手懐けた「空輸便」が世界を結ぶ。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

処理中です...