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まだ旅は途中
その頃彼らは
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「サミュエル様。森に発生していた渦を彼らに任せてよかったのですか?」
「んー?だって仕方ないじゃん。今の子、疲れちゃって危ないしさ。元気な方がやった方がいいと思って」
「疲れているのは…サミュエル様の無茶振りが多いからではないでしょうか」
「そうとも言う?ははは!ちゃんとご褒美も用意したんだから最後は許してくれるって!大丈夫、大丈夫」
モリーは呑気な顔でデスクに置かれた水晶を眺めるサミュエルを眺めて深いため息をついた。この上司はいつも面倒な事を部下に押し付けがちだ。
モリーは眼鏡の位置を整えながら自分のデスクへと向かった。
机の上にある水晶を見つめれば、説明をしっかり受けずに送り出された哀れな魂が映っている。モリーはまた深いため息をつきながら、水晶を触って場面を切り替えた。
「この世界の渦を森以外に出すなんて…前代未聞です。ですが、彼が限界なのも事実。はあ、人の子への被害が増えなければ良いですが」
眼鏡を外し、眉間を揉みながら渦を処理している愛し子達に何かできる事はないだろうか。そんな事を考えながらもモリーはまた深くため息をついた。
「それより先にこの子を眠らせましょうか」
水晶に映るもう一人の愛し子は虚な目で部屋の中でボーッとしている。とても疲れ切った顔は哀れだ。毎日腕にある模様を見てはため息をつく日々。
昔はやる気に満ちながらやっていた渦の処理を任せても、昔は優しく微笑んでいた動物達の可愛らしい姿を見せても彼の心は晴れない。
「しかしながら500年は長すぎましたね。本当に申し訳ない事をしました。そもそもサミュエル様が棄却された候補から勝手に選んだのが1番の原因ですし、貴方には全く責任は無いのですが…。尻拭いをさせるにも人の子の身で無理をさせてしまいました」
モリーが水晶に手をかざすと、映っていた男性が急に倒れた。スウスウと寝息をたてながら眠っている。彼は見えない何かに持ち上げられるとベッドがある寝室へ運び込まれた。
「しばらくですがお眠りなさい。森の渦は心配しなくても大丈夫ですよ。あと少しで彼女がここに到着しますから」
モリーはベッドに寝かされた男性に優しく語りかけると、水晶を触ってまた画面を切り替えた。
次の画面には陽の光を浴びてキラキラと輝く金色の髪、紫色の瞳を持つ女性が映し出されていた。彼女の瞳は力強く強い信念を持った顔をしている。
「ああ、あと少しですね。うーん、会わせるのはまだ先が良いでしょう。別棟を建ててそこにいてもらいましょうか」
ああ、忙しい忙しい。
そんな事を呟きながらモリーは目の前にある書類を片付け始めた。新しく実施する企画に必要な予算の見積もりを出し書類を作成すると、それを持って水晶を見てニヤニヤと笑う上司の元へ急いだ。
「サミュエル様。今代は休ませました。しばらく寝かせておきます。彼女の到着はあと少しですが、今代が休む家屋に住まわせるのはまだ早いため、新しく建てる必要がありそうです」
「あー、そうだね。あの家もくたびれちゃったし新しくしてあげた方がいいね」
サミュエルはモリーの説明を聞きつつも目線は水晶のまま頷いた。
「こちらが予算と企画書です」
「はい、可決可決」
サミュエルは書類を確認せずに可決の判子を押す。モリーは今日何度目かわからないため息をついた。
「確認せずともよろしいのですか?」
「モリーがやれるって思って出してるものなら間違いないし、大丈夫でしょ」
「左様でございますか。では、そのようにいたします」
無表情でモリーは判子が押された書類を手に取ると、自分のデスクに向かって歩きはじめた。
上司にくるりと背を向けた瞬間、彼女の口元は弧を描いた。
彼女は彼が書類を確認しない事をわかっていた。
故に彼女はいつもよりも手心を加えた書類を作成していたのだ。少しばかり彼が困るような手心だ。
困るといっても、次の上部会議で彼が叱られる程度だろう。叱られるのは毎度のことなので、大差はない。いつも通りだ。
モリーは自席に戻ると書類を可決の箱に入れた。そして、すぐに大きな紙を取り出すとそこに絵を描き始めた。
彼女が描いているのは木製の二階建ての一軒家だ。彼女が木製の家にこだわるのは、愛し子達にとって少しでも温かさとぬくもりを感じる場所になるようにと願っているからだ。
サミュエルからは「木製より石だよ!」とか「レンガもいいよね」とか彼女の考えを否定するような言葉を投げられる。だが、今まで森に住まう愛し子たちの家を建築し続けた彼女は自分の考えを変えなかった。
「平屋の方が住みやすいでしょうか。うーん、二階建ても捨てがたいのですが、高すぎるのも…」
ブツブツと言いながら一度描いた絵を消し、また新しい家を描きは始めた。
「蛇口に慣れ親しんだ世代になってきましたし、そろそろ水回りも現代に合わせましょう。昔の暮らしも良いのですが、慣れるまでは不便ですからね」
今の家に住んだ歴代の愛し子達が住み始めてすぐの頃、井戸水を汲み生活用水を準備することを嘆く姿を何度見たことか。
外にはない季節の移ろいに戸惑う姿を何度見たことか。
彼らが外から持ち込んだ魔道具は渦の影響で使えなくなる。その度に悲しそうな顔になる子供達を何度見たことか。
森の外はどんどん発展してゆくが、森の時間は止まったまま。
だが、もう良いだろう。少しの変化があっても。
この変化さえ、時が経てば古くなるのだ。
モリーはニヤッと悪い笑みを浮かべると思い描くがまま紙に描いた。
やりすぎだと言われようと知った事ではない。確認しないのが悪いのだ。
モリーが作る物ならば渦の影響も受けないだろう。
蛇口がある水道、シャワーと浴槽がある風呂場、トイレも使いやすい物へ。そうだ、台所も収納は多めが良いだろう。木の食器以外にガラスや陶器も用意してあげよう。
可愛い可愛い愛し子達が暮らしやすいようにと願いを込めながら、モリーは温もりのある家を描く。
彼女が到着する頃には完成するだろう。
モリーがせっせと仕事をしていると、遠くから大きな笑い声が聞こえてきた。
この空間にはサミュエルとモリーしかいない。声の主がモリーでないならば、あの馬鹿笑いの発信者はただ一人だ。
「うわ、何あの吸引マシーン。面白いなあ」
サミュエルはゲラゲラとお腹を抱えて笑いながら水晶を眺めている。モリーはその様子をチラッと確認すると、今の作業に戻った。
モリーが集中して作業をしていると、サミュエルは何かを思い出したような顔になった。
「あっ、そういえばまだ置いてないっけ。ちゃんとプレゼントは置いておかないとね」
彼は誰にも聞こえないような声でそう呟くと、パチンッと指を鳴らした。そして水晶に映し出された白髪で真っ赤な瞳の女性を眺めて優しく微笑んだ。
「喜んでくれると良いけど」
ふふふっと笑うサミュエルの顔は慈愛に満ちていた。
「んー?だって仕方ないじゃん。今の子、疲れちゃって危ないしさ。元気な方がやった方がいいと思って」
「疲れているのは…サミュエル様の無茶振りが多いからではないでしょうか」
「そうとも言う?ははは!ちゃんとご褒美も用意したんだから最後は許してくれるって!大丈夫、大丈夫」
モリーは呑気な顔でデスクに置かれた水晶を眺めるサミュエルを眺めて深いため息をついた。この上司はいつも面倒な事を部下に押し付けがちだ。
モリーは眼鏡の位置を整えながら自分のデスクへと向かった。
机の上にある水晶を見つめれば、説明をしっかり受けずに送り出された哀れな魂が映っている。モリーはまた深いため息をつきながら、水晶を触って場面を切り替えた。
「この世界の渦を森以外に出すなんて…前代未聞です。ですが、彼が限界なのも事実。はあ、人の子への被害が増えなければ良いですが」
眼鏡を外し、眉間を揉みながら渦を処理している愛し子達に何かできる事はないだろうか。そんな事を考えながらもモリーはまた深くため息をついた。
「それより先にこの子を眠らせましょうか」
水晶に映るもう一人の愛し子は虚な目で部屋の中でボーッとしている。とても疲れ切った顔は哀れだ。毎日腕にある模様を見てはため息をつく日々。
昔はやる気に満ちながらやっていた渦の処理を任せても、昔は優しく微笑んでいた動物達の可愛らしい姿を見せても彼の心は晴れない。
「しかしながら500年は長すぎましたね。本当に申し訳ない事をしました。そもそもサミュエル様が棄却された候補から勝手に選んだのが1番の原因ですし、貴方には全く責任は無いのですが…。尻拭いをさせるにも人の子の身で無理をさせてしまいました」
モリーが水晶に手をかざすと、映っていた男性が急に倒れた。スウスウと寝息をたてながら眠っている。彼は見えない何かに持ち上げられるとベッドがある寝室へ運び込まれた。
「しばらくですがお眠りなさい。森の渦は心配しなくても大丈夫ですよ。あと少しで彼女がここに到着しますから」
モリーはベッドに寝かされた男性に優しく語りかけると、水晶を触ってまた画面を切り替えた。
次の画面には陽の光を浴びてキラキラと輝く金色の髪、紫色の瞳を持つ女性が映し出されていた。彼女の瞳は力強く強い信念を持った顔をしている。
「ああ、あと少しですね。うーん、会わせるのはまだ先が良いでしょう。別棟を建ててそこにいてもらいましょうか」
ああ、忙しい忙しい。
そんな事を呟きながらモリーは目の前にある書類を片付け始めた。新しく実施する企画に必要な予算の見積もりを出し書類を作成すると、それを持って水晶を見てニヤニヤと笑う上司の元へ急いだ。
「サミュエル様。今代は休ませました。しばらく寝かせておきます。彼女の到着はあと少しですが、今代が休む家屋に住まわせるのはまだ早いため、新しく建てる必要がありそうです」
「あー、そうだね。あの家もくたびれちゃったし新しくしてあげた方がいいね」
サミュエルはモリーの説明を聞きつつも目線は水晶のまま頷いた。
「こちらが予算と企画書です」
「はい、可決可決」
サミュエルは書類を確認せずに可決の判子を押す。モリーは今日何度目かわからないため息をついた。
「確認せずともよろしいのですか?」
「モリーがやれるって思って出してるものなら間違いないし、大丈夫でしょ」
「左様でございますか。では、そのようにいたします」
無表情でモリーは判子が押された書類を手に取ると、自分のデスクに向かって歩きはじめた。
上司にくるりと背を向けた瞬間、彼女の口元は弧を描いた。
彼女は彼が書類を確認しない事をわかっていた。
故に彼女はいつもよりも手心を加えた書類を作成していたのだ。少しばかり彼が困るような手心だ。
困るといっても、次の上部会議で彼が叱られる程度だろう。叱られるのは毎度のことなので、大差はない。いつも通りだ。
モリーは自席に戻ると書類を可決の箱に入れた。そして、すぐに大きな紙を取り出すとそこに絵を描き始めた。
彼女が描いているのは木製の二階建ての一軒家だ。彼女が木製の家にこだわるのは、愛し子達にとって少しでも温かさとぬくもりを感じる場所になるようにと願っているからだ。
サミュエルからは「木製より石だよ!」とか「レンガもいいよね」とか彼女の考えを否定するような言葉を投げられる。だが、今まで森に住まう愛し子たちの家を建築し続けた彼女は自分の考えを変えなかった。
「平屋の方が住みやすいでしょうか。うーん、二階建ても捨てがたいのですが、高すぎるのも…」
ブツブツと言いながら一度描いた絵を消し、また新しい家を描きは始めた。
「蛇口に慣れ親しんだ世代になってきましたし、そろそろ水回りも現代に合わせましょう。昔の暮らしも良いのですが、慣れるまでは不便ですからね」
今の家に住んだ歴代の愛し子達が住み始めてすぐの頃、井戸水を汲み生活用水を準備することを嘆く姿を何度見たことか。
外にはない季節の移ろいに戸惑う姿を何度見たことか。
彼らが外から持ち込んだ魔道具は渦の影響で使えなくなる。その度に悲しそうな顔になる子供達を何度見たことか。
森の外はどんどん発展してゆくが、森の時間は止まったまま。
だが、もう良いだろう。少しの変化があっても。
この変化さえ、時が経てば古くなるのだ。
モリーはニヤッと悪い笑みを浮かべると思い描くがまま紙に描いた。
やりすぎだと言われようと知った事ではない。確認しないのが悪いのだ。
モリーが作る物ならば渦の影響も受けないだろう。
蛇口がある水道、シャワーと浴槽がある風呂場、トイレも使いやすい物へ。そうだ、台所も収納は多めが良いだろう。木の食器以外にガラスや陶器も用意してあげよう。
可愛い可愛い愛し子達が暮らしやすいようにと願いを込めながら、モリーは温もりのある家を描く。
彼女が到着する頃には完成するだろう。
モリーがせっせと仕事をしていると、遠くから大きな笑い声が聞こえてきた。
この空間にはサミュエルとモリーしかいない。声の主がモリーでないならば、あの馬鹿笑いの発信者はただ一人だ。
「うわ、何あの吸引マシーン。面白いなあ」
サミュエルはゲラゲラとお腹を抱えて笑いながら水晶を眺めている。モリーはその様子をチラッと確認すると、今の作業に戻った。
モリーが集中して作業をしていると、サミュエルは何かを思い出したような顔になった。
「あっ、そういえばまだ置いてないっけ。ちゃんとプレゼントは置いておかないとね」
彼は誰にも聞こえないような声でそう呟くと、パチンッと指を鳴らした。そして水晶に映し出された白髪で真っ赤な瞳の女性を眺めて優しく微笑んだ。
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