【完結】国立第5魔導研究所の研究日誌

九条美香

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新人魔導師、特訓する

4月26日、2通の手紙

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 「家」には一般家庭のように、郵便物が届くことがある。それを天音が知ったのは、つい最近のことだ。表向きここは武村家ということになっているらしく、宛先は全て雅になっている。彼女の名前を使って、魔導考古学省は研究員宛に手紙などを送ってくるのだ。

「今日は2通か」

 封筒に魔力を流す。すると、特殊なインクで書かれた文字が魔力に反応して浮かび上がり、正しい宛先が現れる。

「どっちも副所長宛? なんだろう……」

 第5研究所によく送られてくるのは零宛の手紙だ。次点で雅。研究所の所長である零と、数少ない魔導医師免許を持つ研究員である雅によく手紙が来るのは当然のことである。

「副所長、お手紙です」
「ああ、悪いな。ありがとう」

 自身の研究室にいた夏希は、手紙を受け取ると、机の引き出しからペーパーナイフを出した。スマートフォンなどの連絡手段を持たない魔導師は手紙のやり取りが多いので持っているのだろう。手慣れた様子で封を切る。

「お前に関するコトだからそこにいてくれ」
「え? はい」

 ちらりと見えてしまった差出人の欄には、「高木美織」と書かれていた。天音の知らない名前だ。

「美織はウチの元研究員だ。1分で辞めた最短記録の持ち主」

 天音の視線に気づいたのか、夏希はそう言った。一瞬、心を読まれたのかと思うほど気づくのが早かった。

「え、その人ですか!? 今はどこの研究所に配属されたんですか?」
「もう魔導師じゃねぇよ」
「なら研究所に手紙を送ってきてはいけないんじゃ……」

 魔導師を辞めたのならば、元上司であろうと個人的な連絡以外は許されない。研究所宛に手紙を送ることは禁じられているはずだ。

「美織は占術魔導に優れてる。魔導考古学省も頼りにするくらいにな。なあ天音、魔導技術の発達で奪われた職業ってなんだかわかるか?」
「はい、占い師や所謂霊能力者などですよね」

 当たるか当たらないか怪しい占いは姿を消し、占術魔導によるほぼ100パーセント当たる占いが当たり前となった。霊能力者の代わりに自称魔導師が蔓延り、基本の魔導文字すら書けないような者が声高に魔法の復活を叫んでいる。それが、魔法ルネサンスと呼ばれる現代社会だ。

 天音はそれを養成学校で習ったし、実際に駅前で自身が魔法を復活させたと叫ぶ団体を見たこともある。

「それもあるな。ま、細かく言えばもっと大量にあるんだが、一番身近だったものが抜けてる」
「なんでしょう?」
「天気予報。気象予報士だよ」
「あ……っ!」

 今や朝のニュースでは星座占いや気象予報士による天気予報はその居場所を失い、代わりに魔導師による数日分のリアルな気象予報が行われるのが当たり前となっている。その気象予報を行うのは、国立研究所の研究員か、魔導考古学省に認定を受けた占術魔導の使い手だ。

「美織はこの県の担当者、本気を出せば1年後の天気まで市ごとに視える。まあ、アイツは魔導考古学省嫌ってるから、1週間しか読めないフリして協力渋ってるけどな。つーわけで、美織は魔導師の資格はねぇが、研究所宛に手紙を送れるんだ」
「そういうことだったんですね。もしかして、昨日所長が言っていた占いってその方の所に行ってたってことですか?」
「ああ。アイツは占いのエキスパートだからな。新人がきたり、新しいコト始めるときは占ってもらってんだ。悪いな、断りもなくお前のコト話して」
「いえ、そんな。必要なことなんでしょうし、お気になさらず」

 夏希はもう一度謝罪すると、手紙を読み始めた。やや眉間に皺が寄っている。おまけに深い溜息まで吐いていた。

「ほい」

 封筒を振って、夏希は何かを取り出した。
 星形の飾りがついたペンダントだ。銀の星の中心に、紫色の石が埋め込まれている。

「なんですか? これ」
「美織特製、運気アップのお守りだ。アイツの固有魔導は運気を操る。水晶に自分の魔力を込めてあらゆる運気を上げたり下げたり出来んだよ。新人の初仕事って言ったらくれた」
「ありがとうございます。高木さんにもお伝えいただけますか?」
「おう。んじゃ、あとは大丈夫だから戻っていいぞ。発掘調査が心配なら昨日のとは違う発掘調査についての本でも読んどけ」
「はい、ありがとうございます。失礼いたしました」

 天音が退室すると、夏希は顔を覆って天を仰いだ。

「嫌な予感が当たりやがった……」

 美織からの手紙には、予言めいた文体でこう書かれていた。

〈発掘調査は失敗する。零と夏希、そして新人はその責を問われて魔導考古学省に召集され、尋問を受ける〉

 そして、もう一通。真子からの手紙も、同じように書かれていた。

〈恐らく、発掘調査は失敗する。私も出来るだけ努力するが、尋問は避けられないだろう。すまない〉

 封筒には、手紙の他に夏希が頼んでいた調査について纏められた紙が入っていた。用紙にして、2枚分。天音が養成学校に入る以前のことが細かく書かれている。

「そういうコトかよ……っ! クソ魔導考古学省が!」

 ダン!
 夏希の黒手袋に包まれた拳が、勢いよく机に叩きつけられた。その音と叫び声が聞こえたのか、猫の姿の零が部屋に飛び込んでくる。

「どうしたんですか!?」

 夏希は何も答えず、人の姿に戻った零の胸元に手紙を押しつけた。少し皺の寄った手紙を、零はそっと手に取って読み始める。

「なるほど……」

 口調こそ穏やかなものの、零の目は笑っていなかった。

「本当に、昔から変わりませんね。あの人たちは」

 凍てつくような声で零は言う。苛立ちを隠しきれない夏希は、頭を冷やしてくると言って外へ出ていった。

 部屋に残された零は、頭痛をこらえるように顳顬を押さえていた。

「はぁ……」

 まだ1日が始まったばかりだというのに、いやに疲れた。もう今日は何もしたくない。夏希もきっとそうだろう。ひとまず、彼女のお気に入りの紅茶を淹れて、2人でゆっくり過ごすか。食堂に向かうため、零はゆっくりと歩き出した。
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