【完結】守り手になるので呪いを解いてください!

あさリ23

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旅に出ます

罪を償うために

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「ごめんなさい。魔石様。もう火の手が此処まできてしまって…。国が定めた禁足地まで逃げてしまいました。しかし、この家はとても丈夫そうですよ!火の玉を一度に何発も当てられても壊れなさそうです!築年数は経ってそうなのに…」

 額に3つの花びらの模様をつけた少女は手の平にある真っ黒の魔石に話しかけながら石畳の家の壁を撫でた。

「禁足地にある建物なので、もしかして初代王が土地を復興した際に住んでた家だったりするかもですよ!ふふふ。そうだったらすごいなぁ。400年前の建物ってことですもんね。私が住んでた家より立派。隙間風もないし、王様のくせに建てるの上手!あ、くせにとかいっちゃった。えへへ」

 石造りの平屋は屋根が朽ちており、家の中にいても真っ青な空は見えたままだ。しかし、壁は外壁が苔や蔓で覆われてはいるが確認した限り壊れているところは無い。

 現在の平民の家よりも立派な家に少女は満足そうに微笑んだ。

「屋根が無くても大丈夫です。此処にいるのは少しの間にしましょう。空を見た限りしばらくは雨が降ることはないでしょう。。追っ手もまさか魔獣がでると言われている禁足地にまではこないはず。魔石様!よかったですねぇ!」

『……休まないといけないのは私ではなく、エリーだろう?もうそんなにボロボロになってしまって…。私が…私が…つい、君に触れたりしなければこんなことには…』

「大丈夫ですよ、魔石様!泣かないで下さい。アーサーの娘、エリーは昔から逞しいって評判なんです!こんなの擦り傷ですよ。此処で少し休んだら隣国に逃げましょう。幸いなことに禁足地は友好的なディズー国に1番近いです。彼方に行ってみましょう」

『……エリー……』

「さあて、私は少し着替えてきますね。魔石様は此処の…おお。ちょっといい窪みがある。この窪みの台座にお座り下さい。ではっ!」

 エリーは魔石を床にある小さな窪みにそっと置くと、そそくさと別部屋に逃げ込んだ。石以外の素材で出来たものは朽ちているため、彼女が隣の部屋で何をしているのか。ベルナールにははっきりと見えていた。

 血を流している左脇腹を触り、痛そうに顔を顰めながらエリーは泥で汚れた外装を脱ぎ逃げる際に出来た傷口を確認するかのように服を脱ぎ始めた。

『…まだ10ほどの少女に…私はなんてことを…』

 女性になりきれていない幼い体。ベルナールに選ばれた事で敵国から狙われてしまった少女の体は無数の傷がある。1番大きな傷は傷口が深い脇腹だ。

 彼女は割と清潔な布の部分を引き裂いて、脇腹の傷を隠すように巻き始めた。止血をするにしても傷口を洗ったわけでも無く…。適切な処置を早くしなければ彼女の命が危ない事はベルナールにもはっきりとわかった。

『治癒の力は…与えられない…。くっ、与える力にも限度があるなんて。忌々しい。彼女を救える力を与えることが難しいだなんて、私はいったい何のために…』

 ベルナールが付与できる力は選択制だった。

 王の資質がある人物を選ぶと、能力の選択肢が3つ現れる。おそらくベルナールの力の根源は神秘の森なのであろう。

 ベルナールは選ぶだけ。力を与えているのは森。森が決めた選択肢の中で自分が選んだ人物に相応しい物を与えるだけしか出来なかった。

『エリーには…もうすでに能力を渡してしまっている…。しかも、今まで1番無能なモノを…ははっ』

 ベルナールがエリーに与えた力は〈歌が上手くなる〉だった。

 彼女が元々選択できた能力は〈歌上手〉〈料理上手〉〈掃除上手〉だった。

 全て為政者としては重要度が低そうな能力ばかり。それもそのはず、ベルナールが考えている王となる素質を持っていないただの少女だったからだ。

 素質がある人物ならばもっと国政で役立てる力の選択肢があった。

 だが、ベルナールが最後に選んだ人物は夢見る幼い少女だった。それも、本人が意図して選んだわけでは無く…感傷に浸っていた時に現れた彼女につい、助けを求めるかのように手を伸ばした結果だった。

「魔石様ぁぁあ!お腹空きませんか?実は、ふふふ!逃げてくる時にパンを一つくすねてきたんです!一緒に食べましょう」

 着替え終わったエリーは持っていた小さなカバンから硬くカビの生えたパンを取り出すと、魔石の近くにやってきた。そして隣にちょこんと座ると器用にカビの部分を剥がし始めた。

 ベルナールは食事をする必要はない。だが、彼女は選ばれた時からずっと彼のことを人間のように扱うのだ。

 エリーはカビが取れたパンの切れ端を魔石の前にそっと置くと、「美味しそう!」と言って手元にある自分のパンをむしゃむしゃと食べ始めた。

「んんん、やっぱお城にあったからですかね?カビてたのに凄い美味しい!」

 むしゃむしゃと食べながら大喜びのエリーをベルナールは悲しそうに眺めた。

 ベルナールは今、彼女の目の前にいた。もちろん、エリーはベルナールを見る事は出来ず、話す事も出来ない。ただ、彼女は魔石のベルナールを他の人間と同じように扱っているだけなのだ。会話は成立しているようでしていない。

 幼い少女と向かい合うように座っているベルナールは今いる場所を確認するかのように見渡し始めた。そして見覚えがある傷跡を見つけると、彼は大きく目を見開いた。そして嬉しいような悲しいような笑みを浮かべた。

『…はは…ははは。最後に父上が森から賜った家に辿り着くとは。エリーが話していた時は気にならなかったが、そうか…』

 幼い日々の記憶を手繰り寄せれば、両親と時折やってきては過ごした家である事は間違いなく、幼い頃は妹と身長の高さを競って壁につけた傷跡がそれを証明するかのように綺麗に残っていた。

『400年も経って傷が消えぬとは。まさか、森が母上の文字が消えないよう保存していたとか…。ありえる話だ。かの方は両親を愛していたから…』

 立ち上がって壁に近寄ればそこには当時のままの傷跡と母が彫った〈ベル〉〈リリ〉の文字。10歳ごろまでは家族で此処にきていたが、徐々にベルナールは疎遠になっていった。

 勉強があったのもあったが、此処よりも大事な場所があると信じて進んでいたからだ。 

『母上は…最後の三日を此処で過ごされたのだったな…』

 母を最後に看取ったのは2歳下のリリアーヌ。ベルナールは周りから王になれと言われていい気になり、母の最後の願いを叶えるだけ叶えて満足していた。

 妹から泣きながら、なぜ最後に会いに来なかったのかと責められた時でさえそれが最良の選択だっと思っていたのだ。

 母は守り手の伴侶だった。彼女は水分以外には不思議な蜜飴を食べるだけで生きていた。それでも彼女はとても綺麗で老いてもなお、周りにいる女性よりも若々しかった。

 本人も伴侶が亡くなれば生きてきられない事を知っており、最後は静かに過ごしたいと此処に来るのとを選択した。

 妹は母が皆に別れの挨拶を済ませ、此処に移住してすぐに追いかけるようにこの家に住み着いた。

 妹の子供達は初めの1日目だけ一緒に過ごすと自宅に帰り、残り2日は母と妹2人で過ごしていたようだ。どんな生活をしていたのか。護衛についた騎士からの報告で把握はしていたが、ベルナールはこの空間に混ざろうという気にはならなかった。

 何故ならこれから先、父のように国を治めていくことができるのか。不安でいっぱいだったからだ。

 そして、母親の最期を看取る勇気もなかった。

 偉大な大きな背中に憧れていた少年はいつしかその憧れに押しつぶされそうになっていたのだ。

『だから私は逃げたのだろうな』

 それに気がついたのも約400年経った今になってからだ。ベルナール自身は最良の選択をしたのだと。ずっとずっと考えていた。

 いや、そう思わなければ自身の選択肢の愚かさを認めてしまうゆえに自分は間違っていないと言い聞かせていた。

 壁を撫でながら彼自身の過去を振り返っていると、後ろからエリーの歌声が聞こえてきた。

「私の、可愛い子~♩」

 セトレニアでよく歌われている子守唄を歌いながら、エリーはゴツゴツした石の床にゴロンと寝転がった。そして両手をお腹にあてて目を瞑ると、優しい歌声で歌を続けた。

「大丈夫だよ、母はそばにいるよ~♩安心して、お眠り~♩」

 エリーは優しい笑みを浮かべている。彼女はベルナールから能力を与えられた事で国一番の歌い手になった。彼女の歌声を聞けば、癒され、楽しくなり、悲しくもなり…感情を揺さぶる歌声は同じ曲でも聴く人によっては感じ方が変わった。

 ベルナールは彼女の歌声を聞いて、ものすごく家族に会いたくなっていた。家族で過ごし楽しかった場所にいるからだろうか。

 家族への愛おしさが溢れる。国を守りたかったのは家族の証のため…。

 ベルナールはポロリと涙をこぼすと、壁にもたれるように座って小さくうずくまった。




「魔石様!ここに、ここに、隠れて。貴方様がいれば、国は滅びませんから」

『ま、まて!エリー!』

「さあ、私のお役目はここまでです。魔石様、私が1番欲しかった力を与えてくださって本当に本当にありがとうございました。貴方様のおかげで、死にゆく母が病の痛みで苦しむ顔から安らかな顔で逝けました。本当に感謝です。本当に本当に、貴方様に選ばれて嬉しかった。魔石様。しばらくお隠れ下さい。きっと貴方様を見つけてくださる人が現れます。それまで、無事で…」

 エリーはしゃがんで石床を壊し無理やり空間を作ると、魔石を手につかんだ。そのまま手を穴に突っ込み、魔石を中に落とすとすぐに手を引っ込めた。そして穴を隠すように石で蓋をするとフゥっと大きく息を吐いた。

 そしてエリーは近くにあった小石でガリガリと石床に傷をつけ目印をつけた。その目印もパッと見たらただの窪みのような傷だ。模様や文字ではなかった。

 作業を終えてパンパンッと手を鳴らした後にゆっくり立ち上がると、エリーは深く深呼吸を数回行って、家に語りかけるように話し始めた。

「此処に隠れて2日かぁ。そろそろ出発しようと考えてた矢先に…逃げ遅れちゃった。禁足地にまでくるだなんて、ほんとやな奴ら!ぷんっ。でもこんなにいい隠し場所が見つかってよかった。最高の家、魔石様をお守りください」

『待て!エリー!!!!外は危ないっ!!!』

「さあて、アーサーの娘、エリー。体力がご自慢。走るのだって得意!大丈夫、できる。できる。私が囮になって魔石様を守るんだ。できる、泣くな!泣くな、泣くな!大丈夫、大丈夫、よし!」

 エリーは涙をこぼしながら自身に言い聞かせるように呟いた。涙が溢れるたびに自身の頬を叩き喝ををいれる。ベルナールはそれを止めたくて手を伸ばすが、実体がない彼はエリーに触る事すらできなかった。

「いってきます。魔石様」

『ダメだ!エリー!!!』

 ベルナールに別れを告げると、エリーは走り出した。


 周囲からはバンバンと爆発音が聞こえてくる。

 敵が魔獣を狩りながら迫ってきていたのだ。

 エリーは敵が来た事を察知し、すぐに荷造りした。そして、ベルナールを隠して音がする方へと…。


 手にはあらかじめ見つけておいた真っ黒な小石を持って。


 ベルナールはエリーを追いかけようとするが、なぜか体が動かなかった。


 叫ぶような人の声。

 燃えてゆく草木。

 何かを壊すような爆発の音。


 その後ベルナールの前にエリーは現れなかった。




 エリーがいなくなった次の日。顔も見た事ない男達がこの家に押し入ってきた。エリーが過ごした痕跡を見つけたからか、家の中を荒らしまわった。

 金目のものもないただの廃墟。

 彼らは荒らすだけ荒らしてこの場をすぐに立ち去った。

 ベルナールはポロポロと涙を流してそれを眺めた。



 それからどれぐらいの月日が経ったのか、わからなくなるほど1人で過ごした。

 誰かに見つけて欲しい。

 いや、誰にも見つかってはいけない。

 早く家族の元へ行きたい。

 誰か……。


 そんな事を考えていると、ベルナールの前に見たことがある球体が現れた。彼はそれを見て目を見開くと、すぐに跪いてこうべを垂れた。


[答えは出たか?]


 男性のような女性のような声。聞き覚えがある声。ベルナールは目の前の存在が何であるか確信を持って頭を下げたまま声を出した。

『神秘の森様。答えは出ました。貴方様の力はほんの些細なもの。進む道を切り開くのは人の力。私の父は彼自身の力で国を興し、護った、素晴らしい才覚の持ち主でした。決して、貴方様の力がなければそれを成し遂げることができない男ではありませんでした。私が間違っておりました。周囲に守られ甘えていた私が愚かでした』

 ベルナールがそう答えれば、球体は静かに浮いたまま何も発しなかった。だが、しばらくすると少しだけ優しい声で語りかけてきた。

[お前が選んだ最後の人間が死してから、愛し子が作りし国を砂の結界で封印した。この場所以外は徐々に砂漠になってゆくだろう。お前が選んだあの少女は最後の慈悲で亡骸を砂で隠した。あの無垢な体は辱められる事なく、少女は旅立った。安心しなさい]

『あ、あああ…エリー…』

 笑顔が可愛らしい少女はすでに星空になっていた。
 
 分かってはいたが直接聞かされた事でベルナールは彼女の死を実感し受け入れた。ポロリポロリと涙が溢れてくる。

 そして彼女が敵に悪戯に弄ばれる事なく逝けたことに安堵した。

 人間同士の争い。時には死者を冒涜する者もいる。そんな奴らに触られる事なく彼女が旅立てた事にベルナールは森に感謝の気持ちでいっぱいになった。

『ありがとうございます。ありがとうございます』

 ただただ、感謝の言葉を繰り返すとまた優しい声が聞こえてきた。

[お前に赦しを与える]

『……そんな……私のような罪深いものに……』

[だが、その前に役目を果たしてもらう。赦しを与えるのは役目が終わってからだ]

 ベルナールは涙を袖で拭うと顔を上げて球体をじっと見つめた。

『何なりと申し付け下さい。私自身の間違った選択で失ってしまった命の数々。その償いのため、罪深い私にできる事なら何なりと』

 自分ができる事ならばいくらでも。それが例え自分自身の尊厳を脅かす事であっても。

 間違った選択の犠牲になり、不幸にしてしまった彼らに償いたい。

 そんな気持ちを込めて返答すれば、球体は優しく光り輝き始めた。

[約100年後。此処に男女の人間がやってくる。彼らは守り手に選ばれしものだ。だが、特に女。女が弱々しい。男が女に足りぬものを補っているが、それでも足りぬ。故に、お前が女に足りない部分を補うのだ]

『…それは、どのようにして…』

[今までのように力を与えれば良い。お前は魔石だ。我が創った魔石。人の体から生成された、この世界に一つしかないモノ。光を浴び白になれ。そして、体液による契約で女の体と一体化するのだ]

『それはつまり、私は消えるのでしょうか』

 自分が消えることが償いになるのだろうか。自分自身で償う行為をせずともいいのだろうか。

 そんな気持ちを持ちながら不安げに話せば、球体はまたピカピカと光った。

[安心しろ。契約をすれば実体化できる。力を与えるのも制限なく、その時々必要なものを与えることができるぞ。ただし、契約はその一回で終わりだ。役目を終えればお前は消える。女を守り、無事に森まで連れてこい]

『っ!!!か、かしこまりました』

 〈消える〉ことができる。ベルナールはその言葉を聞くとまた涙を溜めた。そしてその様子を眺めているような球体は少しだけ面白がってるような声で話を始めた。

[契約すれば契約者の記憶が覗ける。本人が何を考えているのか、察するのは容易いだろう。が、契約に至るまでに少しばかり警戒されるかもしれん。だが問題ない。女は幼子が好きでな。生まれて数年の子供に化ければ良い。すぐに契約できるだろう]

 はっはっはっと笑い声が聞こえてきそうなほど愉快な様子で話すだけ話すと、球体は目の前からパッと消え去った。

 ベルナールは静かになった空間をしばらく見つめると、ゆっくり目を瞑った。

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