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第二章 メモリー&レイルート

俺の心はアルカディア

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 桃源郷というのは、その昔に中国の漁師がどこまでも続く渓谷を船で奥へと進んでいき、気づいたら辺り一面に桃の花が咲き乱れる場所にたどり着いた。という噺からその場所を桃源郷と呼ぶようになったのだとか。

 そして今、俺の視界に映るのは、豊かに実った桃の果実と優美な景色。正に、先程説明した桃源郷の如き景観の場所に俺はいる。

「はぁ~、いい湯だな~。」

「そうね、景色もとってもいいわね。」

 ああ、本当にいい景色だ、正に眼福。

 俺は今三人の美少女と湯船を共にしている状況である。

 金髪美人の北の国代表、ユキにその側近のレイ。そして中央の国代表のおてんば娘、カナの三人だ。

 6つの果実に胸踊らされ、俺の心はアルカディア。桃源郷の如く素晴らしく輝いている。

「それにしても凄かったな、アンタの最後の送球。マジでヤバかったぜ。」

「ふふ、ありがとう。でも貴方の方が全然凄いわ。私はあんな速い球投げられないもの。」

 和気藹々と話し合っているのはそれぞれ北の国と中央の国代表、ユキとカナだ。

 試合中は仏頂面で近づきがたい雰囲気を醸し出していたユキであったが、カナに対してはどうにも馬が合うようで、お互いに楽しそうに試合の出来事などを語り合っている。

「私、勝負事になるとどうにも熱くなっちゃうんだよな、悪かったな、喧嘩腰で。」

「いいわよ全然、寧ろ良いことだと私は思うわ。真剣に何かに取り組めるって。」

「へへ、ありがとな。今度の世界対戦でもお互い頑張ろうぜ。」

「そうね、頑張りましょう。」

 代表二人がガールズトークに花を咲かせる中、ここにいる俺以外のもう一人、空色髪の眼鏡っ娘、レイ。さすがに風呂場では眼鏡はかけていないが、レイは俺や代表二人からは離れた場所で一人でいる。

 カナとユキの会話には一才交ざること無く、外の景色を眺めている。

「…………。」

「おい、お前!!」

「は、はい?!」

 そのレイがユキに呼ばれ、驚きながら振り返る。

「お前もだ、黒髪!!」

「えっ?俺?」

 そしてレイ同様、会話に交ざらず一人黄昏てた俺も、ユキに呼ばれ慌てふためく。

 さらにユキは俺の肩に手を回し、俺の体を引き寄せる。ユキの豊満な胸が俺の体に触れる。

「ちょっ、む、胸が…。」

「あ、胸?そんな気にすんなよ、女同士だろ?」

 違うんだよなあ、まあ部分的にそうではあるが、男です!!とは答えられないし、自分は男だと言った矢先であるが、事実男でありながら女でもあるわけだし、状況に応じて男だったり女だったりしよう。そもそも男が女湯入ったらアカンし。

「お前ら二人揃って何端っこの方でぼんやりしてんだ。折角の機会なんだからもっと話そうぜ?」

「いや、ですが…私、人と話すのが、苦手でして…。」

「そりゃあ分かってるよ、私の側近だからな。でも黒髪、お前は試合中はあんなに威勢張ってただろうが、それとも何だ、レイのことが嫌いか?」

「いやいや全然!!そんなことは無いっすけど、自分ちょっと人見知りでして…。」

「何だよ、試合中あんなにギャーギャー騒いでたくせに。」

「はは…、まあそうっすけど…。」

 正直試合の時は集中していて、回りの目を全く気にすることはなかったが、基本的に俺は話すとき相手の目を気にしてしまう。自分の事をどう思っているかとか、そんなことを考え、口ごもってしまうのだ。気が置けないカナや守護者たちとは難なく話せるのだが、どうもよく知らない相手に対しては視線を気にしてしまう。

「……はい!!じゃあトークテーマ、“お互いの良いと思う所”で会話すること、まずレイから!!」

「え、えっ?私ですか?」

 いきなり話を振られ、困惑するレイ。いかにも適当に決めたようなトークテーマで話を強要され、恥じらいで彭を赤らめながらも真剣に考えている。

 こういう陽キャのノリは俺は好きではないが、今回ばかりは俺自身もレイと話したいとは思っていたので、この状況をつくってくれたユキには感謝したいと思う。

「……そうですね、チロさんは、…試合を見た限りでは、明るくて、とても優しい方という印象です。」

「……何かつまんねぇな、差し障りなさ過ぎて。」

「い、いや!でも、……ちゃんと本心でそう思っているので…。」

「ふふふっ。」

 レイの俺評にユキがダメ出し、それに対して笑うカナ。俺的にはレイが精一杯、俺に対しての印象を好意的に話してくれて、尚且それを本心と言ってくれたのが堪らなく嬉しく感じた。

「じゃあ次、黒髪。」

「あー、えーっと、……前から思ってた事なんですけど、……何か凄い真面目で常識的で、空気も読めるし、結構人を思いやって行動してるなーって…。まあ、何というか、……お嫁にするならこんな人がいいなーって感じ?ですかね…。」

「おー、いいねー。お嫁にするならか。……まあ、譲らねぇけど。」

「あ、ありがとうございます…。」

 俺のスピーチは、まあ好評だったようで、ユキはスピーチに対しては評価してくれたが、レイは譲らないと敵意を剥き出しにし、レイは顔を真っ赤にして、その顔を両手で隠し、カナは少し寂しそうな顔をしている。

 その後はレイとの距離は少し縮まり、側近同士で、お互い差し障り無い世間話をしていた。

 ーーその時だった。

 急な爆発音、風呂場の壁が崩れ瓦礫が散乱する。

 飛び散る瓦礫を代表者とレイ達は素早くかわす。チロは壊れた壁から即座に距離をおき、事なきを得る。

「い、嫌ッーーッ!!」

 悲鳴が響き渡る。だが砂塵が舞い、視界が覚束ない。何が起こってるのかを全く理解することが出来ない。

「畜生、一体何が起こってるんだ…。」

 ようやく砂塵が収まり、壊れた壁の億から現れたのは……… 

「何だ、あれ……。」

 ……巨大な、イカような姿をした化け物だった。
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