鬼神伝承

時雨鈴檎

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第二章

出立

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鉄扇、琉木を含め5人で宴を催し、食事を済ませ、ぐっすりと暖かい布団で休んだ3人は翌日旅路に立つ。
「うぅ…頭がいたい」
「初めて飲んだからね、慣れてないのかも」
翌朝、起きて早々頭を抑えて眉を寄せる戦鬼に、隣で起きた門桜はくすくすと笑う。
「あの水、か」
「お酒ね、私も慣れるまではよく朝になるとそうなってたかな」
喉がひりつくような水を思い出して、あまり飲んだ記憶はないんだがと首をかしげる。
「いいや、飲みすぎだ…気づかなかった俺も悪いが、酒はあんなグビグビ行くもんじゃない」
先に起きて部屋に入ってきた空牙は呆れたように、肩をすくめて水を差し出す。
「酒樽開けたんだよ?ちっとも表情も変わらずに飲むんだもん…」
そういえば、空になるたびに鉄扇に水…酒を注がれていた気がすると呟くと、二人からため息が漏れる。
「さていけそうか?無理ならもう一泊…今度は酒抜きで頼むが」
「いや平気だ、楽になった」
水を受け取り、一気に流し込むと冷たい水が喉を通り抜け、頭がすっきりとしてくる。
「そうか、なら二人に伝えてくる。お前たちは荷物をまとめて準備しておけ」
戦鬼の様子に頷くと、空になった湯呑みを受け取り部屋を出て行った。

「そいじゃぁまた、空牙さんの下は大変だとは思うが戦鬼、門桜気いつけてな」
「はい、お元気で」
「お世話になりました。」
「失礼なやつだな…まぁいい世話になった、また来る」
鉄扇と琉木に見送られた3人はそれぞれ挨拶を交わすと、店を後にする。

「とりあえず暫くは、お前の過去探しだな」
街を通り抜け、洞窟へと戻ってきた空牙は街への入り口を閉じながら呟く。
「俺の過去…?」
「正確には、戦鬼になる前の二人の事」
空牙の言葉に首をかしげる戦鬼に門桜が、説明を付け足す。
「あぁ……」
「力を無理やり従える方法を取らないとなれば、その過去と向き合わんとな」
納得したように頷いた戦鬼に、困った方法を取ると溜息を吐きながら苦笑いを浮かべる。
「手始めに、昔二人が住んでた場所へ行ってみますか?」
「そうだな、しかし、俺の持ってる地図じゃ地形変動や戦争だとかで大分変わってるからな…古すぎて使えん、とりあえず新しい地図を得ねば」
近くの人里に入ろうと空鬼が提案し、最も近い街へ向かうことにした。
「町に降りる前に、これをつけろ…その目はそのままだろ?」
黒い文字の書かれた眼帯を差し出すと、鱗を纏う側の目を指す。
「龍人族と言い張ればできなくもないが…鬼狩りどもには通用せん、それで鬼の気ごと隠す」
「戦鬼の気は特に強いから…多分すぐに嗅ぎ付けられるよ」
門桜は笑いながら、眼帯を受け取ってじっと見る様子に貸して、と取ると後ろに回りつけてやる。
「しばらくは片目の違和感になれないかもだけど、そのうち気にならなくなるから」
つけ終わると背中をとんっと叩き、マスクをあげて口元を隠して荷物を持つ。
「門桜も…なのか?」
「私のは少し違うかな、この口元だと目立つから」
戦鬼の問いに首を振り、再びマスクを下ろして尖った歯を見せ、すぐもどすとくすりと笑う。
「準備ができたなら行くぞ」
洞窟を出て行く空牙は、話をする二人に入り口から声をかける。
弾かれたように、二人は顔を見合わせて返事をすると、荷物を掴み忘れ物がないか洞窟内を見回してから後を追いかけた。



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