【完結】国立第5魔導研究所の研究日誌

九条美香

文字の大きさ
98 / 140
新人魔導師、3回目の発掘調査に参加する

同日、調査開始の時

しおりを挟む
 天音が目を開くと、見覚えのある遺跡のすぐ前に立っていた。目の前には真子と秋楽。この日の真子は、両手に金属製の扇子を持っていた。彼女の武器らしい。

「やあ」
「1分遅刻だ、第5研究所」

 時計を見ながら、秋楽は眉を寄せている。その顔があまりにも怖いので、由紀奈は天音の影に隠れて震えていた。

「はいはい、そりゃ悪かったな」

 演技だと知っていても、彼の表情はかなり恐ろしいものではあったが、夏希がそんなことを気にするわけもなく。適当に手を振ってあしらっている。

「大体、何故俺がこんな低ランクの遺跡の発掘調査の警護を……」
「仕事だろ? お役人サマ」
「ちっ……」
「相変わらずだね、君たち」

 秋楽の事情を知っているのかいないのか。真子は考えの読めない笑みを浮かべている。今日も紅く彩られた爪が、白魚のような美しい手を飾っていた。似合ってはいるが、これから泥まみれになる可能性があるとは思えない姿だ。

「さて。これから調査なわけだけど、現場の動きは決まっているのかな」
「あぁ。あたしが上空、零は地上。調査班は2手に分かれて遺跡調査。医療班の内、新人は技術班のサポートもするコトになってる」
「なら、私たちも空と地上に分かれようか。秋楽、君はどちらがいい?」
「……地上で」

 腰元の剣を撫でながら、秋楽はそう言った。地上の方が動きやすい、ということだろう。真子はそれに頷き、すぐに魔導文字を書くと空に飛び立った。

「さーて。お仕事の時間だぜ」

 夏希も真子を追うように飛び立つ。
 9時10分。発掘調査、開始である。

「行こう」
「あっち」
「はい!」

 双子に促されて、天音は遺跡の内部へと潜っていった。前回の襲撃の跡が残ってはいるものの、比較的損傷は少ない。

「前はここまでしか行けなかった」
「邪魔されたね」

 遺跡の途中で、双子が足を止めた。壁が削られ、銃弾によっていくつもの穴が開いている。激しい戦闘があったことがわかった。

「これはかなたが開けた穴」
「こっちははるかが開けた穴」
「いや、その解説はいらないです……」

 至って真面目な顔で話すものだから、天音もしっかりと聞いてしまった。だが、1ミリも発掘調査に関係のない話だった。

「これより奥に行こう」
「別の物が見つかるかも」
「そうですね」

 注意深く地下へ進んでいく。道中、小さな石板の欠片をいくつか拾った。繋ぎ合わせてみたところ、上手く嵌ったので、元は1つの石板だったようだ。

「日誌が欲しいね」
「本でもいいけどね」
「あ、それは以前恭平さんも言ってました」
「日誌は大事だからね」
「当時の本も貴重だからね」

 光の術で辺りを照らし、探ってみるが、見つかるのは石板ばかりだった。次々に破片が見つかるので、これ以上砕けないよう、保護の魔導文字をはるかが書いた。そして、それをかなたが地上の技術班のもとへ送る。こうして移動させた出土品は、余裕があればその場で彼女たちがジャンルごとに整理し、破損物は修復してくれることになっている。出土品が多い場合は、調査終了後に全員で行う。

「前、恭平さんたちと行った方向は装飾品や紙の切れ端があったんですが……」
「あっちが生活スペースだったのかな」
「こっちは倉庫だったのかも」

 あまりにも石板ばかりが見つかるので、3人は不安になってきた。何故200年前に石板なのか。その理由すらわからない。

「もしかしたら、紙を買いに行けなかったからかもね」
「なるほど……」

 天音の独り言に、かなたが答えてくれた。確かに、ここに隠れ住んでいたのならば、紙を買いに街まで出るのは一苦労だ。その点、石は簡単に手に入る。何せ、土と石だらけだ。

 その後も、石板の欠片をひたすら集めていった。地下に行くにつれ、その量は増えてきている。やはり、他者に入られることの少ない深い場所に研究結果を残しておいているようだ。

「あ!」

 天音は思わず大きな声を出した。先を歩いていた双子が驚いたように振り返る。天音の指し示す先には、明らかに何らかの魔法がかけられた壁があった。

「よく見つけたね」
「偉い偉い」

 双子は天音を撫でると、下がって待機するように言った。かなたが太もものホルスターから拳銃を取り出す。そこに透の趣味を感じて、天音は思わず遠くに意識を飛ばした。

「行くよ」

 リボルバー式の拳銃には、1発ごとに異なる魔導が使えるようになっている。魔導文字を書いた紙を込めると、それが銃弾となって発射されるという、葵の自信作だ。かなたはそれに小規模な爆発の術を込め、連続で撃った。

 だが、壁はびくともしない。どうやらかつての住人は、ここに心血を注いで封印の魔法をかけたらしい。

「ここ、本当に丙種遺跡ですか?」
「封印だけで言えば乙種かも」
「まずいね……夏希、呼ぶ?」
「しかないね」

 はるかは片割れの言葉に賛成し、伝言の鶴を飛ばした。ものの数秒で、「そっちに行く」と返ってきた。

「零はコントロール下手だからね」
「中身ごと吹き飛ばしちゃうよね」

 強すぎる、というのも大変なようだ。天音は他人事のように思っていたが、それが後に自分にも関わってくることだとは、このときはまだ知らなかった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

【完結】以上をもちまして、終了とさせていただきます

楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。 伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。 そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。 「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」 神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。 「お話はもうよろしいかしら?」 王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。 ※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m

処理中です...