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SS5 新型ジルコンとして強要される戦い
しおりを挟む敏雄は、今、白い部屋にいる。
病室のような真っ白でベッドとトイレ、小さな机と椅子だけの部屋だ。
そのベッドの上で、敏雄は足を抱えて座り込んでいた。
研究者の大人達の言葉が信じられないのだ。
アンバーは、《GAEA》の燃料。
そしてジルコンは、燃料にできないアンバーの亜種を改造したモノ。
アンバーは、《GAEA》計画の時に同時に開発された燃料として創られた人口生命体。
つまり……、世の中で悪とされているクリエイターは……。
信じてきた全てが打ち砕かれたような気がして、敏雄は絶望の淵にいた。
「山内敏雄君。」
「……なんすか?」
そこへ、部屋に入って来たのは、40代くらいの白衣の男だった。
「僕の名前は、由川千治(ゆかわ せんじ)。今日から、君の担当医になったんだ。よろしく。」
「なんすかそれ…。」
「ようするに、君の観察だよ。君は、世界でたった一機しかいないプロトタイプと融合したんだ。これから先、身体がどうなっていくのか分からない。担当医師というのはあくまで建前だけど、いわば君の観察と上からの命令を伝える役目を僕は任されたんだ。」
「……なあ…。」
「ん? なんだい?」
「幸香は…、無事なんだろうな?」
「それは君次第さ。」
「どういうことだよ!」
敏雄は、体制を変え噛みつかんばかりの勢いで叫んだ。
「人質だよ。」
なんのことはないと言いたげに由川は答えた。
敏雄は、言葉を失った。そんな敏雄に追い打ちを掛けて淡々と由川が話す。
「君は、これから新型ジルコンとしてアンバーと戦い、アンバーの核を《GAEA》に供給するんだ。」
「なっ…。」
「君に拒否権はない。もし拒否するなら、君の言う幸香という少女は…、分かるよね?」
「あんたら…!」
敏雄は拳を握りしめ、怒りに震えた。
「仕方が無いんだよ。これは、平和のため…、馬鹿と周りから言われているらしい君だって理解しているはずだ。アンバーの問題こそあれ、《GAEA》がもたらす人類史上最高の平和を。」
「なにが平和だよ! アンバーなんてもん創らなきゃよかったんじゃないか!」
「表向きは、《GAEA》の燃料は、《GAEA》から抽出される資源なんだよ。つまり、ゴミ。まさかアンバーが燃料だなんて知られてごらん? どうなるか、想像してごらん。」
「……それって、絶対に黙ってろってこったろ!」
「そういうこと。成績が悪いようだけど察しが良くて助かるね。」
由川は、パチパチと拍手して微笑む。
敏雄は、今すぐこの男を殴り倒したい衝動に駆られるが、それをしても無意味だと理解しているため堪えるしかなかった。
「君達は、昨日をもって、表社会からその存在を抹消された。つまり、帰る場所は、もうここしかないんだ。」
「んな!?」
「……君達の育て親である孤児院の院長は、ずいぶんと悲しんでいたよ。君達の葬儀でね。」
「てめぇら……! 俺だけじゃなく幸香まで!」
「表向きは、校外実習中にアンバーに殺害されたということになっているんだ。遺体は溶かされ残っていない。だから棺が空でも問題はなかった。上もそのタイミングの良さを喜んでたよ。」
「くそったれ!」
「存分に文句を言っても構わない。だけど、戦って貰わないと困るんだ。君達の死を悼んだ人々が、明日にもアンバーに殺されるかもしれないんだよ? それでも戦わないと?」
家族同然の孤児院の仲間や、学校の友人達などを引き合いに出され、敏雄はビクッと震えた。
「新型ジルコンとして……、戦ってくれ。それしかないんだ。君には。いや…、君達か。」
「……きみたち?」
「そうだ。君には、これから後に君のデータを基に、量産型のジルコンを使って君と同じようにジルコンと合体・融合した仲間ができるんだ。その実験はすでに始まっている。」
「あ、…あんたら……!」
「勘違いしないで欲しい。君と違って、事故でもなんでもなく、志願者を選んで新型ジルコンのするんだ。」
「しがんしゃ…!」
「アンバーを憎み、大切なモノを守りたいと願う人間は多い。目の前にそのための力があると知れば…、当然だが食いつくさ。量産型のジルコンは、500体中、すでに100機以上が破壊されててね、新型ジルコンになれるのは、おそらく最初の数をずっと下回るだろう。失敗する可能性もあるからね。これから先、ジルコンの研究機関は、新型ジルコンに量産を視野に入れて励むだろう。どうかな? 少しは気持ちは落ち着いたかな? 仲間ができるんだから。」
「……それでも…、俺も戦わないといけないっすよね?」
「当然だ。君は、1体しかいないプロトタイプとの合体・融合機(ゆうごうき)だ。戦わずにいるという選択肢はない。そうだね…、もし戦わないという選択を取るのだとしたら…、君に待ち受けるのは、間違いなく、人体実験だけだ。」
「……戦って死ぬか…、実験で解剖されて死ぬか…、だな?」
「察しが良くて助かるね。」
「……約束しろ。」
「なんだい?」
「幸香だけには…、絶対に手を出すな! 何が何でも無事な状態にしろよ! 死なせるなんて真似も! 怪我も病気もだ!」
「……それは、君次第だよ。敏雄君。」
由川は、敏雄からの睨みを真っ向から受け止めるように見つめていた。
「そうそう。君は、確かに自由はないが…、幸香という子と自由に会うことは可能だ。お互いに近況を話して、励まし合うといい。今頃、彼女にも君についての説明が行ってるいるはずだからね。」
「…そうか。」
それを聞いて、敏雄はホッとした。
いつでも幸香の無事を確認できるなら…っと、妥協し始めている己がいた。
アンバーは、憎い。図らずも力を手に入れたことが、今まで応援することしか出来なかった敏雄に、先の見えない闇のような新しい道を作った。アンバーを命ある限り殺し続けるという復讐という恐ろしくも悲しい道を。
幸香には、多大な迷惑を掛けてしまった。しかし、若さ故に、それ以上に心が高揚し始めていた。
この手で、アンバーを殺せるという暗い希望によって。
16歳の少年、山内敏雄。
16歳の少女、苅野幸香。
この両名は、人類社会から抹殺され、そして人類社会のために戦うことと、それをやらせるための人質とされ、生かされた。
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