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第二章 メモリー&レイルート
触手プレイとは分かってらっしゃる。
しおりを挟む人生何が起こるか分からないものだ。一寸先は闇かもしれないし、光かもしれない。ただ現実は小説より奇なりという言葉があるように、全く予想だにしない出来事だって起こる。
いや、正しく言えばここは“現実”じゃない。目の前に起こるそれは現実のことであるが、この世界は仮想であり、現実から逸脱したゲームの世界だ。
この世界では、美少女達と共に過ごし、戯れ、時にハッピーなイベントが起こったりする。と同時に、現実世界ではまず起こり得ないアンハッピーなイベントも起こることがある。例えば怪人の襲来等がそうだ。
…そう、今まさにそのシチュエーションだ。超巨大なイカの怪人の襲撃。大木のように太い十本の足をくねらせ襲いかかる。
「くっ……た、助けて。」
そして先程そのイカに襲われ、悲鳴を挙げていた主は中央の国代表カナだった。丸太のような足に身動きを奪われ、苦しそうな声を上げている。
「くそっ、カナ!!今助け…。」
「駄目です!!チロさん!!あの怪人はかなりの強敵です!!チロさんは逃げてください!!」
「で、でもカナが……。」
「それは私とユキ様にお任せください!!大丈夫です、絶対助けますから!!」
「だ、だけど………。」
「えーい!!もう焦れってーな!!レイ!そいつを安全なとこまで誘導しろ!!私が何とか時間を稼ぐ!!後から合流しろ!!」
「は、はい!!分かりました!…ではチロさんこちらへ。」
そう言われ、半ば強引に腕を引っ張られこの場を後にする。カナの事は気がかりだが、自分ではどうしようもないことも分かっている。自身の力不足を嘆きながらレイの後を追った。
「…一応、服の方はこれを羽織っていただければ。」
そういえば自分が今裸だということを忘れていた。おのれイカ野郎、折角の美少女とのお風呂イベントを潰しやがって、絶対に許さん。
そしてレイから受け取った寝巻き浴衣のような物を羽織る。多少動きづらいが、着やすいというのもあり、俺は身に纏って走り出す。それに全裸で走り回るわけにもいかないからな。
避難経路だという道を、レイの指示に従って走っていく。だがこの城、中々広い。かなりの距離を走ったが一向に脱出口にたどり着く様子が無い。
「おいおい、避難経路ってもともと迅速に外に出るためのものだろ?まだ出口に着かないのか?」
「御免なさい、近場の脱出口は全て巨大イカが現れた方面にあるのです。ですから多少遠くなりますが別の出口から出ましょう。」
「そうなのか。」
俺はレイの言うことを渋々受け入れる。もうかなり走ったろ?多少って距離じゃないよね?だがそんな愚痴を言っても無駄だと分かっているので、俺は重い足を頑張って動かした。
だが少し妙な感じがした。あのイカ野郎が出現した場所。怪物だから知性が無いと考えていたが、俺たちの脱出経路を塞ぐかのように現れた。それは故意なのか、偶然なのか分からない、しかし近場の出入口は全部破壊された。果たしてこれは偶然なのだろうか。
そもそもこの城のセキュリティに問題点があるのでは無いかとそんな事を考えていた時だった。
「う、うわぁ!!!」
曲がり角をまがって、その出会い頭、あの巨大なイカの怪人が待ち伏せていた。
その足には先程捕らえられたカナと、戦っていたユキが裸のまま、巨大イカが器用に足を使って、二人は恥ずかし固めのような体勢にさせられている。
普段であったらイカグッジョブ!とか、触手プレイとは分かってらっしゃる、とか思っていたんだろうが、今は生憎、俺も命を狙われているような状況なのでそんな事は言ってられない。
「クソッッ!!離しやがれ!!」
「く、来るな、来るな…。」
ユキが巨大イカの足を振りほどこうとするが、巨大イカは離れない。レイも腰が抜けてしまい、動けない状況である。
絶体絶命な状況下だが、頼れるものはいない、頼れるのは自分だけだ。巨大イカがチロに触手をのばす。もう完全に死を覚悟した。
だが、ただで死ぬわけには行かない。刹那、そう思ったチロは拳を握った。恐怖で目を開けられないが、その拳を全力で巨大イカにぶつける。
「もう、どうにでも成りやがれッッ!!」
喧嘩など全くしたことがない俺の、ヘナチョコフォームのパンチ。それでも自分の持ってる力を全て使ったマジ殴りだ。
そして思いっきり振り切った拳は見事イカに命中する。手にヌメっとした嫌な感触がする。
「ギッシャアアアアア!!!!」
急に甲高い叫びのような声が響き渡り、俺は肩を震わせる。そして恐る恐る、俺は目を開けて今の状況を確認する。
するとさっきまで俺を襲おうとしていた巨大イカはすっかり延びてしまっている。そして俺の拳を見ると、その拳はイカの目を的確に潰していた。
イカは完全に息絶え、開放されたユキとカナがこちらに近づいてくる。
「チローッッ!!!!」
「うおっ!」
カナが勢いよく駆け寄ってきて、チロを抱き締める。体に柔らかい物が触れた感触がする。しかも裸なので鮮明にだ。
「やっぱりお前はやるときはやるヤツだって信じてたぜ。」
そう言って前も隠さず豪快に笑うユキ。しかし俺は忘れていない。皆俺を足手まとい扱いして厄介払いするように俺を扱ってたことを。
まあでも、今回は奇跡みたいな物だ。結果的には良かったが、もしかすると全滅だったかも知れない。別に俺が凄いわけでなく、きっと神様のいたずらか何かだろう。ありがとう神様。
「レイ、お前どうしたんだ?」
「すいませんユキ様、恥ずかしながら腰を抜かしてしまいまして。申し訳ありませんがチロさん、少し手を貸してくれませんか?」
「ああ。」
レイにそっと手を差し出す。だがその時、チロの溜まっていた緊張や疲労が一気にきて…。
「お、おえええぇぇぇ!!」
「ちょっ、ちょちょちょ、チ、チロさんっ!!!!だ、大丈夫ですか!!!!」
思いっきりキラキラをぶちまけてしまう。だが安心してくれ、レイにかけるような真似はしていない。
レイは一生懸命俺の背中を擦ってくれている。ああ、本当にいい娘だなあ。
だんだん意識が遠退いていく。ああ、これじゃあいきなり嘔吐して気絶して、完全にヤバイ奴じゃん、俺。
確か最後に思ったのはそんなことだった。そして俺は気を失った。
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