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新人魔導師、2回目の発掘調査に参加する
6月5日、占いの館
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訓練も発掘調査もなく、研究に少し行き詰った天音は、気分転換に空を飛んでいた。恭平はこのために趣味探しをするよう言ってくれたのかもしれない。ただ何も考えずにゆったりと飛んでいると、心が落ち着くような気がした。
「よぉ、気分転換の最中に悪ぃな」
やってきたのは夏希だった。歩行だけでなく、飛行でも音がしないらしい。すぐ傍に来るまで気づかなかった。
「ふ、副所長!? ど、どうしました?」
夏希はくるくると宙返りのような動きをして、楽しそうに飛んでいた。珍しく、子どものようにはしゃいでいる。
「お出かけしようぜ!」
はしゃいでいた理由はそれか。天音は納得した。基本的に第5研究所という檻に閉じ込められている夏希は、魔導考古学省の許可なく外出することができない。すなわち、業務以外での外出がほとんど不可能なのだ。だが珍しく外出許可が下りたのか、外に出られることを喜んでいる。
「まぁ、表向き仕事なんだけどな。でも久しぶりに魔導考古学省以外のトコ行けるんだわ」
「どこですか?」
天音の問いに、夏希はニヤッと笑って言った。
「占いの館!」
そこは、魔導考古学省と第5研究所の中間地点辺りだった。ひっそりと佇む小さな館。看板はなく、代わりに表札のように星と三日月のマークが飾られている。
「高木さんのところって言ってくださいよ! 何事かと思いましたよ」
「その方が面白かったからな」
夏希が占いの館に行くと言ったときの天音の顔はなかなかに愉快だった。信じられないようなものを見る目が気に入ったのか、夏希は暫く笑っている。
「美織の魔導商業許可の更新が近いんだ。更新そのものは魔導考古学省の仕事だけど、その前に推薦者が面談しなきゃいけねぇ決まりになってる。だからあたしが来たんだ」
「推薦が必要なのは知ってます。けれど、なんで面談に私を連れてきたんですか?」
「面談自体はすぐ終わるからな。メインは占いだ。お前にも関係あるコトだから連れてきた。まぁ、詳しくは後でわかるから行くぞ」
すたすたと歩く夏希は、きっと何度もここに来たことがあるのだろう。迷う様子はなく、早足で歩いていく。とは言っても歩幅は小さいので、天音が彼女を見失うことはなかった。
「ようこそ、占いの館へ……」
「今日は休業日だろ」
「初めて会う人の前でくらいカッコつけさせてよ」
普段は仕事に使われているのであろう広い部屋の奥から、ベールをかぶった女性が現れた。指輪や腕輪がいくつもつけられており、動くたびにシャラシャラと音が鳴る。囁くような声は、夏希の言葉に反応したせいか、すぐに普通のトーンに戻ってしまった。
「なんか初めての気はしないけどね。高木美織です、よろしく」
「伊藤天音と申します。あの、先日はペンダントをありがとうございました。おかげで助かりました」
「いえいえ~。なんだか紫水晶が貴女を呼んでる気がしたから」
「ええと?」
「多分、お前は紫水晶と相性がいいんだよ。美織の言うコトは大体当たる」
「大体じゃないです~全部です~」
美織は普段水晶玉やタロットカードが乗っているテーブルにティーセットを用意していた。相談者用の椅子に、天音たちは腰かける。
「一応面談な。最近どうだ?」
「上々」
「了解。で、テストな。天音の誕生日は?」
「春の気配がするね。新学期より早い気配だ。4月……2日かな?」
「あ、合ってます……」
占術魔導も極めるとここまで来るのか。天音は目を瞬かせた。
「よし、終了。じゃ、本題な」
「一応面談がメインってことにしようよ……」
「お前の能力が衰えてないことはわかりきってたんだよ」
つまらなそうに夏希は言う。そこには、美織に対する絶対の信頼があった。
「これからの第5研究所について、占ってもらいたい」
「随分範囲が大きいね。絞れない?」
「そうだな、まだお前が占ってねぇコトで頼む。具体的に言うと……天音の固有魔導と、3回目の発掘調査について」
天音は思わず背筋を伸ばした。だから自分が呼ばれたのか。何を言われるかと想像して緊張してしまう。
「……はぁ、人使いの荒い……」
文句を言いながらも、美織は羊皮紙を取り出して、羽ペンに銀のインクで魔導文字を円のように書き始めた。その中心に、台座に乗せられた水晶玉を置く。インクと同じ銀色の魔力が光った。光は水晶に吸い込まれ、美織にしか見えない何かを写し始めた。
「……魔法復活に、この子は貢献するだろう。この子は『白を超える者』。いずれ外敵すら滅ぼす力を手に入れるだろう」
予言じみた言葉を呟きながら、美織はなおも水晶玉に手をかざして何かを視ようとしている。
「……魔導考古学省も、『白の十一天』も、この子を手に入れようとするだろう。しかし、それは『黒を纏うもの』によって防がれる」
詩的な表現に、天音は理解が追い付かなかった。夏希だけが何かを悟ったように頷いている。
「第3回発掘調査は成功するだろう……だが、その後、真実を知り、『黒を纏う者』は深い悲しみに襲われるだろう……はぁ」
術を使って疲れたのか、美織は息をついた。冷めかけた紅茶を飲み干す。
銀の光が治まり、薄暗い室内で美織の装飾品だけが光っていた。
「こんな感じだけど、どう?」
「十分。ありがとな」
「いえいえ~。あ、念のためまたお守り送るね。今度は皆の分」
「んなコトしたら倒れるぞ」
「大丈夫大丈夫」
夏希は心配そうな表情を浮かべながらも、財布を取り出して紙幣を何枚か置いた。それをつき返そうとする美織だが、術を使われて握らされる。
「お守りの代金はいつもの口座に振り込んどく」
「いいのに」
「働きには相応の対価が与えられるべきだ」
「でも、こうして働けるのは夏希のおかげだよ」
「お前の腕がいいからだよ。ありがとな、もう行くわ」
「あ、ええと、ありがとうございました!」
立ち上がって一礼し、天音は夏希の後を追うように走り出した。シャラシャラと音が後ろで鳴っている。美織が手を振っているのだろう。
後ろを歩く天音には見えなかったが、夏希は険しい顔をしていた。『黒を纏う者』は深い悲しみに襲われる、という言葉が気になったのだ。
黒を纏う者。魔導師全員が当てはまるが、彼女の脳内には、黒の魔力を纏う夫の姿が浮かんでいた。
外れることはあり得ない。それは身をもってわかっている。だから、せめて。己の解釈が異なるものであるようにと、夏希は願った。
「よぉ、気分転換の最中に悪ぃな」
やってきたのは夏希だった。歩行だけでなく、飛行でも音がしないらしい。すぐ傍に来るまで気づかなかった。
「ふ、副所長!? ど、どうしました?」
夏希はくるくると宙返りのような動きをして、楽しそうに飛んでいた。珍しく、子どものようにはしゃいでいる。
「お出かけしようぜ!」
はしゃいでいた理由はそれか。天音は納得した。基本的に第5研究所という檻に閉じ込められている夏希は、魔導考古学省の許可なく外出することができない。すなわち、業務以外での外出がほとんど不可能なのだ。だが珍しく外出許可が下りたのか、外に出られることを喜んでいる。
「まぁ、表向き仕事なんだけどな。でも久しぶりに魔導考古学省以外のトコ行けるんだわ」
「どこですか?」
天音の問いに、夏希はニヤッと笑って言った。
「占いの館!」
そこは、魔導考古学省と第5研究所の中間地点辺りだった。ひっそりと佇む小さな館。看板はなく、代わりに表札のように星と三日月のマークが飾られている。
「高木さんのところって言ってくださいよ! 何事かと思いましたよ」
「その方が面白かったからな」
夏希が占いの館に行くと言ったときの天音の顔はなかなかに愉快だった。信じられないようなものを見る目が気に入ったのか、夏希は暫く笑っている。
「美織の魔導商業許可の更新が近いんだ。更新そのものは魔導考古学省の仕事だけど、その前に推薦者が面談しなきゃいけねぇ決まりになってる。だからあたしが来たんだ」
「推薦が必要なのは知ってます。けれど、なんで面談に私を連れてきたんですか?」
「面談自体はすぐ終わるからな。メインは占いだ。お前にも関係あるコトだから連れてきた。まぁ、詳しくは後でわかるから行くぞ」
すたすたと歩く夏希は、きっと何度もここに来たことがあるのだろう。迷う様子はなく、早足で歩いていく。とは言っても歩幅は小さいので、天音が彼女を見失うことはなかった。
「ようこそ、占いの館へ……」
「今日は休業日だろ」
「初めて会う人の前でくらいカッコつけさせてよ」
普段は仕事に使われているのであろう広い部屋の奥から、ベールをかぶった女性が現れた。指輪や腕輪がいくつもつけられており、動くたびにシャラシャラと音が鳴る。囁くような声は、夏希の言葉に反応したせいか、すぐに普通のトーンに戻ってしまった。
「なんか初めての気はしないけどね。高木美織です、よろしく」
「伊藤天音と申します。あの、先日はペンダントをありがとうございました。おかげで助かりました」
「いえいえ~。なんだか紫水晶が貴女を呼んでる気がしたから」
「ええと?」
「多分、お前は紫水晶と相性がいいんだよ。美織の言うコトは大体当たる」
「大体じゃないです~全部です~」
美織は普段水晶玉やタロットカードが乗っているテーブルにティーセットを用意していた。相談者用の椅子に、天音たちは腰かける。
「一応面談な。最近どうだ?」
「上々」
「了解。で、テストな。天音の誕生日は?」
「春の気配がするね。新学期より早い気配だ。4月……2日かな?」
「あ、合ってます……」
占術魔導も極めるとここまで来るのか。天音は目を瞬かせた。
「よし、終了。じゃ、本題な」
「一応面談がメインってことにしようよ……」
「お前の能力が衰えてないことはわかりきってたんだよ」
つまらなそうに夏希は言う。そこには、美織に対する絶対の信頼があった。
「これからの第5研究所について、占ってもらいたい」
「随分範囲が大きいね。絞れない?」
「そうだな、まだお前が占ってねぇコトで頼む。具体的に言うと……天音の固有魔導と、3回目の発掘調査について」
天音は思わず背筋を伸ばした。だから自分が呼ばれたのか。何を言われるかと想像して緊張してしまう。
「……はぁ、人使いの荒い……」
文句を言いながらも、美織は羊皮紙を取り出して、羽ペンに銀のインクで魔導文字を円のように書き始めた。その中心に、台座に乗せられた水晶玉を置く。インクと同じ銀色の魔力が光った。光は水晶に吸い込まれ、美織にしか見えない何かを写し始めた。
「……魔法復活に、この子は貢献するだろう。この子は『白を超える者』。いずれ外敵すら滅ぼす力を手に入れるだろう」
予言じみた言葉を呟きながら、美織はなおも水晶玉に手をかざして何かを視ようとしている。
「……魔導考古学省も、『白の十一天』も、この子を手に入れようとするだろう。しかし、それは『黒を纏うもの』によって防がれる」
詩的な表現に、天音は理解が追い付かなかった。夏希だけが何かを悟ったように頷いている。
「第3回発掘調査は成功するだろう……だが、その後、真実を知り、『黒を纏う者』は深い悲しみに襲われるだろう……はぁ」
術を使って疲れたのか、美織は息をついた。冷めかけた紅茶を飲み干す。
銀の光が治まり、薄暗い室内で美織の装飾品だけが光っていた。
「こんな感じだけど、どう?」
「十分。ありがとな」
「いえいえ~。あ、念のためまたお守り送るね。今度は皆の分」
「んなコトしたら倒れるぞ」
「大丈夫大丈夫」
夏希は心配そうな表情を浮かべながらも、財布を取り出して紙幣を何枚か置いた。それをつき返そうとする美織だが、術を使われて握らされる。
「お守りの代金はいつもの口座に振り込んどく」
「いいのに」
「働きには相応の対価が与えられるべきだ」
「でも、こうして働けるのは夏希のおかげだよ」
「お前の腕がいいからだよ。ありがとな、もう行くわ」
「あ、ええと、ありがとうございました!」
立ち上がって一礼し、天音は夏希の後を追うように走り出した。シャラシャラと音が後ろで鳴っている。美織が手を振っているのだろう。
後ろを歩く天音には見えなかったが、夏希は険しい顔をしていた。『黒を纏う者』は深い悲しみに襲われる、という言葉が気になったのだ。
黒を纏う者。魔導師全員が当てはまるが、彼女の脳内には、黒の魔力を纏う夫の姿が浮かんでいた。
外れることはあり得ない。それは身をもってわかっている。だから、せめて。己の解釈が異なるものであるようにと、夏希は願った。
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