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魔道具研究の日々

憧れてるの!って、ええ!?

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「もう!ノル!お腹ぺこぺこで死ぬかと思ったじゃない!」

「す、すまん」

「あ、私はこいつの片割れのフローラよ。フロラって呼んでね?で、この隣が夫のチャールズよ。子供が1人いるのだけど、また今度遊んであげて。五歳の可愛い男の子よ!名前はクリストファー。クリスって呼ぶと喜ぶからね!あ、私そっくりで瞳が黒いの!うふふ」

「は、はい。アシェル・ランベルツです。よろしくお願いします」

 ルイスさんの自室(だったらしい)から3人で出て食堂へと向かうと、ぷりぷり怒っているフロラさんとそれを宥めるチャールズさんが大きな円形のテーブルに座って待っていた。

 僕達が座る前に早々と自己紹介をしたフロラさんはぷりぷりしていたのに、ニコニコして僕を見てきた。

 順番は1番奥にルイスさん、ルイスさんの左隣にオリー、ルイスさんの右隣にフロラさん。オリーの左隣に僕で、フロラさんの右横にチャールズさんが座っていた。奥に小さな椅子が一つ壁につけられて置いてあるため、あれが子供の椅子なのだろうと予想ができた。

 僕はオリーに連れられて椅子に座ると正面にいるフロラさんに目線を向けた。フロラさんは僕の視線に気がつくとニッコリ微笑んで隣にいるチャールズさんに何かを耳打ちした。チャールズさんは一つ頷くと僕達に声をかけてきた。

「やあ。初めまして。僕はチャールズ・シャルムだよ。チャーリーって呼んでくれて構わないからね。もう家族だし。で、今はフロラの正室で、今のところ増える予定はないって聞いてるけど、愛おしいフロラが他の男に抱かれるなんて嫌だから領地経営を頑張ってるところさ。よろしくね」

 チャーリーさんはニコッと僕達に優しく微笑むとルイスさんに目線を向けた。

「と、いうことで…2番目なんて必要ないですからね?やめて下さいよ?」

「わかったわかった。ただ、フロラの美貌によってくる虫が多くてな。振り払うのも大変なんだぞ?」

「そこをなんとかするのがお義父上の手腕でしょう?!クリスが生まれたのに釣書がいまだに届いて…見るたびに…」

「もう。大丈夫だってば。私はチャーリー以外の夫はいらないって言ってるでしょう?一緒になって20年経っても同じことを言ってるのね。もう、可愛い人」

 フロラさんとチャーリーさんはウットリとお互い見つめ合うと、チュッチュッと啄むような口付けを始めた。

 毎度のことなのかテーブルの上に料理を並べる使用人達もルイスさんも、オリーも、2人が口づけあっている様子を気にしていないようだった。

 僕が呆気に取られていると、隣にいるオリーが艶やかな声で耳打ちしてきた。

「あの2人は毎回あれだからな。俺たちは家が近所で幼馴染なんだ。チャーリーは伯爵家の次男だ。あの2人は小さい頃から仲が良くてな、その縁で結婚したわけだ。チャーリーが少しばかり黒に近いから子供がなかなか出来なかったのもあって時間があれば閨事だったな。クリスが生まれてからは…まぁ、俺があまり帰ってないから状況は知らんが、あれを見る限り変わってなさそうだ。毎度2人を見たびに微妙にイライラしたのもあって家にあまり寄り付かなかったが、お前がいると思うと対抗意識が出てくるだけでイライラはしないな。むしろ俺たちもするか?」

「やめてよ!もう!だめ!」

「ちっ。じゃあ夜にな」

 ヒソヒソとお互いに声を掛け合ってオリーは拗ねたような声を出すと、僕の頭に軽く口付けてからルイスさんに話しかけた。

「父上」

「ああ。わかったわかった。ほらそこの2人食事が冷める。やめなさい」

「「はーい」」

 ルイスさんは苦笑いしながらフロラさん達に声をかけると、2人はチューっと長めに口付けてから渋々唇を離した。

(本当に夫婦仲がいいんだな。ルイスさんもチャーリーさんも仲がいいし、昔から良い関係だったのかな)

「では、食事にしよう。ああ、アシェル君。作法など気にせず食べて下さいね?」

「は、はい」

 ルイスさんは僕に話しかける時だけ口調が変わるようだった。敬語なのだけど少し柔らかくて、優しく微笑む顔とよく合っていた。

「では、世界の神々に感謝を。いただきます」

「「「いただきます」」」

「い、いただき、ます?」

 ルイスさんの号令で、皆は料理の前で手を合わせて祈りのようなものを言ってからフォークとナイフを手に持って食べ始めた。僕は真似るように言葉を紡ぐとフォークとナイフを手に取って料理を食べ始めた。

(美味しい!一つ一つが丁寧に作られてるのがわかる!野菜も甘い…採れたてかな…)

 モグモグと料理を食べていると、僕以外で賑やかに話を始めた。

「もう。それにしてもアシェル君可愛すぎない?小動物みたいだわ」

「確かにね。なんとも庇護欲をそそられる容姿だ」

「あの色合いは神の祝福だろうな。白の髪とは…本当に素晴らしいことだな」

「父上。変に狙うような目で見るのをやめて下さい。もう貸し出しはしません」

「わかったわかった。しかし、どうにもマイカを思い出してな。ああ、今夜は私の部屋に誰も訪ねてこないように」

「またお母様の下着使うの?やだぁぁあ!」

「僕にもくれてもいいんだよ?領地に行くときにはかどるし」

「もう、チャーリーったら…何枚もあげてるでしょう?」

「何枚もらっても足りないよ」

「父上もフロラ達も食事中に下品だぞ。全く毎度毎度…」

 それぞれが好き勝手に話してオリーが諫めている様子が少し新鮮だった。オリーが時々下品なのは家族がこんな感じだからなのだろうか。

 僕はそれぞれが話すことをモグモグと口とを動かして、邪魔だけはしないように心がけた。何も話さずに最後に出てきたパウンドケーキとお茶がテーブルに並んだ頃にルイスさんに声をかけられた。

「味はどうでしたか?」

「とってもおいしかったです!野菜も甘くて、お肉も柔らかくて。ソースなどの味付けもちょうど良かったです」

「それは良かった。食べ物が合わないと辛いですからね。ふふ」

 ルイスさんは優しく微笑んでお茶を一口飲むと、カップをソーサーに置いてからその場にいる人達に伝えるように口を開いた。

「明後日、マイカの祈りの間に2人を連れて行く。フロラ達も久しぶりに来るか?」

「うーん。明後日は親子3人で過ごす予定なのよね。クリスがお勉強ばっかりで飽き飽きしてるみたいだから気分転換に庭でお茶でもしようと思うの」

「そうか。では、3人で行くか。ノル、いつもの時間だからな」

「はいはい。正午ですよね?わかってますよ」

 ルイスさんは伝達事項を伝えると、一つ頷いてから僕を見つめた。そして流れるように目線をオリーに向けて話しかけてきた。

「2人の子供がという話を聞いた。方法はわかってるのか?」

「いえ、方法はわかっていないですが…祈りの間で教えていただけるそうです。ただ、俺たちでは子は産めないので…」

 オリーは話しかけてきたルイスさんに返答して、スッと目線を下に伏せた。その様子を見たフロラさんが興味深そうな声で僕達に話しかけてきた。

「え?なに!?2人に子供ができるの!?すごーい!」

「ああ。あの石を使ってな…」

「お母様の石?なるほどね。で、何につまずいているの?」

「子供を産む…代理の母についてだな」

 オリーがボソリと呟くと、フロラさんはニンマリと笑って僕達を見つめてきた。

「つまり、代理の母が必要な方法なのね?…まるでお母様みたいな感じね!」

 フロラさんはチャーリーさんに目線を向けると優しく声をかけて、微笑んだ。

「ね、私、お母様みたいな聖女になりたいの。いいかしら?」

「ふぅ。君は昔からお義母上に憧れていたからね…。僕が反対しても勝手に引き受けるでしょう?」

「ふふ。良かった。と、いうことで…代理の母は私に決まりね!」

「「ええ!?」」

 フロラさんはチャーリーさんとの話がまとまると、僕達に目線を向けてニンマリ笑った。僕とオリーはこの展開に驚いて同時に声を上げると、チャーリーさんが眉尻を下げて僕達に声をかけてきた。

「ごめんね。ノルは知ってるだろう?フロラは小さい頃から聖女に憧れててさ。それに言い出したら聞かないし、僕からも是非フロラにってお願いしてもいいかな?その、妊娠中は僕が全面的に協力するから問題ないし。出産後は聖女のように母乳を与えたらきっと満足するはずだから…。母親気取りにはならないと思うし…その、ね?」

 僕とオリーはお互いに見つめ合うとヒソヒソと小声で相談することにした。

「どうする?」

「う、うん。でも確かに血の繋がりがある女性ってなると僕の母さんかエミリー、フロラさんになるもんね。母さんは歳だし、エミリーはまだ乙女だろうし…子供を産んだ経験もない。ってなると…」

「そうだな。本人がやる気だし、俺たちとしても願ったり叶ったりというところか」

 ヒソヒソ相談が終わってお互いに頷き合うと、僕達は目線をフロラさんとチャーリーさんに向けた。そして軽く頭を下げてからオリーが2人に声をかけた。

「よろしく頼む。フロラが産んでくれると思うと心強い」

「よろしくお願いします」

「はーい!うふふ!お父様!私はついにお母様と同じことができるわ!」

 フロラさんはキャッキャと嬉しそうに笑うとルイスさんに無邪気な笑顔を向けた。それを見たルイスさんは少しだけ困ったような顔になった。

「マイカに憧れて、幼い頃から白い衣を嬉しそうに纏っていた頃が懐かしいな。体の負担にならないようにきっとリチェ様が取り計らってくださるだろうが、あまり無理しないように」

「はーい!じゃあ、いつからにするのか滞在する間に決まったら教えてね!私はいつでも準備万端だから!」

「わ、わかった。時期はまた…知らせる」

 フロラさんはご機嫌で隣にいるチャーリーさんは僕達に少し頭を下げてから、優しくフロラさんに微笑んだ。

 僕とオリーは同時に深い息を吐くと、テーブルの下でお互いに手を繋いで体温を分け合った。

(これで、子供のことは一つ片付いたのかな。次は魔道具だ…。何かいい方法がないかな…)

 僕は心中でまた白猫にお祈り捧げながら、はしゃぐフロラさんを眺めた。
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