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2話 回想 〜それぞれの想い〜
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「和音、おはよー」
「あ、鈴、おはよー」
教室に入ると、親友の鈴が挨拶してくれたので、あたしも挨拶を返した。
「センター試験どうだった?」
「うん、大丈夫そうだったよ」
「まあ、和音のことだから、心配はしてなかったけど」
「鈴のあたしへの信頼度高くない?」
「長い付き合いだしね」
鈴とは中学二年生の時からの付き合いだ。
「それで――、お兄さんからご褒美をもらうんだって言ってたけど、何か進展はあったの?」
「……あったよ」
「嘘!? ホント!! 何があったの? 聞かせて、聞かせて!!」
「急にグイグイくるね!?」
思っていた以上に鈴が話題に食いついてきた。
「だって、ずっと片想いしてたんでしょ!! 親友としては気になるよ!!」
たしかに、鈴にはお兄ちゃんとのことで恋愛相談によく乗ってもらったし――
報告くらいはちゃんとした方がいいよね。
「お、おでこにキスしてもらったの……」
「……和音はピュアだね。私はてっきり――」
鈴のテンションが急にトーンダウンした。
「ど、どういうこと?! おでことはいえ、お兄ちゃんの唇があたしに触れたんだよ!! もう、あたし昨日は興奮し過ぎちゃって、ずっと寝れなかったんだから――」
「はいはい、それ以上聞くと、真っ黒な私と比較して心が沈んじゃうからやめとくわ。私はもっとディープな内容の少女漫画も読んでるのよ」
「そうだよね。前に貸してもらった兄妹が恋愛する少女漫画も、なかなかエッチだったもんね」
けっこうドキドキしながらページをめくっていた記憶がある。
「いや、あれはまだライトな方なんだけど……」
「え?」
「あ、何でもない、何でもない」
「――それはそうと。本試験が終わる頃には、あたし達も卒業しちゃうんだね」
「あんなに早く大学生になりたいって言ってたのに、やっぱり寂しくなっちゃった?」
「早くお兄ちゃんと大学に通いたいっていう気持ちは変わらないけど。鈴とは違う大学になるし、三年間過ごした場所から離れるのは、何だかんだ寂しいなぁって」
「ふふ、別に滑り止めの大学にして、私と同じ大学に通ってもいいんだぞ」
「そうだよね。もし本命の大学に落ちちゃったら、鈴との学生生活はまだ続くもんね――。あ、でも、そうするとお兄ちゃんとの大学生活は送れなくなるのか……」
「私のことまで考えてくれるのは嬉しいけどさ。和音はシンプルに本命の大学に受かることだけを考えてればいいと思うよ」
「そうだね。鈴の言う通り、まずは第一志望の大学をしっかりと目指さないとね。ありがとう、鈴ちゃん」
「そう、私くらいは二人の関係を応援しないと――。そうしないと、私、和音のことを……」
「あたし、鈴に出逢えて本当によかったと思ってる。もし、違う大学に通うことになったとしても、ずっと、あたしの友達でいてよね」
「もちろんだよ。あたしは和音のこと、生涯の親友だと想ってるから――」
◇
「あ、新稲さん。奇遇ですね、こんな所で会うなんて」
ショッピングモールで、たまたま新稲さんに出会った。
「和音ちゃん? 今日はお買い物かな?」
「はい、もうすぐ、お兄ちゃんの誕生日なので……。――ということは、新稲さんも同じ用事ってことですよね」
「ふふ、そうだね。そうだ、プレゼントが被ったらいけないし、よかったら一緒に買い物しない?」
「いいですね」
新稲さんがお兄ちゃんに渡すプレゼントも気になったので、あたしは同行することにした。
「……前から思ってたんですけど、新稲さんって、いつも心に余裕がある感じがしてて。どうしたら、そんなに落ち着いた雰囲気になれるんですか?」
あたしとは真反対なのはわかっているが、新稲さんみたいな性格にあたしは憧れていた。
「えー、私は和音ちゃんみたいに一生懸命さが伝わる人の方が羨ましいと思ってるんだけど――」
「え、そうなんですか? あたしにも褒められるところがあったんですね……。美人で完璧な新稲さんにそう言ってもらえると、余計に嬉しく感じます」
まさか、新稲さんにそんな風に思われてるなんて思わなかった。
「私はそんな立派な人間じゃないよ。だって、現に私は和音ちゃんに嫉妬しちゃってるんだから――」
「……それって、お兄ちゃんのことですよね?」
「うん。私、ずっと考えてきたんだ。和音ちゃんとは違った魅力で、瞬の心を掴むにはどうしたらいいんだろうって。ずっと、ずっとね――」
「新稲さん……」
「そのことだけを必死に考えて頑張ってたら、いつの間にかこうなってたってだけ。でも、結局、私は和音ちゃんには敵わなかった――。やっぱり、どれだけ自分を作る努力をしても、素で魅力的な人には負けちゃうんだよね」
「そんなことないです……。全然、そんなことないです。お兄ちゃん、めちゃくちゃ新稲さんに惹かれてますよ。あたしが家族であることを利用してお兄ちゃんを引きとめているだけなんです。毎日、卑怯なことしてるなぁと思いながら、お兄ちゃんの心が新稲さんに向かないようにと考えて――。新稲さんには魅力しかないですよ。あたしに騙され続けてるお兄ちゃんがバカなだけですから」
気がつくとあたしの目からは涙がポロポロとこぼれ落ちていた。
「そうだったんだ……。今まで和音ちゃんが瞬との関係を邪魔してたんだね……」
「あっ――」
つい感情的になって、全部話してしまった……
これは新稲さんに恨まれても仕方が――
「でも、嬉しいな」
「え?」
「和音ちゃんが、私の前で猫かぶってるのは知ってたから……。本音で喋ってくれて、ちょっと嬉しかったかも。昔は本当の姉妹みたいに何でも話せてたからさ――」
どこまでこの人は心が広いのだろうか……
「新稲さんが嫌いになったわけじゃないよ。悪いのは、全部お兄ちゃんだから――」
「そうだね、きっと瞬のせいだね」
「本当、どうして同じ人を好きになっちゃたんだろ……」
「そうだね――」
◇
「今日、隣に引っ越して来た西野です。今後ともよろしくお願いします」
「これはご丁寧にありがとうございます。あ、お子さんがお二人いらっしゃるんですね」
「はい、今年から上の子が小学生になって、下の子は年中さんになります」
「そうなんですね。家の娘も今年から小学生なので、そうすると、一緒に学校に通うことになりそうですね」
「あら、それはそれは」
「新稲――」
「はーい。お母さん、どうしたの?」
「今日、引っ越して来たお隣の息子さんも、来年から小学校に通うんですって。ご挨拶してあげて」
「えー、恥ずかしいよ――」
「そんなこと言わずに、ね。新稲の方がこの辺りのことは詳しいんだから、色々と教えてあげてほしいの」
「はぁ、しょうがないなぁ……。私の名前はにいなだよ。これからもよろしくね」
「ああ、よろしく」
「よろしくお願いします」
私と瞬と和音ちゃんの関係が始まったのはこの時からだった――
「――あれから十四年以上が経ってるんだよね」
あまりにも長い期間一緒に過ごしすぎて、もはや、それは執着になってしまっているのかもしれない。
いつまでも三人で一緒にいたい……
私だけ輪から外れさせないでと――
和音ちゃんが、瞬のことを好きだと気づいたのは小学三年生の時だった。
他の友達の兄妹は一緒に登校すると恥ずかしそうにしていたのに、和音ちゃんだけは違った。
和音ちゃんにとって、瞬は傍にいて当たり前の存在で、一緒にいて恥ずかしいなんてことは微塵も思わない。
傍に同級生や上級生がいても、いつも気にしているのはお兄ちゃんの瞬のことだけ――
三人で遊んでいた時にも、多少の違和感はあったが、はっきりとしそう思ったのはその時からだった。
私は二人のことが大好きだ。
兄妹がいたら、こんな感じだったのかなぁと想ったりもしている。
でも、もし瞬と和音ちゃんが両想いで、恋人になってしまったら――
私だけが置いてかれてしまう。
それは心の底から嫌だった。
だったら、私が瞬と結ばれればいい……
瞬と恋人になったとしても、私は絶対に和音ちゃんを遠のけたりはしない。
むしろ、瞬と結婚したら、今まで以上に本当の家族として和音ちゃんのことを大切にしたいと想っている。
そのためにも――
「私は和音ちゃんに絶対に負けるわけにはいかないんだよ」
◇
父さんとの記憶は曖昧だ。
俺が小学校に通うようになる前に亡くなったらしいが――
突然の急死だった。
母さんは、父さんが仕事で残業をし続けてたから、身も心もボロボロだったのだろうと言っていた。
父さんは先が長くないと知っていたのかもしれない……
立派な家を建て、生命保険にも最高金額をかけていたみたいだった。
そのおかげで、和音と俺は苦労せずに大学まで通うことが許されている。
でも、俺らが望んでいたのは、お金に苦労しない未来じゃなかった。
父さんと母さんが今でも元気でいて、二人には俺達の成長を見届けてほしかった――
高校生、大学生、そして社会人になる姿を見てほしかった……
中学一年生の時に母さんが病気で亡くなった――
今思い返すと、あの時の俺は本当に自暴自棄になっていたと思う……
そんな俺の支えになってくれていたのは、和音と新稲だった。
母さんがいなくなった直後に、二人に何か特別なことをしてもらった訳ではない。
むしろ、変わらずに今まで通り一緒に過ごしてくれたことが俺の救いだった。
二人がいたから俺は立ち直れたし、心折れずに今の自分があるのは二人のお陰だと思っている。
家の中で辛苦を共にし、支え合ってきたかけがえのない妹の和音。
家の外でいつも心の拠りどころとなってくれていた幼馴染の新稲。
気がつくと俺は二人とも好きになってしまっていた――
◇
「ねえ、お兄ちゃん……、どうしてパパの体は冷たくなってるの? どうして、お話しできなくなっちゃったの?」
「お父さんは、天国に行ったんだって――。お母さんがそう言ってた……」
「天国ってなあに?」
「誰かのために頑張って生きた人が、最後に行く所らしいよ……」
「じゃあ、かずねも誰かのために頑張ったら、またパパとお話しできるようになるってことだよね」
「ああ、そうだな……、きっと、そうだと思う――」
あの時、お兄ちゃんと会話した内容を、あたしはいまだに覚えている。
当時、幼稚園生だったあたしは、お父さんが亡くなったという意味を、何もわかっていなかった……
そう、お兄ちゃんとお母さんが絶望し、心に大きな傷を負っていたということすらも――
お父さんが亡くなってからのお兄ちゃんは、本当にあたしに優しくしてくれていた。
それまでは、親の愛情を独り占めしようと、よく喧嘩をしてたのにね……
むしろ、今では激しかった頃の兄妹喧嘩が懐かしく思える。
あたしにはお兄ちゃんが居てくれたから、お兄ちゃんがお父さんの代わりをしてくれていたから――
だから、色んなことにも耐えられたんだと思う……
――でも、お兄ちゃんは、どうだったのだろうか?
小さい頃にお父さんを亡くして、その後、お母さんまで亡くなってしまって……
あたしも少しくらいはお母さんの代わりをしたいと思ったけど、全然ダメな妹だった。
幼馴染の新稲さんの方が、お兄ちゃんの支えになっていた。
あたしがお兄ちゃんにできることって、何なんなのだろうか……
お兄ちゃんから離れたくなくてお兄ちゃんを誘惑し、お兄ちゃん依存から抜けられないと思わせたくてお兄ちゃんに甘え続けている。
新稲さんのしてきたことと、あたしがしてきたこと、どっちがお兄ちゃんのためになっているのかは明白だった。
お兄ちゃんからの卒業――
天国にいるお父さんとお母さんに再会した時に、二人に対して誇りを持って話がしたいのなら、きっと、それが正解なのだろう……
「あ、鈴、おはよー」
教室に入ると、親友の鈴が挨拶してくれたので、あたしも挨拶を返した。
「センター試験どうだった?」
「うん、大丈夫そうだったよ」
「まあ、和音のことだから、心配はしてなかったけど」
「鈴のあたしへの信頼度高くない?」
「長い付き合いだしね」
鈴とは中学二年生の時からの付き合いだ。
「それで――、お兄さんからご褒美をもらうんだって言ってたけど、何か進展はあったの?」
「……あったよ」
「嘘!? ホント!! 何があったの? 聞かせて、聞かせて!!」
「急にグイグイくるね!?」
思っていた以上に鈴が話題に食いついてきた。
「だって、ずっと片想いしてたんでしょ!! 親友としては気になるよ!!」
たしかに、鈴にはお兄ちゃんとのことで恋愛相談によく乗ってもらったし――
報告くらいはちゃんとした方がいいよね。
「お、おでこにキスしてもらったの……」
「……和音はピュアだね。私はてっきり――」
鈴のテンションが急にトーンダウンした。
「ど、どういうこと?! おでことはいえ、お兄ちゃんの唇があたしに触れたんだよ!! もう、あたし昨日は興奮し過ぎちゃって、ずっと寝れなかったんだから――」
「はいはい、それ以上聞くと、真っ黒な私と比較して心が沈んじゃうからやめとくわ。私はもっとディープな内容の少女漫画も読んでるのよ」
「そうだよね。前に貸してもらった兄妹が恋愛する少女漫画も、なかなかエッチだったもんね」
けっこうドキドキしながらページをめくっていた記憶がある。
「いや、あれはまだライトな方なんだけど……」
「え?」
「あ、何でもない、何でもない」
「――それはそうと。本試験が終わる頃には、あたし達も卒業しちゃうんだね」
「あんなに早く大学生になりたいって言ってたのに、やっぱり寂しくなっちゃった?」
「早くお兄ちゃんと大学に通いたいっていう気持ちは変わらないけど。鈴とは違う大学になるし、三年間過ごした場所から離れるのは、何だかんだ寂しいなぁって」
「ふふ、別に滑り止めの大学にして、私と同じ大学に通ってもいいんだぞ」
「そうだよね。もし本命の大学に落ちちゃったら、鈴との学生生活はまだ続くもんね――。あ、でも、そうするとお兄ちゃんとの大学生活は送れなくなるのか……」
「私のことまで考えてくれるのは嬉しいけどさ。和音はシンプルに本命の大学に受かることだけを考えてればいいと思うよ」
「そうだね。鈴の言う通り、まずは第一志望の大学をしっかりと目指さないとね。ありがとう、鈴ちゃん」
「そう、私くらいは二人の関係を応援しないと――。そうしないと、私、和音のことを……」
「あたし、鈴に出逢えて本当によかったと思ってる。もし、違う大学に通うことになったとしても、ずっと、あたしの友達でいてよね」
「もちろんだよ。あたしは和音のこと、生涯の親友だと想ってるから――」
◇
「あ、新稲さん。奇遇ですね、こんな所で会うなんて」
ショッピングモールで、たまたま新稲さんに出会った。
「和音ちゃん? 今日はお買い物かな?」
「はい、もうすぐ、お兄ちゃんの誕生日なので……。――ということは、新稲さんも同じ用事ってことですよね」
「ふふ、そうだね。そうだ、プレゼントが被ったらいけないし、よかったら一緒に買い物しない?」
「いいですね」
新稲さんがお兄ちゃんに渡すプレゼントも気になったので、あたしは同行することにした。
「……前から思ってたんですけど、新稲さんって、いつも心に余裕がある感じがしてて。どうしたら、そんなに落ち着いた雰囲気になれるんですか?」
あたしとは真反対なのはわかっているが、新稲さんみたいな性格にあたしは憧れていた。
「えー、私は和音ちゃんみたいに一生懸命さが伝わる人の方が羨ましいと思ってるんだけど――」
「え、そうなんですか? あたしにも褒められるところがあったんですね……。美人で完璧な新稲さんにそう言ってもらえると、余計に嬉しく感じます」
まさか、新稲さんにそんな風に思われてるなんて思わなかった。
「私はそんな立派な人間じゃないよ。だって、現に私は和音ちゃんに嫉妬しちゃってるんだから――」
「……それって、お兄ちゃんのことですよね?」
「うん。私、ずっと考えてきたんだ。和音ちゃんとは違った魅力で、瞬の心を掴むにはどうしたらいいんだろうって。ずっと、ずっとね――」
「新稲さん……」
「そのことだけを必死に考えて頑張ってたら、いつの間にかこうなってたってだけ。でも、結局、私は和音ちゃんには敵わなかった――。やっぱり、どれだけ自分を作る努力をしても、素で魅力的な人には負けちゃうんだよね」
「そんなことないです……。全然、そんなことないです。お兄ちゃん、めちゃくちゃ新稲さんに惹かれてますよ。あたしが家族であることを利用してお兄ちゃんを引きとめているだけなんです。毎日、卑怯なことしてるなぁと思いながら、お兄ちゃんの心が新稲さんに向かないようにと考えて――。新稲さんには魅力しかないですよ。あたしに騙され続けてるお兄ちゃんがバカなだけですから」
気がつくとあたしの目からは涙がポロポロとこぼれ落ちていた。
「そうだったんだ……。今まで和音ちゃんが瞬との関係を邪魔してたんだね……」
「あっ――」
つい感情的になって、全部話してしまった……
これは新稲さんに恨まれても仕方が――
「でも、嬉しいな」
「え?」
「和音ちゃんが、私の前で猫かぶってるのは知ってたから……。本音で喋ってくれて、ちょっと嬉しかったかも。昔は本当の姉妹みたいに何でも話せてたからさ――」
どこまでこの人は心が広いのだろうか……
「新稲さんが嫌いになったわけじゃないよ。悪いのは、全部お兄ちゃんだから――」
「そうだね、きっと瞬のせいだね」
「本当、どうして同じ人を好きになっちゃたんだろ……」
「そうだね――」
◇
「今日、隣に引っ越して来た西野です。今後ともよろしくお願いします」
「これはご丁寧にありがとうございます。あ、お子さんがお二人いらっしゃるんですね」
「はい、今年から上の子が小学生になって、下の子は年中さんになります」
「そうなんですね。家の娘も今年から小学生なので、そうすると、一緒に学校に通うことになりそうですね」
「あら、それはそれは」
「新稲――」
「はーい。お母さん、どうしたの?」
「今日、引っ越して来たお隣の息子さんも、来年から小学校に通うんですって。ご挨拶してあげて」
「えー、恥ずかしいよ――」
「そんなこと言わずに、ね。新稲の方がこの辺りのことは詳しいんだから、色々と教えてあげてほしいの」
「はぁ、しょうがないなぁ……。私の名前はにいなだよ。これからもよろしくね」
「ああ、よろしく」
「よろしくお願いします」
私と瞬と和音ちゃんの関係が始まったのはこの時からだった――
「――あれから十四年以上が経ってるんだよね」
あまりにも長い期間一緒に過ごしすぎて、もはや、それは執着になってしまっているのかもしれない。
いつまでも三人で一緒にいたい……
私だけ輪から外れさせないでと――
和音ちゃんが、瞬のことを好きだと気づいたのは小学三年生の時だった。
他の友達の兄妹は一緒に登校すると恥ずかしそうにしていたのに、和音ちゃんだけは違った。
和音ちゃんにとって、瞬は傍にいて当たり前の存在で、一緒にいて恥ずかしいなんてことは微塵も思わない。
傍に同級生や上級生がいても、いつも気にしているのはお兄ちゃんの瞬のことだけ――
三人で遊んでいた時にも、多少の違和感はあったが、はっきりとしそう思ったのはその時からだった。
私は二人のことが大好きだ。
兄妹がいたら、こんな感じだったのかなぁと想ったりもしている。
でも、もし瞬と和音ちゃんが両想いで、恋人になってしまったら――
私だけが置いてかれてしまう。
それは心の底から嫌だった。
だったら、私が瞬と結ばれればいい……
瞬と恋人になったとしても、私は絶対に和音ちゃんを遠のけたりはしない。
むしろ、瞬と結婚したら、今まで以上に本当の家族として和音ちゃんのことを大切にしたいと想っている。
そのためにも――
「私は和音ちゃんに絶対に負けるわけにはいかないんだよ」
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父さんとの記憶は曖昧だ。
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突然の急死だった。
母さんは、父さんが仕事で残業をし続けてたから、身も心もボロボロだったのだろうと言っていた。
父さんは先が長くないと知っていたのかもしれない……
立派な家を建て、生命保険にも最高金額をかけていたみたいだった。
そのおかげで、和音と俺は苦労せずに大学まで通うことが許されている。
でも、俺らが望んでいたのは、お金に苦労しない未来じゃなかった。
父さんと母さんが今でも元気でいて、二人には俺達の成長を見届けてほしかった――
高校生、大学生、そして社会人になる姿を見てほしかった……
中学一年生の時に母さんが病気で亡くなった――
今思い返すと、あの時の俺は本当に自暴自棄になっていたと思う……
そんな俺の支えになってくれていたのは、和音と新稲だった。
母さんがいなくなった直後に、二人に何か特別なことをしてもらった訳ではない。
むしろ、変わらずに今まで通り一緒に過ごしてくれたことが俺の救いだった。
二人がいたから俺は立ち直れたし、心折れずに今の自分があるのは二人のお陰だと思っている。
家の中で辛苦を共にし、支え合ってきたかけがえのない妹の和音。
家の外でいつも心の拠りどころとなってくれていた幼馴染の新稲。
気がつくと俺は二人とも好きになってしまっていた――
◇
「ねえ、お兄ちゃん……、どうしてパパの体は冷たくなってるの? どうして、お話しできなくなっちゃったの?」
「お父さんは、天国に行ったんだって――。お母さんがそう言ってた……」
「天国ってなあに?」
「誰かのために頑張って生きた人が、最後に行く所らしいよ……」
「じゃあ、かずねも誰かのために頑張ったら、またパパとお話しできるようになるってことだよね」
「ああ、そうだな……、きっと、そうだと思う――」
あの時、お兄ちゃんと会話した内容を、あたしはいまだに覚えている。
当時、幼稚園生だったあたしは、お父さんが亡くなったという意味を、何もわかっていなかった……
そう、お兄ちゃんとお母さんが絶望し、心に大きな傷を負っていたということすらも――
お父さんが亡くなってからのお兄ちゃんは、本当にあたしに優しくしてくれていた。
それまでは、親の愛情を独り占めしようと、よく喧嘩をしてたのにね……
むしろ、今では激しかった頃の兄妹喧嘩が懐かしく思える。
あたしにはお兄ちゃんが居てくれたから、お兄ちゃんがお父さんの代わりをしてくれていたから――
だから、色んなことにも耐えられたんだと思う……
――でも、お兄ちゃんは、どうだったのだろうか?
小さい頃にお父さんを亡くして、その後、お母さんまで亡くなってしまって……
あたしも少しくらいはお母さんの代わりをしたいと思ったけど、全然ダメな妹だった。
幼馴染の新稲さんの方が、お兄ちゃんの支えになっていた。
あたしがお兄ちゃんにできることって、何なんなのだろうか……
お兄ちゃんから離れたくなくてお兄ちゃんを誘惑し、お兄ちゃん依存から抜けられないと思わせたくてお兄ちゃんに甘え続けている。
新稲さんのしてきたことと、あたしがしてきたこと、どっちがお兄ちゃんのためになっているのかは明白だった。
お兄ちゃんからの卒業――
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