鬼神伝承

時雨鈴檎

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序章

戦の匂ひ

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「また明日」
「うん、また明日」
赤灰色の髪を持つ少年は、後ろから声をかける黒髪の少年に、振り返ると黒いマスクを外して笑いかけ手を振る。
黒髪の少年は姿が見えなくなるまで、赤灰色の髪の少年を見送り続けた。

死体、壊れた武器、爆ぜた火薬の匂い、何も動く者がいなくなったその場所で一人の男がゆっくりと体を起こした。
体には多くの武器が突き刺さり、その姿を見るものがいれば何故生きているのだと問われただろう。
男は無数の己を貫く刃を引き抜き投げ捨てると血を吐き出す。ふらつきながらも立ち上がれば近くに横たわる人間に顔を近づけた。すんっと鼻を鳴らして匂いを嗅ぐとそのまま口を開けて、死体に歯を立てる。
ぐちゃり、ぶち、ばきりと肉と骨が砕かれる音を響かせながらゆっくりと死体を食んで行く。
一人食べ、二人食べ…次々と周囲の死体を食べていく。戦場にあったゆうに千は超えたであろう死体は気づけば全て彼の腹の中に収まっていた。その場に残ったものは、ただ戦場であったという大量の血と、壊れた武器と死の匂いだけ。
「また…明日」
ぼんやりと空を見上げる。月明かりに照らされた男の顔の半分は黒い艶やかな鱗に覆われ、光を受け奥に光る瞳が金色に輝いていた。
色の違う二色の瞳に月を写した男は、掠れた声で静かに小さく呟くと空に向けて手を伸ばした。
「明日とはいつ来る…?」
ぼんやりとする記憶の中で笑う赤灰色の髪の少年の姿を探して目を閉じる。つん…と鼻に嫌な匂いが届く。男はゆっくりと目を開き、はるか遠くを見つめ静かに憎悪に瞳を揺らし表情を険しくする。
「あぁ…争いが始まる…」
ペロリと舌なめずりをするとみるみるうちに姿が変化する。人間など一飲みにできそうなほどの大きな黒い龍に姿を変えた。周囲を震わせる大きな咆哮を上げ、ばさりと翼を動かせば、空高く舞い上がり匂いのする方へ飛んだ。
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