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幸せを世界に

あっけなかったな

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 次に僕は朝からアイザックさんに連絡を取った。カローさんの学費について現在の事情含め相談すると、ブルックス君の動き次第で結論を出すことになった。

 ハンナさんとは毎日励んでいるそうで、心なしかアイザックさんの声はお疲れ気味ではあった。幸せな疲れなのだろうけど、精力が尽きるまで搾り取られてヒョロヒョロにならないかと少し心配になってしまった。

 カローさんへは子爵家の動向について、何か言われたり、何かされていないかを逐一報告してもらうように連絡した。カローさんの屋敷では着々と結婚の準備が始まっているそうだ。今のところ閉じ込められたりはしていないし(一応寮生活みたい)、学園に通うことも許されているため不自由はないと連絡がきた。寮に住んでいる間は安全ではあるが、休日など寮から出る日が危険なため用心するよう、何かあればすぐに連絡をするように伝えた。

「用心に越したことはないけど…僕たちでは警備をつけたりはできないからな…」

「ブルックスに守るように注文つけとけばいいんじゃないか?どうせ、探るために潜入してるだろうからな」

「なるほどね。そうしておこうかな」

 学校が終わってから、カローさんからの連絡をソファーに座って一緒に聞いていたオリーはニヤニヤ笑っていた。僕もニヤッと笑ってブルックス君にウサギを送って[カローさんを危険から守ることもお願いに含めるね。ついでだし出来るよね?]と送ると、真っ白なフクロウがやってきて[仕方ありませんね。わかりました]と少し笑ったような声で返事が来た。

「さてさて。どんな結果になるかな」

「どうかな。きな臭い感じは確かにするが…。まあ、ブルックスが動いた以上…逃げられないだろうな」

「そうだよね。ふふ」

 僕はニンマリ笑いながらオリーの膝の上に頭を乗せた。オリーは僕の頭を優しく撫でた。それが心地よくて目を瞑ると、僕は少しだけ眠ってしまった。



 目が覚めるとテーブルの上に夕食が並べられていた。オリーがイーサンに連絡して届けてもらうように手配してくれたようだ。

「ごめん。寝てた」

「ならない腹の探り合いをして疲れたんだろう。動きがあるまでは少し肩の力を抜いて待ってればいいさ」

「うん。ふぁぁぁ」

「食って早く寝るぞ」

「うん」

 イーサンはすでに部屋にはいなかった。僕は寝ぼけた頭のままモグモグと料理を食べた。食べ終わってからオリーと2人でお風呂に入って、すぐにベッドに潜ってまた眠りについた。



 ブルックス君から連絡が来たのは、第2空の日のお昼頃だった。オリーと一緒にお昼ご飯を食べに食堂に向かおうとすると、白いフクロウがやってきた。

[悪い蟲を退治しましたよ。今日の青の8に僕の屋敷まで来てもらえますか?面白いものをお見せしますよ。迎えの馬車を用意しておきますね]

 フクロウは伝言を伝えるとスゥッと消えてしまった。僕は隣に立っているオリーに目線を向けてニヘラっと笑った。

「早かったね」

「そうだな。とりあえず、あいつが面白がってるって事は…嫌な予感しかないな」

「それは確かにね」

 僕たちは見つめあって苦笑いをすると手を繋いで食堂に向かった。


 仕事終わり。早めの夕食を済ませて僕とオリーは迎えの馬車に乗ってブルックス君指定の屋敷に向かった。屋敷といってもブルックス君だけが使う憩いの屋敷?というものらしく、ご懐妊中の彼女はいないと聞いて少しホッとなった。

 使用人に案内されて広間に入ると、そこには太った男性と中肉中背の男性が縄で縛られて中央に座らされていた。その奥には笑っているブルックス君と怯えたような顔のカローさんがいた。

「うわー…」

 縄で縛られている2人は正直言ってボコボコだった。何がボコボコって、顔だ。殴られて大きく腫れ上がった顔は原型をとどめていなかった。僕はそれを見て苦笑いをしながら、オリーと手を繋いで彼らに近寄った。

「ああ。いらっしゃい。これが件の悪い蟲ですよ」

「うん。それは見ればわかるんだけど…やり過ぎてない?」

「いえいえ。そんな事ないですよ。とっても悪いことを企んでいたのでこれくらい普通です。悪巧みをしたのはいいですが、2人とも頭は良くなかったのですぐに尻尾を掴めましたけどね」

 ブルックス君は太った男性の背中をゲシっと足で踏んで床に倒した。男性は「ぶびぃ!」と音を立てて床に顔を擦り付けると、シクシクと涙を流し始めた。

「実はですね。この2人、人身売買に関わってたみたいなんですよね。で、手を組む際の契約でこの豚さんが遊ぶ女を強請ったそうですよ。この見た目ですし、この国ではなかなか女性にありつけなかったようですね。まあ、お店にいらっしゃる方は別ですが、貧乏なのでお金がかからない方法を欲したようです」

 ブルックス君は太った男性の頭を含むとグリグリと床に顔を押し付けた。その隣で中肉中背の男性は怯えたような顔でそれを眺めブルブルと体を震わせていた。

「この国の法律を先生はあまり関心はないかもですが、人身売買はとてもとても悪い事だと決まってるんです。唯一を無くす手っ取り早い方法の一つでもありますからね。ですから…」

「公子!申し訳ございません!どうか、家の断絶はご容赦くださいませぇぇぇ」

 中肉中背の男性は震えながらひざまづいてブルックス君の足元の床に額を擦り付けて泣き始めた。カローさんはその様子を見つめながらブルックス君の後ろに隠れて様子を伺っていた。

「で、どうしたらいいのかな。とりあえず、どちらとも捕まるの?」

「そうですねぇ。どのようにしたら都合が良いですか?」

「うーん。恨まれても困るんだよね。報復されるのも嫌だし」

「なるほど。では、そうですね…とりあえずこの豚さんの家は断絶ですね。幸い子供もいませんし、元凶でもありますからね。豚さんは臭い臭い小屋に家を移してもらいます。死ぬまで出れないようにしておきますね。あ、人身売買のやり方含めきっちりお話ししてもらいましょうかね。お金を稼いでたくせに貧乏とは、悪事に手を染めても豚は豚だったようですね」

「ひぃぃ!!」

 ブルックス君は太った男性の頭を強めに踏みつけて足を離すと、次は頭を床につけている男性に近寄った。

「カロー家はまだ人身売買には関わっていなかったので、そこまで重い刑罰は難しいでしょう。ですが汚名がついた家から嫁ぐのは可哀想ですね。カロー君、どうしたい?この男と縁をきることもできるけど?」

 ブルックス君がカローさんに声をかけると、カローさんはブルックス君の背中から顔を出して床に転がってる男性に目を向けた。

「私をゴミのように扱った家になんていたくないです。ただのペネロペになっても構いません」

「そっか。じゃあ、とりあえず養子縁組を破棄しようか。カロー子爵家はこれから10年、婚姻を認めないよ。あと、領地を半分没収ね。税金については今まで通りだから、せいぜい落ちぶれないように頑張って」

「そんな…それでは生活ができません…」

「全て奪うわけじゃないんだから、努力して頑張りなよ。自分が悪いんでしょう?悪いことに手を染めようとしたんだからさ」

 ブルックス君は罪人に対して丁寧に対応をするつもりはない様子だった。嫌悪感を示した顔をしながら上から見下ろして、冷たい声で言い放っていた。

「さて。とりあえず僕がついていって養子縁組破棄させてきますね。希望であれば別の養子縁組も手配しますから、教えてくださいね」

「うん。わかったよ。カローさんは預かったほうがいいかな?」

「ああ。そうですね。後ほど書類だけお願いしに行きますから、寮まで送ってあげてください」

「わかった。悪さする前に捕まえれてよかったね」

「ええ、本当に。他にも湧いてないか、十分に点検しますね」

 ブルックス君が手を上げるとどこからか人が大勢やってきて、泣き喚いてる男性2人を引きずって屋敷から出ていった。僕はまだ震えているカローさんの肩を抱きながら、オリーと一緒にブルックス君が用意した馬車に再び乗って寮へと帰ることになった。

「学校どうする?」

「…平民枠でも通えるなら通いたいです。でも学費が…」

「そうだよね。でもそれは…まぁ…一度学園長に相談してみないと」

「はい」

「怖かったね」

 隣に座るカローさんの頭を撫でると、カローさんはポロポロと大粒の涙を流し始めた。向かい側に座っているオリーは僕がカローさんを慰めている様子を少しだけ嫌そうな顔をして眺めていた。

「それにしても、全く面白くない光景だったね」

「そうだな。嫌な予感しかなかったけどな…」

 ブルックス君の面白い物はやっぱり面白い物ではなかった。僕はカローさんを慰めながら深いため息をついた。
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