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いざ、フィンなんとか王国へ
何でこんなに疲れてるの?
「マイカ様、起きてください」
ゆさゆさと誰かに肩を掴まれて体を揺らされている。うっうう…と気怠い体と重たい瞼を上げて目を覚ますと、こちらを見つめているマリアとリチェ様がいた。
「マイカ様、まだお加減が優れないのですか?」
「ん、んー…体は熱くないけど…なんかすごく気怠い…」
マリアは私の背中に手を入れて抱き起してくれた。ゴシゴシと目元を擦ってクァッと欠伸をした私をマリアは困った顔で見つめていた。
「本日の会談はいかがなさいますか?」
「ん。エリオット様でしょう?ただお話しするだけなら大丈夫」
「左様でございます…か…。では、湯浴みからいたしましょう」
ベッドから降りてマリアに手を引かれながら浴室に向かった。歩くたびに股の間が濡れていて気持ち悪い。そんなことを考えている私の後ろ姿をリチェ様は思案顔で見つめて寝室から動かずにいた。
「はふぁ…きもちー」
湯船に浸かると体の気怠さが少しだけ和らいだ。一通り手入れをしてもらうと湯船から上がって全身に香油を塗る。
この作業をされるのも慣れたなぁっと感じながら、気持ちよくてウトウトした。そんな私を支えながら起き上がらせたマリアは手早く体を拭いて、テキパキと服を着付けていった。
私がウトウトしながら立っているといつのまにか用意が済んでいた。
今日はエメラルドグリーンのような色合いのドレスだった。ドレスのデザインはいつものデザインに戻ったが、胸元を覆うレースが少なめだ。
ちょっと谷間見えてるなぁっと思うも頭がうまくうごない私は反論せずにソファーの部屋に移動した。すると既にエリオット様は中で待っていた様子で、マリアからボーッとする私の手を預かるとゆっくり歩いてソファーに座らせてくれた。
そしてエリオット様も同じソファーに座り、対面するように向き合った。なぜかエスコートされていた手は離してもらえなかった。まるで恋に浮かれた恋人同士が手と手を取り合って囁き合うような距離感だった。
「マイカ様、まだ体調が本調子ではなさそうですね」
「そうなの…なんだか、体が気怠くて」
「そうですか。そうでしょうね…あれだけ激しくしましたし」
ん?何を?っと思いながらエリオット様に目をやると、いつもは無表情か不機嫌顔なのに、今日は満足そうな瞳で口の端を上げて微笑んでいる顔が目の前にあった。
…あのくちびる…きもちよかった…
ふとそんなことが頭に浮かんだ。思考が働かないままエリオット様の口元に吸い寄せられるように頭が揺れた。こちらが近寄ってきていることに気がついたエリオット様はそっと私に自分の肩を差し出した。
エリオット様の肩に頭を乗せて寄り添うような形になった。そして私は体の力をフゥッと抜いた。
なぜかわからない。けどもこの体に自分の体を預ける事に違和感がなかった。
「お疲れのご様子ですね」
「うん…でも、話ぐらいならできる…よ」
「そうですか。しかし、口調が変わっている事にも気がついてないご様子ですが…」
「あ…敬語…」
「いいのですよ。よろしければ私の事もエル…いや…エリオとお呼びください」
「エリオ?」
「エルは妻が呼んでおりますので、マイカ様には別の名前で呼んでいただきたく…」
「あ、そっか。愛する妻だけの愛称ってやつね。素敵だね…わかったエリオって呼ぶね…」
肩に頭を乗せながら徐々に瞼が重くなっていく、エリオは私の頭を優しく撫でてくれた。
「お眠りになりますか?このままお側におります。ご安心ください」
そういったエリオは繋いでいた手を持ち上げ私の手の甲に軽く唇を落とした。
私はスゥッと寝息を立てて眠ってしまった。
ーーー(エリオット視点)ーーー
眠ってしまったマイカ様の寝顔を見つめた。ふと胸元を眺める。すると夢のことを思い出した。
昨日の夢は素晴らしかった。私の女神はとても淫靡な女性だった。私は妻に感じている肉欲以上に感じてしまい、ついつい自分の思いのまま体を貪ってしまった。
朝起きて、盛り上がったモノをズボン越しに眺めた時は夢の情景を思い出して、それだけで達しそうになったぐらいだ。あの時の記憶を隣で寝ている妻にぶつける事は憚られた私は、汗ばんだ体を流すために湯浴みをした。
もちろん昂ったモノをあの時の感触と味わいを思い出しながら慰めたのはいうまでもない。
そんなことを考えていると、白猫のリチェ様が私の膝の上に乗ってきた。少し不機嫌そうな態度をしながら、私の手の上に前足を置いた。
『昨日かなり無茶させましたね』
ふむ。アーサー殿下に言われていた通り、リチェ様は雌で若いようだ。
「申し訳ない。私の女神が素晴らしく…手や腰や口を止めることができなかった」
軽く頭を下げるが、リチェ様の機嫌は良くならない。
『アーサーに言われたから夢を続けてますが、こんなになるまで抱き潰すなんて。限度というものがありますよ』
「おっしゃる通りだ。今後は気をつける」
『ふんっ。マイカさんのためにならなかった即刻やめます。次があるとは思わない方がいいです』
「そうか…それは残念だ。では淡い期待を抱いて待っているとする」
ふっと笑ってマイカ様に目線を向ける。こちらが会話をしていても起きない。とてもぐっすり寝ているようだ。
『エリオットは奧さん大好きなのでしょう?罪悪感とかないのですか?』
リチェ様から投げられた質問をふむっと呟きながら考えてみた。
キティへの罪悪感。ないとは言えない。しかし、キティへ抱いている愛とは違う愛をマイカ様に抱いているのは確かだ。別物だと認識しているゆえに、特に迷った気持ちはなかった。私はスッとリチェ様を見つめた。
「ないとは言い切れない。しかし、マイカ様とは違う愛を妻に抱いている。どちらが愛しいのだろうと迷うことはないな。妻が私の前から消えてしまうのは死ぬより辛い。しかしマイカ様が目の前から消えたとしても、辛いというよりは寂しいや惜しいという感情だと思う」
『うーん、よくわかりません。マイカさんが二番目ってことですか?』
「それも違うな」
リチェ様はうううんっと唸り始めた。
「そうだ。アーサー殿下の提案についてだが。私も…できれば同じようにしたいと思っている」
『夢の中で性行為ですか?』
「ああ。現実でない場所で行なわれる享楽的な情事もなかなか乙なものだろう?」
『人間の考えることはわかりにくいですね』
「私も自分の気持ちがよくわかっていない。全てに結論づけて考えることは無理だ」
再びマイカ様に目線を向ける。ぷっくりした赤い唇に目が行った。夢の中のような肉欲は現時点では抱いてない。しかし、あの声や柔らかさを思い出すと少し体が反応した。
『はぁ、とりあえず今日はもう帰って下さい。また夜にアレックスとの夢があります』
「そうか。分かった。名残惜しいが…寝室に移動させてもいいか?」
『仕方ないので任せてやります』
そう言ってリチェ様は私から離れていった。
マイカ様の体を支えながら一度立ち上がると、膝裏と頭を腕を入れてマイカ様を抱き上げた。
そのままそっと寝室に移動してベッドに横たわらせた。安心しきった寝顔で眠るマイカ様の頭を撫でると部屋を出た。侍女に状況を話し、起きてからの世話を頼むと侍女は力強く頷いた。
そして私はアーサー殿下の執務室に向かった。
「なんだ。早かったな」
「ええ。マイカ様が寝てしまったので引き上げてきました」
中に入ると他の3人も一緒になって私を待っていた。恐らくアーサー殿下が今日もマイカ様が一日中付き合う体力がないことを見越して、3人を呼び出していたのだろう。
中に入って空いているソファーに座ると侍従がお茶を用意して部屋から出ていった。
アーサー殿下が防音の魔法を展開する。この流れはここ最近この5人が集まった時の日常だ。
「で…マイカ様の体どうだったんだよ!」
ダリオンが待ちきれないと前のめりになって聞いてくる。犬のしっぽが生えていたら、はち切れんばかりに振っていることだろう。それぐらい興奮していることが見てとれた。
「一言で言うならば、素晴らしいだ」
「だぁぁぁあ!もっと具体的に!」
「せ、セザール様…落ち着いて」
ダリオンの隣に座っているアレックスが彼の肩を掴んで制止した。
「お前も気になるだろ?あ、お前今日の夜か!だから余裕ぶっこいてるのか!」
「よ、よ、余裕なんて…ないですよ…」
肩から手を離してモジモジと恥ずかしそうにアレックスは呟いた。
「なんだよ。お前あのヴィクトリアがずっと離さないくらい、いいもの持ってんだろ」
「離さない…なんて…僕…寝てるだけだし」
「お前…上に乗ってもらってんの?あの巨乳に?!」
「あの胸…触ったことない…です」
「はぁぁぁ!?」
二人で恒例のやりとりが始まった。ダリオンは遊び人で有名なヴィクトリアが離婚しない理由をアレックス自身の何かだと思っているため、いつも聞き出そうとちょっかいをかけている。そんな二人の会話を聞き流しながらアーサー殿下に報告をするために話しかけた。
「本日はお会いするためにお部屋に伺うと、湯浴みされていたようで…少しばかりしっとりと肌が潤ったマイカ様とお会いしました」
「なんだよ、ずりー…」
「ダリオンは黙ってろ」
アーサー殿下にピシャリと言われてブーブーと文句言いながらダリオンは大人しくなった。
「少しぼんやりしたご様子でしたので、心配なため本日は隣に座ってお話し致しました。また殿下同様に愛称を呼んでもらう事になりました。その後ウトウトされたマイカ様に肩を差し出し、しばらくご一緒いたしましたがリチェ様より寝室へマイカ様を運ぶ栄誉を任命され、お運びしてからこちらに戻りました次第でございます」
「お前も許可を得たか」
「ええ。ぼんやりされてましたし、口調も丁寧な話し方から気安い話し方へ無意識的に変わっておりましたので」
「そうか。分かった。ところで昨日はどれほど子種を注いだ?」
「マイカ様の口の中に1回。蜜壺の中には5回ほど」
「まじかよっ、えげつねー」
「うむ、たしかに。エリオットやりすぎだ」
「申し訳ございません。あの中に入るとつい止まらなく…」
「気持ちはわかるが、今後は気をつけろ」
「そうだそうだ。俺まで回ってこないかもしれねぇだろ!」
「セザール様、少し黙ってください。それを言うなら一番最後の私が一番危ういのですよ。セザール様も自重してくださいませね」
黙ってお茶飲んでいたルイスにもダリオンは怒られ、ショボンっと肩を落とした。
「と。言うことですので…本日はお手柔らかにお願いしますね」
アレックスに目を向けると、コクコクコクっと顔を赤らめながら頷いた。
「では、本日の報告会は以上だ。解散。皆仕事に戻れ」
そう言ったアーサー殿下は書類処理を始めた。ダリオンは不貞腐れながらドシドシと大きなら体を揺らして一番に出ていった。ルイスは私とアーサー殿下に一礼した後に、アレックスもそれに続いて一礼したあとに出ていった。
私はアーサー殿下に目を向けた。
「殿下はご自身のマイカ様へ向ける感情を何だと考えていらっしゃいますか?」
「何だ急に」
アーサー殿下は書類から目を離して、片眉を上げな怪訝そうな顔をした。
「私たちのような側近にしか見せなかったそのご様子をマイカ様には一日目で披露されてました。30年連れ添った正室であるマリアンヌ様にも見せていらっしゃらない。何か特別と感じられたのですか?」
「それは、そうだろ。子供を産んでくれる」
「では、子供を産まなければそのような感情は抱かなかったと?」
「何が言いたい」
「いえ、殿下のお気持ちがどれほどのものかを知りたかっただけでございます」
アーサー殿下はふんっと鳴らして私の顔をじっと見つめてきた。
「お前よりは歪んだ気持ちではないことは明らかだ。今まであれほど妻に執着していた割にすぐにマイカに靡いた。いや…むしろマイカにも執着している」
「執着…ですか」
「ああ。執着しなければ、夢の中であってもあれほど子種を注いで抱きつぶしはしないだろう?」
アーサー殿下の言葉を聞いて、ふむっと考え込んだ。その様子を見たアーサー殿下は書類に目を戻した。
「俺はマイカを自分の妻以上に愛している。夫の所になんて戻したくない。それぐらいの気持ちだ。分かったらさっさと帰れ」
アーサー殿下は目線を下に向けたまま、シッシッと手を振って私を追い払うような仕草をした。
頭の中で〈執着〉という言葉がこびりついて離れない状態のまま、私は一礼して執務室から出た。
…執着…
マイカ様を抱いたことで、もしかして以前抱いていた感情から変化したのだろうか。
腑に落ちないまま1日過ごした私は帰宅後にキティをいつものように抱いた。
終わった後は満足感や多幸感、所有感…自分が満たされるような感情を多く感じた。
しかし、マイカ様を抱いた後は絶頂感に加えて渇感や肉感、飢餓感を感じていた。そうだ…キティとは違って足りないと感じたのだ。
何かを求めているのか?まだわからない感情に首を傾げながらキティを腕に抱いて眠った。
ゆさゆさと誰かに肩を掴まれて体を揺らされている。うっうう…と気怠い体と重たい瞼を上げて目を覚ますと、こちらを見つめているマリアとリチェ様がいた。
「マイカ様、まだお加減が優れないのですか?」
「ん、んー…体は熱くないけど…なんかすごく気怠い…」
マリアは私の背中に手を入れて抱き起してくれた。ゴシゴシと目元を擦ってクァッと欠伸をした私をマリアは困った顔で見つめていた。
「本日の会談はいかがなさいますか?」
「ん。エリオット様でしょう?ただお話しするだけなら大丈夫」
「左様でございます…か…。では、湯浴みからいたしましょう」
ベッドから降りてマリアに手を引かれながら浴室に向かった。歩くたびに股の間が濡れていて気持ち悪い。そんなことを考えている私の後ろ姿をリチェ様は思案顔で見つめて寝室から動かずにいた。
「はふぁ…きもちー」
湯船に浸かると体の気怠さが少しだけ和らいだ。一通り手入れをしてもらうと湯船から上がって全身に香油を塗る。
この作業をされるのも慣れたなぁっと感じながら、気持ちよくてウトウトした。そんな私を支えながら起き上がらせたマリアは手早く体を拭いて、テキパキと服を着付けていった。
私がウトウトしながら立っているといつのまにか用意が済んでいた。
今日はエメラルドグリーンのような色合いのドレスだった。ドレスのデザインはいつものデザインに戻ったが、胸元を覆うレースが少なめだ。
ちょっと谷間見えてるなぁっと思うも頭がうまくうごない私は反論せずにソファーの部屋に移動した。すると既にエリオット様は中で待っていた様子で、マリアからボーッとする私の手を預かるとゆっくり歩いてソファーに座らせてくれた。
そしてエリオット様も同じソファーに座り、対面するように向き合った。なぜかエスコートされていた手は離してもらえなかった。まるで恋に浮かれた恋人同士が手と手を取り合って囁き合うような距離感だった。
「マイカ様、まだ体調が本調子ではなさそうですね」
「そうなの…なんだか、体が気怠くて」
「そうですか。そうでしょうね…あれだけ激しくしましたし」
ん?何を?っと思いながらエリオット様に目をやると、いつもは無表情か不機嫌顔なのに、今日は満足そうな瞳で口の端を上げて微笑んでいる顔が目の前にあった。
…あのくちびる…きもちよかった…
ふとそんなことが頭に浮かんだ。思考が働かないままエリオット様の口元に吸い寄せられるように頭が揺れた。こちらが近寄ってきていることに気がついたエリオット様はそっと私に自分の肩を差し出した。
エリオット様の肩に頭を乗せて寄り添うような形になった。そして私は体の力をフゥッと抜いた。
なぜかわからない。けどもこの体に自分の体を預ける事に違和感がなかった。
「お疲れのご様子ですね」
「うん…でも、話ぐらいならできる…よ」
「そうですか。しかし、口調が変わっている事にも気がついてないご様子ですが…」
「あ…敬語…」
「いいのですよ。よろしければ私の事もエル…いや…エリオとお呼びください」
「エリオ?」
「エルは妻が呼んでおりますので、マイカ様には別の名前で呼んでいただきたく…」
「あ、そっか。愛する妻だけの愛称ってやつね。素敵だね…わかったエリオって呼ぶね…」
肩に頭を乗せながら徐々に瞼が重くなっていく、エリオは私の頭を優しく撫でてくれた。
「お眠りになりますか?このままお側におります。ご安心ください」
そういったエリオは繋いでいた手を持ち上げ私の手の甲に軽く唇を落とした。
私はスゥッと寝息を立てて眠ってしまった。
ーーー(エリオット視点)ーーー
眠ってしまったマイカ様の寝顔を見つめた。ふと胸元を眺める。すると夢のことを思い出した。
昨日の夢は素晴らしかった。私の女神はとても淫靡な女性だった。私は妻に感じている肉欲以上に感じてしまい、ついつい自分の思いのまま体を貪ってしまった。
朝起きて、盛り上がったモノをズボン越しに眺めた時は夢の情景を思い出して、それだけで達しそうになったぐらいだ。あの時の記憶を隣で寝ている妻にぶつける事は憚られた私は、汗ばんだ体を流すために湯浴みをした。
もちろん昂ったモノをあの時の感触と味わいを思い出しながら慰めたのはいうまでもない。
そんなことを考えていると、白猫のリチェ様が私の膝の上に乗ってきた。少し不機嫌そうな態度をしながら、私の手の上に前足を置いた。
『昨日かなり無茶させましたね』
ふむ。アーサー殿下に言われていた通り、リチェ様は雌で若いようだ。
「申し訳ない。私の女神が素晴らしく…手や腰や口を止めることができなかった」
軽く頭を下げるが、リチェ様の機嫌は良くならない。
『アーサーに言われたから夢を続けてますが、こんなになるまで抱き潰すなんて。限度というものがありますよ』
「おっしゃる通りだ。今後は気をつける」
『ふんっ。マイカさんのためにならなかった即刻やめます。次があるとは思わない方がいいです』
「そうか…それは残念だ。では淡い期待を抱いて待っているとする」
ふっと笑ってマイカ様に目線を向ける。こちらが会話をしていても起きない。とてもぐっすり寝ているようだ。
『エリオットは奧さん大好きなのでしょう?罪悪感とかないのですか?』
リチェ様から投げられた質問をふむっと呟きながら考えてみた。
キティへの罪悪感。ないとは言えない。しかし、キティへ抱いている愛とは違う愛をマイカ様に抱いているのは確かだ。別物だと認識しているゆえに、特に迷った気持ちはなかった。私はスッとリチェ様を見つめた。
「ないとは言い切れない。しかし、マイカ様とは違う愛を妻に抱いている。どちらが愛しいのだろうと迷うことはないな。妻が私の前から消えてしまうのは死ぬより辛い。しかしマイカ様が目の前から消えたとしても、辛いというよりは寂しいや惜しいという感情だと思う」
『うーん、よくわかりません。マイカさんが二番目ってことですか?』
「それも違うな」
リチェ様はうううんっと唸り始めた。
「そうだ。アーサー殿下の提案についてだが。私も…できれば同じようにしたいと思っている」
『夢の中で性行為ですか?』
「ああ。現実でない場所で行なわれる享楽的な情事もなかなか乙なものだろう?」
『人間の考えることはわかりにくいですね』
「私も自分の気持ちがよくわかっていない。全てに結論づけて考えることは無理だ」
再びマイカ様に目線を向ける。ぷっくりした赤い唇に目が行った。夢の中のような肉欲は現時点では抱いてない。しかし、あの声や柔らかさを思い出すと少し体が反応した。
『はぁ、とりあえず今日はもう帰って下さい。また夜にアレックスとの夢があります』
「そうか。分かった。名残惜しいが…寝室に移動させてもいいか?」
『仕方ないので任せてやります』
そう言ってリチェ様は私から離れていった。
マイカ様の体を支えながら一度立ち上がると、膝裏と頭を腕を入れてマイカ様を抱き上げた。
そのままそっと寝室に移動してベッドに横たわらせた。安心しきった寝顔で眠るマイカ様の頭を撫でると部屋を出た。侍女に状況を話し、起きてからの世話を頼むと侍女は力強く頷いた。
そして私はアーサー殿下の執務室に向かった。
「なんだ。早かったな」
「ええ。マイカ様が寝てしまったので引き上げてきました」
中に入ると他の3人も一緒になって私を待っていた。恐らくアーサー殿下が今日もマイカ様が一日中付き合う体力がないことを見越して、3人を呼び出していたのだろう。
中に入って空いているソファーに座ると侍従がお茶を用意して部屋から出ていった。
アーサー殿下が防音の魔法を展開する。この流れはここ最近この5人が集まった時の日常だ。
「で…マイカ様の体どうだったんだよ!」
ダリオンが待ちきれないと前のめりになって聞いてくる。犬のしっぽが生えていたら、はち切れんばかりに振っていることだろう。それぐらい興奮していることが見てとれた。
「一言で言うならば、素晴らしいだ」
「だぁぁぁあ!もっと具体的に!」
「せ、セザール様…落ち着いて」
ダリオンの隣に座っているアレックスが彼の肩を掴んで制止した。
「お前も気になるだろ?あ、お前今日の夜か!だから余裕ぶっこいてるのか!」
「よ、よ、余裕なんて…ないですよ…」
肩から手を離してモジモジと恥ずかしそうにアレックスは呟いた。
「なんだよ。お前あのヴィクトリアがずっと離さないくらい、いいもの持ってんだろ」
「離さない…なんて…僕…寝てるだけだし」
「お前…上に乗ってもらってんの?あの巨乳に?!」
「あの胸…触ったことない…です」
「はぁぁぁ!?」
二人で恒例のやりとりが始まった。ダリオンは遊び人で有名なヴィクトリアが離婚しない理由をアレックス自身の何かだと思っているため、いつも聞き出そうとちょっかいをかけている。そんな二人の会話を聞き流しながらアーサー殿下に報告をするために話しかけた。
「本日はお会いするためにお部屋に伺うと、湯浴みされていたようで…少しばかりしっとりと肌が潤ったマイカ様とお会いしました」
「なんだよ、ずりー…」
「ダリオンは黙ってろ」
アーサー殿下にピシャリと言われてブーブーと文句言いながらダリオンは大人しくなった。
「少しぼんやりしたご様子でしたので、心配なため本日は隣に座ってお話し致しました。また殿下同様に愛称を呼んでもらう事になりました。その後ウトウトされたマイカ様に肩を差し出し、しばらくご一緒いたしましたがリチェ様より寝室へマイカ様を運ぶ栄誉を任命され、お運びしてからこちらに戻りました次第でございます」
「お前も許可を得たか」
「ええ。ぼんやりされてましたし、口調も丁寧な話し方から気安い話し方へ無意識的に変わっておりましたので」
「そうか。分かった。ところで昨日はどれほど子種を注いだ?」
「マイカ様の口の中に1回。蜜壺の中には5回ほど」
「まじかよっ、えげつねー」
「うむ、たしかに。エリオットやりすぎだ」
「申し訳ございません。あの中に入るとつい止まらなく…」
「気持ちはわかるが、今後は気をつけろ」
「そうだそうだ。俺まで回ってこないかもしれねぇだろ!」
「セザール様、少し黙ってください。それを言うなら一番最後の私が一番危ういのですよ。セザール様も自重してくださいませね」
黙ってお茶飲んでいたルイスにもダリオンは怒られ、ショボンっと肩を落とした。
「と。言うことですので…本日はお手柔らかにお願いしますね」
アレックスに目を向けると、コクコクコクっと顔を赤らめながら頷いた。
「では、本日の報告会は以上だ。解散。皆仕事に戻れ」
そう言ったアーサー殿下は書類処理を始めた。ダリオンは不貞腐れながらドシドシと大きなら体を揺らして一番に出ていった。ルイスは私とアーサー殿下に一礼した後に、アレックスもそれに続いて一礼したあとに出ていった。
私はアーサー殿下に目を向けた。
「殿下はご自身のマイカ様へ向ける感情を何だと考えていらっしゃいますか?」
「何だ急に」
アーサー殿下は書類から目を離して、片眉を上げな怪訝そうな顔をした。
「私たちのような側近にしか見せなかったそのご様子をマイカ様には一日目で披露されてました。30年連れ添った正室であるマリアンヌ様にも見せていらっしゃらない。何か特別と感じられたのですか?」
「それは、そうだろ。子供を産んでくれる」
「では、子供を産まなければそのような感情は抱かなかったと?」
「何が言いたい」
「いえ、殿下のお気持ちがどれほどのものかを知りたかっただけでございます」
アーサー殿下はふんっと鳴らして私の顔をじっと見つめてきた。
「お前よりは歪んだ気持ちではないことは明らかだ。今まであれほど妻に執着していた割にすぐにマイカに靡いた。いや…むしろマイカにも執着している」
「執着…ですか」
「ああ。執着しなければ、夢の中であってもあれほど子種を注いで抱きつぶしはしないだろう?」
アーサー殿下の言葉を聞いて、ふむっと考え込んだ。その様子を見たアーサー殿下は書類に目を戻した。
「俺はマイカを自分の妻以上に愛している。夫の所になんて戻したくない。それぐらいの気持ちだ。分かったらさっさと帰れ」
アーサー殿下は目線を下に向けたまま、シッシッと手を振って私を追い払うような仕草をした。
頭の中で〈執着〉という言葉がこびりついて離れない状態のまま、私は一礼して執務室から出た。
…執着…
マイカ様を抱いたことで、もしかして以前抱いていた感情から変化したのだろうか。
腑に落ちないまま1日過ごした私は帰宅後にキティをいつものように抱いた。
終わった後は満足感や多幸感、所有感…自分が満たされるような感情を多く感じた。
しかし、マイカ様を抱いた後は絶頂感に加えて渇感や肉感、飢餓感を感じていた。そうだ…キティとは違って足りないと感じたのだ。
何かを求めているのか?まだわからない感情に首を傾げながらキティを腕に抱いて眠った。
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