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6話 女神の試験と選択
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「……それにしても、ラティリスが風の精霊シルフを従えているとは思わなかったな」
女神の塔へと移動している途中、グランデルが私に話しかけてきた。
「あ、エアルは従えているんじゃなくて友達なの。ね、エアル」
「そう、ラティと僕は親友なのさ」
自然が好きな両親と登山をした時、好奇心が強かった私は山道から外れた場所へと迷い込んでしまった――
その時に出逢って、私を助けてくれたのが風の精霊エアルだった。
山の別荘で過ごしている間、楽しくエアルと遊んでいたのだが……
いつまでも山にいるわけにはいかないので、別れの時はすぐにやってきた。
今までずっと一人で山に住んでいたからか、私と離れるのが凄く寂しくなったようで――
エアルは私と一緒に山から下りることを決めたと言っていた。
私といると山から下りても何故か居心地がいいらしく、エアルとは今でも一緒に行動を共にしている。
「着きました……。ここが女神の塔です」
女神の塔へと案内してくれていたエスカーネがそう言った。
目の前には古代遺跡のような塔がそびえ立っている。
「塔の中に入るとすぐに試験は始まるけど――、結局、誰が行くのかな?」
エアルが私達に尋ねた。
「オレは当然行かせてもらう」
「……でしたら、あたしも行かせてください」
グランデルが塔に入る決意をすると、エスカーネも直ぐに手を上げた。
恋の力は偉大である――
「私も行きます。ファレス様に会えるかもしれないですし」
グランデルの弟を助けたいという気持ちも当然あるが、女神ファレス様に逢ってみたいという単純な好奇心もあった。
「それなら、俺も行く」
私を心配してなのだろう、ルランドも手を上げた。
「四人が試験に挑むということだね。みんな一緒に戻って来るわけじゃないから……、ワグリナはここで待機していてもらえるかな?」
「わかった。試験を乗り越えられなかったとしても、ワシが塔の前でお主達の帰りを待っておるからな。安心せい」
ワグリナはそう言って、塔の前にドスッと腰かけた。
「それじゃあ、案内するから、ボクと一緒に来て――」
エアルに誘導されながら、私達は女神の塔の中へと入った。
「中は意外に何もないのね……」
塔の中は単純な構造になっていて、ただ広い空間があるだけだった。
「塔の中にファレス様がいるわけじゃないからね」
「あ、そうなんだ」
塔の中に住んでいるのかと思っていた。
「みんな、広間の中央に集まってもらえる? そこでファレス様の試験が受けられるから――」
エアルに言われて、私達は広間の中央に集まった。
「……準備はいい?」
「はい」
私が返事をすると、みんなも頷いた。
「そろそろ始まるよ」
エアルがそう言い終えると、塔の天井から光が下りてきて、私達はその光に包まれた――
◇
「何も見えない……」
女神の塔の中で包まれた光が消えると、真っ暗で何も見えない世界になった。
辺りを見回すが、やはりどこを向いても何も見えない――
しばらくすると、今度は世界が明るく照らされ始めた。
徐々に光が強くなり、眩しいと思った瞬間、私の身体は炎に包まれた。
「熱っ! ……くない?」
身体が燃える。
そう思ったのだが――
炎の中にいても、熱さを全く感じなかった。
「こ、この世界は……」
破壊つくされた街に、焼きつくされた森、逃げ惑う人間や亜人が次々に殺されていっている。
「――今見ているのは、魔族が全ての大陸を支配した場合の未来の世界だよ」
絶望的な光景に圧倒され、ただただ呆然としている私に、エアルが声をかけて説明をしてくれた。
その光景は、あまりにも悲惨で、本物の世界ではないとわかっていたとしても、手で目を覆いたくなるほどだった。
「これが、魔族に支配された後の世界……」
こんな世界が現実にも起こり得る可能性のある未来だというのだろうか――
「次は亜人だけになった世界だね」
エアルがそう言うと、目の前に広がっていた世界が急変した。
今度の世界は、魔族が支配した世界とはまるで別世界――
穏やかな雰囲気に包まれた世界が広がっていた。
自然豊かな土地が広がり、各種族の亜人達がそれぞれ過ごしやすい土地に住み、のどかに過ごしている。
しかし、そこに人間の姿はなかった――
「一見、平和そうに見えるけど……」
私にはその世界に何故か違和感を感じていた。
「最後は人間だけになった世界だよ」
目の前の世界がまた急変する――
人間だけになった未来の世界には、極度に発達した文明が広がっていた。
今の世界からは想像もつかない、便利な物に溢れている世界。
それはまるで、私が転生する前にいたような世界だった。
しかし、そこに亜人の姿はなく――
魔族がいない世界にも関わらず、人間同士の争いが何度も繰り返されていた。
「それはそうよね……」
魔族の問題が起こる前から、私達は隣国間で争い続けていた。
たとえ、どれだけ文明が発展していったとしても、人の心が成熟していかない限りは、同じような争いが繰り返される。
前にいた世界でも、それは同じだった――
「ラティ……、君はどの世界を望むのかな?」
異なった三つの世界の光景を見終わった後、エアルは私にそう質問した。
暗闇の中、目の前には光る道が枝分かれしていた。
最初に分かれしているのは、魔族がいる世界と魔族がいない世界。
そして――
魔族がいない世界の先で枝分かれしているのは、人間だけの世界と亜人だけの世界。
「まずは簡単な選択だよ。魔族がいる世界と魔族がいない世界の分かれ道。これはもう、どっちの道に行くのか決まってるよね」
「ええ……」
私の選択は――
◇
「私はどの道も選択しないわ……」
私は選択しないことを選択した。
「――どうして? 魔族のいる世界だよ。ラティもあの残酷な未来の世界を一緒に見たよね?」
「だって、私は魔族のことを、まだ何も知らないもの。あの世界は可能性の一つとしてはあり得る世界なのかもしれないけど……、私は私が見ている世界で、未来の選択はしていきたいから――」
「ふふ、ラティらしい答えだね……。魔族と遭遇した後だったら、違う答えになったのかもしれないけど――。ファレス様、試験はこのような結果になりましたよ」
エアルがそう言うと――
「そのようですね」
どこからともなく声が聞こえてきて、再び世界は一変した。
気がつくと私達は、泉のある庭園のような場所に立っていた。
「エアルの期待通りでしたね」
穏やかな声と共に、綺麗な女性が姿を現した。
初めて会ったはずなのに、初めて会ったような気がしない……
私は直感的に、この女性が女神ファレス様だと悟った。
「あなたが女神ファレス様なのですか?」
「はい、私はこの世界の女神、ファレスです」
優しい表情。
しかし、それと同時に瞳の奥には悲しみの感情が宿っているようにも見えた――
「……あの試験はいったい何だったのでしょうか?」
ファレス様に逢えたということは試験に合格したということなのだろうが、正直、何が試験だったのか私にはわからなかった――
「それでよいのです。試験の意図を知らないありのままの状態で、魔族を滅ぼす選択をしないことが、ここにたどり着くことのできる条件だったのですから」
「はい、それが私にはわからないのです。どうして、それが答えだったのかということが――」
私の性格が上手く試験と相応したので、運よくあのような選択をすることができたが、魔族が悪だというのは自明の理。
女神であるファレス様が魔族を滅ぼさないことの方が、私には逆に違和感を覚える。
「なるほど、そういうことですね。結論からお伝えしますと、それは魔族という種族が、元々は存在しない種族だったからなのです」
「……存在しない種族?」
失礼ながら、ファレス様の言っている意味が、私にはわからなかった。
現に魔族は存在している――
「魔族の元の姿は亜人です。ですから、私は女神として魔族を亜人に戻す責任があるのです……」
「え?」
――魔族が元は亜人だった?
確かに、昔の文献で、そのようなことが書いてある本も読んだことはあったが……
その時はただの創作だと思っていた。
もしかして、私はとんでもない事実を知ってしまったのかもしれない――
「では、どうして亜人が魔族に?」
思ったままの疑問をファレス様に尋ねた。
「それが私にもわからないのです……。その原因を探りたいとは思っているのですが、私は女神という立場上、この世界に干渉することができません。ですから、ここまでたどり着いた者に、その使命をお願いしたいと思っていたのです――」
「……え? そのままの意味で受け取ると、それを、私にしてくださいという意味に聞こえるのですが――」
「はい、お願いできますでしょうか」
今まで亜人が魔族になった原因は、女神のファレス様ですらわからなかったということなんだよね……
「いえ、その使命は、さすがに荷が重いです」
いくらなんでも、それは無理だ。
「確かに責任を重く感じるとは思います。――ですから、あなたには、私の力の一部を授けたいと思っています。あなた方は、今、ダークエルフの第二王子に追われているのではありませんか?」
「よくご存じで……」
「私の力を使うことで、その者を元の状態に戻すことが可能です」
「うっ……」
痛いところを突いてくる。
その力は、今最も必要としている力だ。
グランデルのことを思うとブラグラ王子を力で倒すことはできない――
しかし、永遠に逃げ続けるわけにも行かない。
「……わかりました。どこまで探ることができるかはわかりませんが――、その使命、受けさせてもらいます」
「ありがとうございます。あなたなら、そう言ってくれると思っていました」
半分脅しみたいなものだよね。
女神ファレス様の美しい笑顔を見ながら、私は心の中でそうボヤいてしまっていた――
◇
「ラティリスは、そういう選択をしたんだな……」
女神の塔に戻って、ファレス様の話を仲間達と共有し終えると、ルランドが最後にそう言った。
私と違う選択をしたからか、ルランドは複雑な心境の面持ちをしている。
「私はまだ魔族に会ったことがなかったから、それが幸いしたみたい」
ルランドは過去に魔族と対峙したことがある。
私も同じ恐怖を経験をしていたら、ルランドと同じ選択をしていたのかもしれない――
「まさか、魔族の正体が同じ亜人種だったとはな……。だとしたら、オレが今まで必死に戦ってきた敵は――」
グランデルがあまりにも衝撃的な事実に打ちのめされている。
魔族は最初から魔族という種族なのだと、誰もが思わされていたのだから仕方がない……
「あまり自分を責めないでください。たとえ同じ亜人種であったとしても、攻めて来た相手を倒さないわけにはいかないですよね」
今まで倒した魔族の中には、同族のダークエルフもいたに違いない。
でも、襲ってくる敵と仲良くなんてできないのだから、そのことで、グランデルが罪を感じる必要はない。
「ありがとう……、ラティリス」
私と話をして、少し落ち着きを取り戻したようだ。
「グランデル様――」
エスカーネがグランデルをじっと見つめている。
あ、これは勘違いされた可能性が……
後で誤解を解いておこう。
「嬢ちゃんの言う通りじゃ。仲間の命を奪おうとする者は同族だろうが関係ない。戦うしかないじゃろう? それよりも、ここでの用は済んだのじゃから、早くドワーフ王国へ向かおうではないか――」
複雑な話はどうでもよく、ワグリナは早く故郷に戻りたいようだ。
「そうね、そうしましょう」
色々と回り道をしてしまったが、私達はドワーフ王国に向かって再び歩み始めた。
女神の塔へと移動している途中、グランデルが私に話しかけてきた。
「あ、エアルは従えているんじゃなくて友達なの。ね、エアル」
「そう、ラティと僕は親友なのさ」
自然が好きな両親と登山をした時、好奇心が強かった私は山道から外れた場所へと迷い込んでしまった――
その時に出逢って、私を助けてくれたのが風の精霊エアルだった。
山の別荘で過ごしている間、楽しくエアルと遊んでいたのだが……
いつまでも山にいるわけにはいかないので、別れの時はすぐにやってきた。
今までずっと一人で山に住んでいたからか、私と離れるのが凄く寂しくなったようで――
エアルは私と一緒に山から下りることを決めたと言っていた。
私といると山から下りても何故か居心地がいいらしく、エアルとは今でも一緒に行動を共にしている。
「着きました……。ここが女神の塔です」
女神の塔へと案内してくれていたエスカーネがそう言った。
目の前には古代遺跡のような塔がそびえ立っている。
「塔の中に入るとすぐに試験は始まるけど――、結局、誰が行くのかな?」
エアルが私達に尋ねた。
「オレは当然行かせてもらう」
「……でしたら、あたしも行かせてください」
グランデルが塔に入る決意をすると、エスカーネも直ぐに手を上げた。
恋の力は偉大である――
「私も行きます。ファレス様に会えるかもしれないですし」
グランデルの弟を助けたいという気持ちも当然あるが、女神ファレス様に逢ってみたいという単純な好奇心もあった。
「それなら、俺も行く」
私を心配してなのだろう、ルランドも手を上げた。
「四人が試験に挑むということだね。みんな一緒に戻って来るわけじゃないから……、ワグリナはここで待機していてもらえるかな?」
「わかった。試験を乗り越えられなかったとしても、ワシが塔の前でお主達の帰りを待っておるからな。安心せい」
ワグリナはそう言って、塔の前にドスッと腰かけた。
「それじゃあ、案内するから、ボクと一緒に来て――」
エアルに誘導されながら、私達は女神の塔の中へと入った。
「中は意外に何もないのね……」
塔の中は単純な構造になっていて、ただ広い空間があるだけだった。
「塔の中にファレス様がいるわけじゃないからね」
「あ、そうなんだ」
塔の中に住んでいるのかと思っていた。
「みんな、広間の中央に集まってもらえる? そこでファレス様の試験が受けられるから――」
エアルに言われて、私達は広間の中央に集まった。
「……準備はいい?」
「はい」
私が返事をすると、みんなも頷いた。
「そろそろ始まるよ」
エアルがそう言い終えると、塔の天井から光が下りてきて、私達はその光に包まれた――
◇
「何も見えない……」
女神の塔の中で包まれた光が消えると、真っ暗で何も見えない世界になった。
辺りを見回すが、やはりどこを向いても何も見えない――
しばらくすると、今度は世界が明るく照らされ始めた。
徐々に光が強くなり、眩しいと思った瞬間、私の身体は炎に包まれた。
「熱っ! ……くない?」
身体が燃える。
そう思ったのだが――
炎の中にいても、熱さを全く感じなかった。
「こ、この世界は……」
破壊つくされた街に、焼きつくされた森、逃げ惑う人間や亜人が次々に殺されていっている。
「――今見ているのは、魔族が全ての大陸を支配した場合の未来の世界だよ」
絶望的な光景に圧倒され、ただただ呆然としている私に、エアルが声をかけて説明をしてくれた。
その光景は、あまりにも悲惨で、本物の世界ではないとわかっていたとしても、手で目を覆いたくなるほどだった。
「これが、魔族に支配された後の世界……」
こんな世界が現実にも起こり得る可能性のある未来だというのだろうか――
「次は亜人だけになった世界だね」
エアルがそう言うと、目の前に広がっていた世界が急変した。
今度の世界は、魔族が支配した世界とはまるで別世界――
穏やかな雰囲気に包まれた世界が広がっていた。
自然豊かな土地が広がり、各種族の亜人達がそれぞれ過ごしやすい土地に住み、のどかに過ごしている。
しかし、そこに人間の姿はなかった――
「一見、平和そうに見えるけど……」
私にはその世界に何故か違和感を感じていた。
「最後は人間だけになった世界だよ」
目の前の世界がまた急変する――
人間だけになった未来の世界には、極度に発達した文明が広がっていた。
今の世界からは想像もつかない、便利な物に溢れている世界。
それはまるで、私が転生する前にいたような世界だった。
しかし、そこに亜人の姿はなく――
魔族がいない世界にも関わらず、人間同士の争いが何度も繰り返されていた。
「それはそうよね……」
魔族の問題が起こる前から、私達は隣国間で争い続けていた。
たとえ、どれだけ文明が発展していったとしても、人の心が成熟していかない限りは、同じような争いが繰り返される。
前にいた世界でも、それは同じだった――
「ラティ……、君はどの世界を望むのかな?」
異なった三つの世界の光景を見終わった後、エアルは私にそう質問した。
暗闇の中、目の前には光る道が枝分かれしていた。
最初に分かれしているのは、魔族がいる世界と魔族がいない世界。
そして――
魔族がいない世界の先で枝分かれしているのは、人間だけの世界と亜人だけの世界。
「まずは簡単な選択だよ。魔族がいる世界と魔族がいない世界の分かれ道。これはもう、どっちの道に行くのか決まってるよね」
「ええ……」
私の選択は――
◇
「私はどの道も選択しないわ……」
私は選択しないことを選択した。
「――どうして? 魔族のいる世界だよ。ラティもあの残酷な未来の世界を一緒に見たよね?」
「だって、私は魔族のことを、まだ何も知らないもの。あの世界は可能性の一つとしてはあり得る世界なのかもしれないけど……、私は私が見ている世界で、未来の選択はしていきたいから――」
「ふふ、ラティらしい答えだね……。魔族と遭遇した後だったら、違う答えになったのかもしれないけど――。ファレス様、試験はこのような結果になりましたよ」
エアルがそう言うと――
「そのようですね」
どこからともなく声が聞こえてきて、再び世界は一変した。
気がつくと私達は、泉のある庭園のような場所に立っていた。
「エアルの期待通りでしたね」
穏やかな声と共に、綺麗な女性が姿を現した。
初めて会ったはずなのに、初めて会ったような気がしない……
私は直感的に、この女性が女神ファレス様だと悟った。
「あなたが女神ファレス様なのですか?」
「はい、私はこの世界の女神、ファレスです」
優しい表情。
しかし、それと同時に瞳の奥には悲しみの感情が宿っているようにも見えた――
「……あの試験はいったい何だったのでしょうか?」
ファレス様に逢えたということは試験に合格したということなのだろうが、正直、何が試験だったのか私にはわからなかった――
「それでよいのです。試験の意図を知らないありのままの状態で、魔族を滅ぼす選択をしないことが、ここにたどり着くことのできる条件だったのですから」
「はい、それが私にはわからないのです。どうして、それが答えだったのかということが――」
私の性格が上手く試験と相応したので、運よくあのような選択をすることができたが、魔族が悪だというのは自明の理。
女神であるファレス様が魔族を滅ぼさないことの方が、私には逆に違和感を覚える。
「なるほど、そういうことですね。結論からお伝えしますと、それは魔族という種族が、元々は存在しない種族だったからなのです」
「……存在しない種族?」
失礼ながら、ファレス様の言っている意味が、私にはわからなかった。
現に魔族は存在している――
「魔族の元の姿は亜人です。ですから、私は女神として魔族を亜人に戻す責任があるのです……」
「え?」
――魔族が元は亜人だった?
確かに、昔の文献で、そのようなことが書いてある本も読んだことはあったが……
その時はただの創作だと思っていた。
もしかして、私はとんでもない事実を知ってしまったのかもしれない――
「では、どうして亜人が魔族に?」
思ったままの疑問をファレス様に尋ねた。
「それが私にもわからないのです……。その原因を探りたいとは思っているのですが、私は女神という立場上、この世界に干渉することができません。ですから、ここまでたどり着いた者に、その使命をお願いしたいと思っていたのです――」
「……え? そのままの意味で受け取ると、それを、私にしてくださいという意味に聞こえるのですが――」
「はい、お願いできますでしょうか」
今まで亜人が魔族になった原因は、女神のファレス様ですらわからなかったということなんだよね……
「いえ、その使命は、さすがに荷が重いです」
いくらなんでも、それは無理だ。
「確かに責任を重く感じるとは思います。――ですから、あなたには、私の力の一部を授けたいと思っています。あなた方は、今、ダークエルフの第二王子に追われているのではありませんか?」
「よくご存じで……」
「私の力を使うことで、その者を元の状態に戻すことが可能です」
「うっ……」
痛いところを突いてくる。
その力は、今最も必要としている力だ。
グランデルのことを思うとブラグラ王子を力で倒すことはできない――
しかし、永遠に逃げ続けるわけにも行かない。
「……わかりました。どこまで探ることができるかはわかりませんが――、その使命、受けさせてもらいます」
「ありがとうございます。あなたなら、そう言ってくれると思っていました」
半分脅しみたいなものだよね。
女神ファレス様の美しい笑顔を見ながら、私は心の中でそうボヤいてしまっていた――
◇
「ラティリスは、そういう選択をしたんだな……」
女神の塔に戻って、ファレス様の話を仲間達と共有し終えると、ルランドが最後にそう言った。
私と違う選択をしたからか、ルランドは複雑な心境の面持ちをしている。
「私はまだ魔族に会ったことがなかったから、それが幸いしたみたい」
ルランドは過去に魔族と対峙したことがある。
私も同じ恐怖を経験をしていたら、ルランドと同じ選択をしていたのかもしれない――
「まさか、魔族の正体が同じ亜人種だったとはな……。だとしたら、オレが今まで必死に戦ってきた敵は――」
グランデルがあまりにも衝撃的な事実に打ちのめされている。
魔族は最初から魔族という種族なのだと、誰もが思わされていたのだから仕方がない……
「あまり自分を責めないでください。たとえ同じ亜人種であったとしても、攻めて来た相手を倒さないわけにはいかないですよね」
今まで倒した魔族の中には、同族のダークエルフもいたに違いない。
でも、襲ってくる敵と仲良くなんてできないのだから、そのことで、グランデルが罪を感じる必要はない。
「ありがとう……、ラティリス」
私と話をして、少し落ち着きを取り戻したようだ。
「グランデル様――」
エスカーネがグランデルをじっと見つめている。
あ、これは勘違いされた可能性が……
後で誤解を解いておこう。
「嬢ちゃんの言う通りじゃ。仲間の命を奪おうとする者は同族だろうが関係ない。戦うしかないじゃろう? それよりも、ここでの用は済んだのじゃから、早くドワーフ王国へ向かおうではないか――」
複雑な話はどうでもよく、ワグリナは早く故郷に戻りたいようだ。
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