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旅の終わり?
質問です
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次の日。ホープ伯爵は朝早くに部屋に訪ねてくると、午後から謁見できるようになったと予定を伝えてきた。彼は相変わらずハゲ散らかして疲れた顔をしていた。
ケイレブはお留守番、ベルナールは私と一緒に向かうことを伝えると、彼は好きにしなさいと言って頷いた。
が、謁見する私の服装についてはホープ伯爵邸VS私で朝からバトルを繰り広げた。
ホープ伯爵側は正装であるドレスを着て欲しい。既製品ではあるが、謁見する際の服装としては問題ないもを用意した。着飾って行って欲しい。
私は動きやすい格好がいい。この国のコルセットありクリノリンスタイルに似たドレスは着たくない。苦しい、動きにくい、暑苦しい!
伯爵家使用人の皆様、およびその主人である伯爵との闘いを経て、私は平民にしてはかなり上等な生地で作られたワンピースを着る権利を勝ち取った。
なーに、コルセットをつけられて息苦しくて顔を青ざめて倒れる令嬢の演技ならば任せてほしい。いや、実際には演技でもなんでもないのだが。
服装問題が片づけば、彼らは私をもみくちゃにした。
髪の毛と体のお手入れ、化粧をして、イヤリングやネックレスなどシンプルな物を身につけた。
あら不思議、磨けばめっちゃ美人じゃん!な平民(設定)の出来上がり。
旅の間は私が自分の手入れを怠っていたため、その姿で公族ですと言っても信じてもらえなかっただろうが、今の仕上がりならば「実は公女です」と名乗ってもすぐに受け入れられるだろう。
それくらい素晴らしい出来上がりに私を磨いた侍女達は満足げに頷いていた。
午後になり、ホープ伯爵と共に馬車に乗り私達は王城へと向かった。
馬車から降りる際はホープ伯爵からエスコートされ、なんだかお貴族のお嬢様気分(いや、貴族なのだけども)を味わいながら謁見の間へと向かった。
使用人が大きな両扉を開け見えた光景は、通り道を見せつけるような真っ赤な絨毯が敷かれ、その終着点には皇帝陛下含む主要メンバーが勢揃いで待っている様だった。
壇上まで繋がる絨毯をしずしずと歩き、私は隣にいるホープ伯爵を真似て跪いた。
「面をあげ、楽にせよ」
威圧感のある声が聞こえ、俯いていた私は指示通り頭を上げ立ち上がった。そして、目線よりはるかに高い位置から玉座にドーンッと偉そうに座っている皇帝陛下を見つめて微笑んだ。敵対する気はありませんと態度で表せば、皇帝陛下は少し力を抜いた。
そして、彼は合図するかの様にサッと片手をあげた。
「発言を許す」
「皇帝陛下にご挨拶申し上げます。お初にお目にかかります。エヴィと申します」
立った状態でスカートの両裾を軽く摘んで膝を落とし、軽く頭を下げて発言すれば周りの人達が少しザワザワとした。
(平民にしては礼儀がなってる女作戦、初手は成功ね)
ふふふっと内心ドヤ顔で礼をとれば、皇帝陛下よりまた楽にするよう声掛けがきた。私は顔を上げ姿勢を正すと目の前の人たちを真っ直ぐ見据えた。
皇帝陛下は私を品定めするような目つきで話を始めた。
「うむ。お主は今回の争いにおいて我が国が勝利する方法を知っていると聞いた。間違いないか?」
「その点を含めて、陛下にいくつかお伺いしたいことがございます」
この争い勝敗なんてあってないようなもの。肯定も否定もせずに言葉を投げ掛ければ、皇帝陛下はムッとした顔になった。
「我が答えられることならば、教えてやろう。それがこちらの勝利となることならば、な」
「ありがとうございます。では早速、何点か確認したいことがございます」
「うむ。申してみよ」
目の前にいる皇帝陛下は見た目50代くらい。キラキラと輝く金色の髪、シャンパンゴールドの様な薄めの金色の瞳。体は大柄で立派な顎髭あり。武人気質なのか、短気そうな雰囲気をしている。
(脳筋の割に顔は整ってるわね。それに色が金と金って、キラキラにも程がある)
私は目の前にいる彼の観察を済ますと、にっこりと微笑んだ。
「ではまず、皇女殿下がご結婚されるお相手の条件として提示されたのは【婚姻する相手は皇女殿下よりも強い相手】である。この認識で相違ございませんか?」
「うむ。間違いない。常日頃からそう言っておった。あの子は幼い頃から剣を振り回し、騎士になるのだと言っては周りを困らせておった。お転婆な娘でな、我のように剣を持ち国を守りたいのだと語る姿を見るたび…女として生まれてきた事を悔やんだ回数は数えきれない」
「では、皇女殿下を打ち負かしたミャティ国の王太子殿下について皇女殿下は【いい】【好ましい】と発言していた。この点も相違ございませんか?」
「うむ。間違いない。侍女からその様に報告を受けておる」
「差し支えなければ、その証言をなさった方から皇女殿下のお話をお伺いしたいのですが、ご許可いただけますか?」
「ふむ。構わぬ。あの侍女をここに」
皇帝陛下は顎髭を撫でながら近くにいた侍従に指示を出した。
「ありがとうございます。次に、皇女殿下の体に証の模様はなかったとの事ですが、それはどの部分まで確認されてのことでしょうか」
「…どの部分とは難しい事を言う。おそらくだが、入浴の手伝いをしている範囲で確認できる部位ではないか?」
「では、その証言をした方ともお会いしたいのですが、ご許可いただけますか?」
「ああ、問題ない。そのどれも今呼び出した専属侍女の証言だ。…ああ。来たな。こちらへまいれ」
皇帝陛下と会話をしている間に呼び出された人物が謁見の間やってきた。良い布地の侍女服を着た彼女は私の隣にやってくると跪いた。
「あの子の専属侍女、ノーラだ。ノーラよ、この者にあの子が話していた内容と体の証について教えてやってくれ」
「はっ。かしこまりました」
ノーラと呼ばれた女性は跪いたまま軽く頭を下げると、立ち上がって私の斜め前に立った。皇帝陛下と私に対して背を向けずに見える位置に移動すると、彼女は説明を始めた。
「姫様は、勝敗がついてすぐにとても興奮したご様子で控え室にいらっしゃいました。そして、私に鎧を渡しながら〈素晴らしい剣術であった。私は世界で自分が1番強いのだと慢心していたようだ。自身をより成長させるためには外に飛び出す必要があるのだろうな。初心を思い出させてもらったよ。出来れば彼から剣術を指南してもらいたいところだ。ああ、彼は本当に良い相手だ。隣国にいる剣士達が羨ましい〉とおっしゃっておりました」
やはり、第三者の解釈ではなく現場にいた人間に聞いて正解だったようだ。
皇女殿下が王太子殿下を好ましいと感じていたのは確かだが、【結婚相手として】好ましい相手であるという認識ではなさそうだ。
それよりも脳筋仲間として好ましい。そんな感じに聞こえるが、なぜ結婚相手になったのだろうか。疑問しかない。
だが、彼女の話を聞いて皇帝陛下はウンウンと満足げに頷いているだけだった。私はそんな様子を横目に、ノーラさんに質問を投げかけた。
「こんにちわ。私の名前はエヴィと申します。今回の件についていくつかお伺いいたします。恐れ入りますが、貴方様のことはノーラさんとお呼びしてもよろしいでしょうか」
「ええ、構いません」
ノーラさんは凛っとした佇まいで頷いた。皇族の侍女になる女性ならば貴族の可能性が高い。ベルナールの指摘は的確だった!彼女はとても気品に溢れ、立ち姿すら美しかった。
公国の人々は公族もその周りの家臣達も気安い雰囲気だった。私に仕えてくれていたアメリアも貴族令嬢であったが、ここまで美しい立ち姿をしているのは見たことがない。
(やっぱ、うちはちょっとおかしいのよねー)
改めて自国の異様さを感じながら、失礼がない様に会話を進める方向で間違いないと確信した私は急に不安になってきた。
私は平民の設定であり、今回この様に平民でありながら質問の場に連れ出されているのも異例中の異例。聞きたい事を聞き出すには、ちゃんとしなければいけない。
(私の敬語、あってるのかなあ…不安)
心の中で呟けば、私の肩にいるベルナールがすりすりと私の頬に頭を擦り付けてきた。まるで、大丈夫だ頑張れと言ってるかの様だ。それに勇気づけられつつ、私は話を続けた。
「ありがとうございます。では、ノーラさん。何点か確認したいことがございます。まず、皇女殿下は【結婚をする相手は自身より強い相手が良い】とおっしゃっていた。先ほどおっしゃっていた皇女殿下のお話は、一言一句間違いない。この点について相違ございませんか?」
「ええ。間違いございません。姫様は日頃から〈一緒にいるなら自分よりも強い相手がいい。だって自分自身を高められるじゃないか〉とおっしゃっておりました」
「ちなみに、皇女殿下は【婚姻をするなら】と断言されていましたか?」
「…え?………いえ、婚姻に関してとは特に……断言はされておりませんでした。しかし、本当に日頃から〈お付き合いをするならばお互いに高め合える相手が良い〉とおっしゃっておりました。言葉は違えど同じことをお話しされており、間違いございません」
ノーラさんは少し焦ったような顔になるが、私はその様子をじっと見つめ声のトーンに気をつけながら話を続けた。
「つまり、【結婚する相手】ならばと断言をされてはいないのですね」
「……はい。明確にお言葉として出してはおりませんでした」
私の質問に渋々と言った様子で頷くノーラさん。やっぱりなぁと言う気持ちになりながら、再び皇帝陛下に目線を向けると彼は〈ほら、言った通りだろう〉と目で語っていた。
(いやいや。付き合う相手なんて友達や同僚など人間関係全部に使えるじゃない。なんで結婚する相手だけに限定するのよ。まあ、間違いではないだろうけど…)
なんとなく嫌な気持ちになりながらも私は、ノーラさんに微笑みかけた。
「では、最後にもう一点。守り手の証は確認できなかった。相違ございませんか?」
「は、はい。日頃からお世話をしておりますが、いつも通り姫様の体に異変はございませんでした。剣術の訓練の際にお怪我をされることは多々ございましたが、大きな傷も残っておりません。むしろ、傷はほぼございません。令嬢としても、とても美しいお姿です。お会いした最後の日も入浴のお手伝いをいたしましたが、本当にいつも通りでした。異変はございません」
「異変とは?具体的にどんなことでしょうか」
ノーラさんは少し左上を向き、瞬きを多くしながら話をした。
「新しい傷や肌荒れ、できものなどでございます。体の隅々まで確認しております。剣術を好まれる姫様が大きな傷を残さぬよう、しっかり確認し早期に治療するように陛下より仰せつかっております」
「その確認作業の際に、模様のようなものがあればすぐにわかる。ゆえに、確認できなかったのは証がなかったからだ。そう判断をしたということでしょうか」
「は、はい」
重箱の隅をつつくような質問をされ続けているからか、ノーラさんは冷や汗をかき始め焦った様子で頷いている。私は彼女への質問を続けた。
「ちなみに、皇女殿下は毎日訓練をされていらっしゃったのでしょうか」
「は、はい。もちろんでございます」
「では、手には立派な剣だこもあるのでしょうね」
「ええ。おっしゃる通りでございます」
「それでも、彼女の体に傷はほぼ無かったのですね」
「はい。輿入れの際に女性として貶められる事がないよう、お体の隅々まで細心の注意を払っておりました。姫様のお体はとても美しいままでございます」
「なるほど。細心の注意にて行う確認についてですが、口の中まで確認はされましたか?」
私から思ってもいなかった場所を指摘され、ノーラさんは不思議そうな顔になった。
「く、口のなか…で、ございますか?」
「はい。守り手の証は体のいずれかの部分に現れる。見えやすい、見せやすい場所に現れやすいだけで実際には…そう、舌になど。普段はよく見えない場所にも現れる可能性があると私は思っております。もう一度お尋ねいたします。口の中、舌まで確認なさいましたか?」
私の言葉に周囲がザワザワとし始めた。そして、目の前のノーラさんはサァァッと青ざめた。口もパクパクと動かしており、言葉を紡ぐことができないでいた。
「ノーラ。どうなんだ」
その様子を制するように皇帝がノーラさんに声をかけた。彼女はハッとした顔になり、考えるような顔になった。自分の行動を振り返っているようだ。
皇帝陛下は無表情ではあるが、開戦のきっかけでもある【証はない】という仮説が覆されそうで苛立ちを感じているようだ。玉座の手すりに乗せられた手の指は、イライラしたように動いていた。
ノーラさんは思案の末、土下座をする勢いで床に突っ伏した。
「…も、申し訳、ございません。姫様のお口の中までは確認しておりません。身支度のお手伝いはいたしますが、洗顔や歯磨きはタオルをお渡しするぐらいで…」
「あの子が口を開ける。そんな仕草の時にサッと確認することもなかったんだな」
「は、はい。申し訳ございません」
皇帝陛下はノーラさんの返答を聞いて、深いため息をついた。
「つまり、皇女殿下が守り手である可能性は否定できない。と、いうことでございますね」
私は皇帝陛下に印籠を渡すかのように、にっこり微笑んだ。
ケイレブはお留守番、ベルナールは私と一緒に向かうことを伝えると、彼は好きにしなさいと言って頷いた。
が、謁見する私の服装についてはホープ伯爵邸VS私で朝からバトルを繰り広げた。
ホープ伯爵側は正装であるドレスを着て欲しい。既製品ではあるが、謁見する際の服装としては問題ないもを用意した。着飾って行って欲しい。
私は動きやすい格好がいい。この国のコルセットありクリノリンスタイルに似たドレスは着たくない。苦しい、動きにくい、暑苦しい!
伯爵家使用人の皆様、およびその主人である伯爵との闘いを経て、私は平民にしてはかなり上等な生地で作られたワンピースを着る権利を勝ち取った。
なーに、コルセットをつけられて息苦しくて顔を青ざめて倒れる令嬢の演技ならば任せてほしい。いや、実際には演技でもなんでもないのだが。
服装問題が片づけば、彼らは私をもみくちゃにした。
髪の毛と体のお手入れ、化粧をして、イヤリングやネックレスなどシンプルな物を身につけた。
あら不思議、磨けばめっちゃ美人じゃん!な平民(設定)の出来上がり。
旅の間は私が自分の手入れを怠っていたため、その姿で公族ですと言っても信じてもらえなかっただろうが、今の仕上がりならば「実は公女です」と名乗ってもすぐに受け入れられるだろう。
それくらい素晴らしい出来上がりに私を磨いた侍女達は満足げに頷いていた。
午後になり、ホープ伯爵と共に馬車に乗り私達は王城へと向かった。
馬車から降りる際はホープ伯爵からエスコートされ、なんだかお貴族のお嬢様気分(いや、貴族なのだけども)を味わいながら謁見の間へと向かった。
使用人が大きな両扉を開け見えた光景は、通り道を見せつけるような真っ赤な絨毯が敷かれ、その終着点には皇帝陛下含む主要メンバーが勢揃いで待っている様だった。
壇上まで繋がる絨毯をしずしずと歩き、私は隣にいるホープ伯爵を真似て跪いた。
「面をあげ、楽にせよ」
威圧感のある声が聞こえ、俯いていた私は指示通り頭を上げ立ち上がった。そして、目線よりはるかに高い位置から玉座にドーンッと偉そうに座っている皇帝陛下を見つめて微笑んだ。敵対する気はありませんと態度で表せば、皇帝陛下は少し力を抜いた。
そして、彼は合図するかの様にサッと片手をあげた。
「発言を許す」
「皇帝陛下にご挨拶申し上げます。お初にお目にかかります。エヴィと申します」
立った状態でスカートの両裾を軽く摘んで膝を落とし、軽く頭を下げて発言すれば周りの人達が少しザワザワとした。
(平民にしては礼儀がなってる女作戦、初手は成功ね)
ふふふっと内心ドヤ顔で礼をとれば、皇帝陛下よりまた楽にするよう声掛けがきた。私は顔を上げ姿勢を正すと目の前の人たちを真っ直ぐ見据えた。
皇帝陛下は私を品定めするような目つきで話を始めた。
「うむ。お主は今回の争いにおいて我が国が勝利する方法を知っていると聞いた。間違いないか?」
「その点を含めて、陛下にいくつかお伺いしたいことがございます」
この争い勝敗なんてあってないようなもの。肯定も否定もせずに言葉を投げ掛ければ、皇帝陛下はムッとした顔になった。
「我が答えられることならば、教えてやろう。それがこちらの勝利となることならば、な」
「ありがとうございます。では早速、何点か確認したいことがございます」
「うむ。申してみよ」
目の前にいる皇帝陛下は見た目50代くらい。キラキラと輝く金色の髪、シャンパンゴールドの様な薄めの金色の瞳。体は大柄で立派な顎髭あり。武人気質なのか、短気そうな雰囲気をしている。
(脳筋の割に顔は整ってるわね。それに色が金と金って、キラキラにも程がある)
私は目の前にいる彼の観察を済ますと、にっこりと微笑んだ。
「ではまず、皇女殿下がご結婚されるお相手の条件として提示されたのは【婚姻する相手は皇女殿下よりも強い相手】である。この認識で相違ございませんか?」
「うむ。間違いない。常日頃からそう言っておった。あの子は幼い頃から剣を振り回し、騎士になるのだと言っては周りを困らせておった。お転婆な娘でな、我のように剣を持ち国を守りたいのだと語る姿を見るたび…女として生まれてきた事を悔やんだ回数は数えきれない」
「では、皇女殿下を打ち負かしたミャティ国の王太子殿下について皇女殿下は【いい】【好ましい】と発言していた。この点も相違ございませんか?」
「うむ。間違いない。侍女からその様に報告を受けておる」
「差し支えなければ、その証言をなさった方から皇女殿下のお話をお伺いしたいのですが、ご許可いただけますか?」
「ふむ。構わぬ。あの侍女をここに」
皇帝陛下は顎髭を撫でながら近くにいた侍従に指示を出した。
「ありがとうございます。次に、皇女殿下の体に証の模様はなかったとの事ですが、それはどの部分まで確認されてのことでしょうか」
「…どの部分とは難しい事を言う。おそらくだが、入浴の手伝いをしている範囲で確認できる部位ではないか?」
「では、その証言をした方ともお会いしたいのですが、ご許可いただけますか?」
「ああ、問題ない。そのどれも今呼び出した専属侍女の証言だ。…ああ。来たな。こちらへまいれ」
皇帝陛下と会話をしている間に呼び出された人物が謁見の間やってきた。良い布地の侍女服を着た彼女は私の隣にやってくると跪いた。
「あの子の専属侍女、ノーラだ。ノーラよ、この者にあの子が話していた内容と体の証について教えてやってくれ」
「はっ。かしこまりました」
ノーラと呼ばれた女性は跪いたまま軽く頭を下げると、立ち上がって私の斜め前に立った。皇帝陛下と私に対して背を向けずに見える位置に移動すると、彼女は説明を始めた。
「姫様は、勝敗がついてすぐにとても興奮したご様子で控え室にいらっしゃいました。そして、私に鎧を渡しながら〈素晴らしい剣術であった。私は世界で自分が1番強いのだと慢心していたようだ。自身をより成長させるためには外に飛び出す必要があるのだろうな。初心を思い出させてもらったよ。出来れば彼から剣術を指南してもらいたいところだ。ああ、彼は本当に良い相手だ。隣国にいる剣士達が羨ましい〉とおっしゃっておりました」
やはり、第三者の解釈ではなく現場にいた人間に聞いて正解だったようだ。
皇女殿下が王太子殿下を好ましいと感じていたのは確かだが、【結婚相手として】好ましい相手であるという認識ではなさそうだ。
それよりも脳筋仲間として好ましい。そんな感じに聞こえるが、なぜ結婚相手になったのだろうか。疑問しかない。
だが、彼女の話を聞いて皇帝陛下はウンウンと満足げに頷いているだけだった。私はそんな様子を横目に、ノーラさんに質問を投げかけた。
「こんにちわ。私の名前はエヴィと申します。今回の件についていくつかお伺いいたします。恐れ入りますが、貴方様のことはノーラさんとお呼びしてもよろしいでしょうか」
「ええ、構いません」
ノーラさんは凛っとした佇まいで頷いた。皇族の侍女になる女性ならば貴族の可能性が高い。ベルナールの指摘は的確だった!彼女はとても気品に溢れ、立ち姿すら美しかった。
公国の人々は公族もその周りの家臣達も気安い雰囲気だった。私に仕えてくれていたアメリアも貴族令嬢であったが、ここまで美しい立ち姿をしているのは見たことがない。
(やっぱ、うちはちょっとおかしいのよねー)
改めて自国の異様さを感じながら、失礼がない様に会話を進める方向で間違いないと確信した私は急に不安になってきた。
私は平民の設定であり、今回この様に平民でありながら質問の場に連れ出されているのも異例中の異例。聞きたい事を聞き出すには、ちゃんとしなければいけない。
(私の敬語、あってるのかなあ…不安)
心の中で呟けば、私の肩にいるベルナールがすりすりと私の頬に頭を擦り付けてきた。まるで、大丈夫だ頑張れと言ってるかの様だ。それに勇気づけられつつ、私は話を続けた。
「ありがとうございます。では、ノーラさん。何点か確認したいことがございます。まず、皇女殿下は【結婚をする相手は自身より強い相手が良い】とおっしゃっていた。先ほどおっしゃっていた皇女殿下のお話は、一言一句間違いない。この点について相違ございませんか?」
「ええ。間違いございません。姫様は日頃から〈一緒にいるなら自分よりも強い相手がいい。だって自分自身を高められるじゃないか〉とおっしゃっておりました」
「ちなみに、皇女殿下は【婚姻をするなら】と断言されていましたか?」
「…え?………いえ、婚姻に関してとは特に……断言はされておりませんでした。しかし、本当に日頃から〈お付き合いをするならばお互いに高め合える相手が良い〉とおっしゃっておりました。言葉は違えど同じことをお話しされており、間違いございません」
ノーラさんは少し焦ったような顔になるが、私はその様子をじっと見つめ声のトーンに気をつけながら話を続けた。
「つまり、【結婚する相手】ならばと断言をされてはいないのですね」
「……はい。明確にお言葉として出してはおりませんでした」
私の質問に渋々と言った様子で頷くノーラさん。やっぱりなぁと言う気持ちになりながら、再び皇帝陛下に目線を向けると彼は〈ほら、言った通りだろう〉と目で語っていた。
(いやいや。付き合う相手なんて友達や同僚など人間関係全部に使えるじゃない。なんで結婚する相手だけに限定するのよ。まあ、間違いではないだろうけど…)
なんとなく嫌な気持ちになりながらも私は、ノーラさんに微笑みかけた。
「では、最後にもう一点。守り手の証は確認できなかった。相違ございませんか?」
「は、はい。日頃からお世話をしておりますが、いつも通り姫様の体に異変はございませんでした。剣術の訓練の際にお怪我をされることは多々ございましたが、大きな傷も残っておりません。むしろ、傷はほぼございません。令嬢としても、とても美しいお姿です。お会いした最後の日も入浴のお手伝いをいたしましたが、本当にいつも通りでした。異変はございません」
「異変とは?具体的にどんなことでしょうか」
ノーラさんは少し左上を向き、瞬きを多くしながら話をした。
「新しい傷や肌荒れ、できものなどでございます。体の隅々まで確認しております。剣術を好まれる姫様が大きな傷を残さぬよう、しっかり確認し早期に治療するように陛下より仰せつかっております」
「その確認作業の際に、模様のようなものがあればすぐにわかる。ゆえに、確認できなかったのは証がなかったからだ。そう判断をしたということでしょうか」
「は、はい」
重箱の隅をつつくような質問をされ続けているからか、ノーラさんは冷や汗をかき始め焦った様子で頷いている。私は彼女への質問を続けた。
「ちなみに、皇女殿下は毎日訓練をされていらっしゃったのでしょうか」
「は、はい。もちろんでございます」
「では、手には立派な剣だこもあるのでしょうね」
「ええ。おっしゃる通りでございます」
「それでも、彼女の体に傷はほぼ無かったのですね」
「はい。輿入れの際に女性として貶められる事がないよう、お体の隅々まで細心の注意を払っておりました。姫様のお体はとても美しいままでございます」
「なるほど。細心の注意にて行う確認についてですが、口の中まで確認はされましたか?」
私から思ってもいなかった場所を指摘され、ノーラさんは不思議そうな顔になった。
「く、口のなか…で、ございますか?」
「はい。守り手の証は体のいずれかの部分に現れる。見えやすい、見せやすい場所に現れやすいだけで実際には…そう、舌になど。普段はよく見えない場所にも現れる可能性があると私は思っております。もう一度お尋ねいたします。口の中、舌まで確認なさいましたか?」
私の言葉に周囲がザワザワとし始めた。そして、目の前のノーラさんはサァァッと青ざめた。口もパクパクと動かしており、言葉を紡ぐことができないでいた。
「ノーラ。どうなんだ」
その様子を制するように皇帝がノーラさんに声をかけた。彼女はハッとした顔になり、考えるような顔になった。自分の行動を振り返っているようだ。
皇帝陛下は無表情ではあるが、開戦のきっかけでもある【証はない】という仮説が覆されそうで苛立ちを感じているようだ。玉座の手すりに乗せられた手の指は、イライラしたように動いていた。
ノーラさんは思案の末、土下座をする勢いで床に突っ伏した。
「…も、申し訳、ございません。姫様のお口の中までは確認しておりません。身支度のお手伝いはいたしますが、洗顔や歯磨きはタオルをお渡しするぐらいで…」
「あの子が口を開ける。そんな仕草の時にサッと確認することもなかったんだな」
「は、はい。申し訳ございません」
皇帝陛下はノーラさんの返答を聞いて、深いため息をついた。
「つまり、皇女殿下が守り手である可能性は否定できない。と、いうことでございますね」
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