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旅の終わり?
長い説明を聞いています②
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「皇女殿下、めっちゃ良い子…」
私の言葉にホープ伯爵は大きく頷いた。
「母親を亡くしても見捨てられることなく、本来なら女性だからと諌められるような事も否定されず。彼女が生きやすい環境を整え、それを支える良き乳母を用意した。父親としてみれば、彼女にとってはとても良い父親だったのだろう。皇女殿下は皇帝陛下をとても尊敬していた。だが、盲目的に信頼していたため彼女は父親がする事ならば間違いはないとも考えていた」
「…ちょっと思い込み激しくて、自分の意見を曲げない頑固さ。信頼している相手のこと盲目的に信じてしまう思考。…ある意味、皇女殿下も立派な脳筋2世」
「皇女殿下も頭まで筋肉だと!?」
「だからある意味ですってば!」
「むむむ」
ホープ伯爵は納得いかない顔で唸った。だが話の続きがあるのだろう。そのまま話を続けた。
「だが、このままでは皇女殿下の命が危ない。なぜなら彼女が考えるよりもこの問題は大きくなりすぎたのだ。私は彼女の婚姻を推し進めた。皇帝陛下の考える皇女殿下よりも強い男子を条件にな。そしてその後のことは君が知っている通りだ」
「でも剣術大会は皇女殿下の婿探しであるとなぜ招待国に教えなかったんですか?」
彼であれば正直に話して大会を開催していそうなのに。そんな疑問からの質問をすれば、ホープ伯爵は何かを思い出して怒ったような顔になった。
「私が作成した案内にはしっかりと記載があった。主催者側としてもはっきりさせるべき点だと私以外の大臣達も考えていたからね。それなのにあの脳筋野郎が!!!」
「あー。やらかしたんだ。娘を嫁がせないために…」
「うむ。皇帝命令まで使ってわざと案内から文言を消したのだ。あの男は平民から貴族まで優秀な人材を確保する柔軟な思考を持っているにも関わらず、同盟国であっても領土を広げるためには力を振るっても良いと考えていたのだ。私にはそんなそぶりもみせず長年隠してな。今回のことでこれ幸いと…。対象国はどこでもよかったのだ。それがたまたまミャティ国だっただけなのだよ」
『利己的な考えをよしとする暴君ですね。もっと突いてやればよかったです』
ベルナールの言葉に私はウンウンと頷いて同意した。
「ここまでクズだと知ってたら体なんて触らせなかったのに!くっそー。触らせ損だわ。しっかり仕返ししてやる」
脳筋というか、なんか他の気質がある気がするがこれは何というものだったか。喉の奥に小骨が刺さったかのように違和感がある。
プラスして体を触られた時の不快感を思い出し、オエッと嗚咽を漏らす仕草をすればベルナールがそっと私に水が入ったコップを渡してきた。受け取って一口飲むと、口の中がすっきりとした。
ベルナールは私に変わって話を進めた。
『皇女殿下はご自身の婿探しだとご存知でしたか?』
「ああ。ご存じだった。なぜなら私が今回の大会を開催する意味、そして彼女の取り巻く状況の危うさをお伝えしたからね。皇女殿下は本当によくできたお方で私の話を聞いても〈それがこの国の安定につながるならば〉と微笑まれた」
『女性で生まれてきたことが、とても惜しいお方ですね』
「ああ、本当にそうなのだ。皇帝陛下が皇女殿下を女帝にする道を切り開くと一言おっしゃってくだされば…私は皇女殿下のために力の限り尽くすつもりだった。計画の草案も作成し、いつでも動けるようにしていた。本当に残念でならない…」
ホープ伯爵は悲しそうに微笑んだ。
「彼女が姿を消したのはいつ頃なんですか?」
私の質問にホープ伯爵は過去を思い出しながら返答した。
「確か、剣術大会が終わって7日経った頃だろうか。ミャティ国との交渉が決裂し始めた頃だよ」
『彼女が国の情勢を憂いて家出した可能性は?』
「うむ。実のところ、当初から私はそう考えていた。証がない可能性が高かったし、皇女殿下の性格を考えても自身が消えれば国内外のいざこざがなくなるのだと結論を出すのでは?と、考えていたからね。重鎮達も口には出さなかったが、そう考えている人は多いはずだ。皇帝陛下が意地になって相手側に噛みつき始めたのも、おそらく愛娘が出奔したと考えたからだろう。それに、皇女殿下はミャティ王太子殿下が婚姻されているのご存じだった」
「え?そうなんですか?」
ホープ伯爵は頷くと話を続けた。
「それはそうだろう。隣国の王族の婚姻だ。私でさえ把握していることなのだ。彼女が知らぬわけがない」
「そうですよねー」
「皇女殿下は別に側妃でもよかったのだろう。勝敗が決まった後にお会いした時も〈愛がある婚姻ではなくとも、友愛や家族愛があれば良い。私にとってそこは重要ではない〉とおっしゃっていたからね」
皇女殿下の話を聞けば聞くほど、脳筋エロ親父の所業が許せない。私はもともと考えていた案をホープ伯爵に話すことにした。
「伯爵様。私にとって初めは皇女殿下が守り手であるか否かはあまり重要視していなかった。この点をしっかりお伝えした上で、私がこの件を解決するにあたって考えていたことなのですが…」
「ふむ」
ホープ伯爵は私の話を聞く姿勢になると、ジッと見定めるような目つきになった。
「初めは、証がある可能性をつつき私自身が守り手であることを話した上で、実は森から神託がおりこの国の第3皇女殿下とともに森に来るよう指示された。だが、いらっしゃらない。必ず連れてくるようにと言われているが、どうしよう。では、本当にミャティ国に皇女殿下がいるのか確かめてくる。その流れでうちのケイレブを紹介。守り手の要望により、一旦休戦し交渉をする。多分言い争いになるため、話の流れで王太子殿下とケイレブを戦わせ、ケイレブが勝利する。これで、王太子殿下は皇女殿下よりも強いがケイレブよりは弱い。ケイレブは実質皇女殿下より強い。よってミャティ国は皇女殿下の婚姻先には相応しくない。戦う理由がなくなった頃合いに、魔道具を使って森からの神託を演出。森の判断により、皇女殿下はすでに守り手として選ばれ役目を果たしている。早くきなさいと言われて、皇女殿下の身元が確定し、終戦。そんな感じで考えてたんですけど…」
「ほうほう。それだと実際には皇女殿下の行方ははっきりしないままではあるが、戦をやめさせる理由にはできるな。あとは皇帝陛下の頭を下げさせ、今後このようなことをしでかさないよう誓わせる。そんな流れが見えたが…うーむ」
「うちのケイレブはめちゃつよなので、絶対に勝てます。狼の姿でも瞬殺でしょうが、実は最近私が作った魔道具で人型に変化できるようになったんです。剣も使えます」
ホープ伯爵は私の隠し球に少し驚くような顔になった。だがすぐに受け入れたのか「そうなんだなあ」という顔になり、自身の薄い頭を撫でながら話し始めた。
「だが、私としては皇女殿下が本当に守り手として生きていらっしゃるのか。それとも他国で身分を隠しながらも自分らしく生きていらっしゃるのか。それが1番知りたい。彼女の行く末が心配なのだ」
「そうですよねー。私も伯爵様のお話を聞いてそう思ってますもの。でも、現段階だと私達にはそれを確認する術がありません」
私とホープ伯爵が一緒になってため息をつくと、ベルナールが不思議そうな声で話しかけてきた。
『ご主人様。何かお忘れではないですか?』
「え?」
なんのことかわからず首を傾げれば、ベルナールは胸に手を当てて軽く頭を下げた。
『私は万能の魔道具。ご主人様に足りぬもを補う物です。私に皇女殿下を探すように申しつけてくだされば良いのです』
「え、でも…もし本当に森の中にいるとしたら?あそこは守り手か守り手候補しか入れないじゃない」
『その点も問題ございません。ご主人様。私は万能の魔道具。ただ、命じてくだされば良いのです』
ベルナールは下げた頭をあげると、にっこりと微笑んだ。
『いかがなさいますか?全てご主人様のご意志に従います。私は貴方様のために存在しているのですから』
私はベルナールの言葉を聞きながら、うううううっと唸り声を出した。助けを求めるようにホープ伯爵に目線を向けるが、彼は私達の会話に驚きを隠せないようで唖然としている。ケイレブは話を途中までは聞いていたのだろうが、お肉食べ放題で満腹になり床で伏せてプープー寝ている。
私は唸りながら悩みに悩んだ。そして、結論を伝えるために口を開いた。
「お願い、ベルナール。キャスリーン皇女殿下を探して。もし、森で守り手として過ごしているのならば…1番近い街まで来て父親や彼女を心配する人に会ってほしい。そして、しっかりお別れをしてほしいって伝えてくれない?もし、国外に出て過ごしているのであれば、元気だと手紙だけでも送ってあげてほしい。私も含めて、貴方を心配してますって伝えて欲しい。…できるかな?」
ベルナールは私の言葉を聞いて優しくは微笑んだ。
『もちろんでございます。必ずお伝えいたします』
「う、うん。危なくなったらすぐに帰ってくるのよ!」
『はい』
「アンタも急に消えたら許さないんだからね!」
『…はい』
優しく微笑む顔を見ていると、急に彼が目の前からいなくなってしまうような気持ちになった。私は溢れる涙を堪えると、椅子から立ち上がって座ったままのベルナールの背中に抱きついた。
「絶対、絶対、絶対だからね。急にいなくならないで」
『はい。もちろんです。では、ご主人様。早速皇女殿下を探しに行ってまいります』
「うううう」
なんだか離し難い。私はベルナールの大きな背中に顔を埋めてイヤイヤッと首を横に振った。ベルナールは私が甘えている様子をクスクスと笑いながら、ホープ伯爵に目線を向けて軽く頭を下げた。
ホープ伯爵は座ったまま姿勢を正すとベルナールに向かって胸に手を当て頭を下げた。まるで王族に敬意を払う臣下のように。
私はしばらくベルナールの背中にひっついていたが、渋々離れた。そして、収納ポーチをあさって目的のもを取り出した。ベルナールは椅子から立ち上がり、今にも行ってしまいそうな様子だ。
私はベルナールの正面に立つと、旅を出てからあえて使わないようにしていた魔道具を手渡した。
「ベルナール。もし、直接伯爵様達を皇女殿下と会わせることができないならこの道具を使って。通信魔道具で…」
『ああ、なるほど。連絡を入れさせるのですね。かしこまりました。しかし、ご主人様はこの道具を所持されていたのですね。魔道具として普及されているものでも一般的なものなので所持しているとは思っていましたが、使われる姿を見たことありませんでした』
「故郷に連絡をいれたりしたら、里心がついて森に行きたくなくなるかなと。だって私が今まで歩んできた道は振り返らず、まっすぐ前を向いて歩かなきゃって思ってたから。でもベルナールは違うでしょ?私が置いていく存在じゃないもの。だから、渡しておくね」
私の言葉にベルナールは困ったような嬉しいような顔になると、床に片膝をついて跪いた。
『私、ベルナール・デル・セトレニアはエヴィ・ピデン公女殿下に一生の忠誠を誓います。貴方様が求めるものを補うために、貴方様のために尽くします。例え私の体が朽ちようとも、貴方様が私を必要だとあれば見守っております。貴方様が私を不要だと、そうおっしゃられる日まで』
まるで騎士が忠誠を誓うような宣言に私の心がドキドキと高鳴った。正直ベルナールの容姿は自分の好みだし、彼がもし私と同じ時代に生きていたならば恋をした可能性だってアリ寄りのアリだ。
初めは存在がうざかったが、一緒に旅をして彼の優しさ、賢さ、強さ…色々な一面を見たことで今では側に居なければ心に隙間ができてしまうような存在になった。
(だからなのかな。こんなに胸が苦しいのは…ザワザワするし、ムズムズする)
私は自然と耳が熱くなるのを感じつつ、ベルナールに向かって手の甲を差し出した。
ベルナールはその手を両手で恭しく手に取ると、手の甲に軽く口付けをしてきた。
『では、行ってまいります。早くて2日ほどで連絡が取れるかと思います。もしも1週間経っても戻らない場合は、一度この国の森の入り口までお越しください』
「わかったわ。頼んだわよ」
『仰せの通りに』
ベルナールは私の手を軽く撫でた。そして手の甲から手の平にクルッと回すと、手の平の真ん中にまた軽く口付けた。私から声をかける前に彼は何も言わずにポワンッと白い煙と共にその場から消えた。
そして、彼が存在した証である煙も儚く消えた。
手の平で感じた柔らかい唇の感触は残っているのに…。
私の言葉にホープ伯爵は大きく頷いた。
「母親を亡くしても見捨てられることなく、本来なら女性だからと諌められるような事も否定されず。彼女が生きやすい環境を整え、それを支える良き乳母を用意した。父親としてみれば、彼女にとってはとても良い父親だったのだろう。皇女殿下は皇帝陛下をとても尊敬していた。だが、盲目的に信頼していたため彼女は父親がする事ならば間違いはないとも考えていた」
「…ちょっと思い込み激しくて、自分の意見を曲げない頑固さ。信頼している相手のこと盲目的に信じてしまう思考。…ある意味、皇女殿下も立派な脳筋2世」
「皇女殿下も頭まで筋肉だと!?」
「だからある意味ですってば!」
「むむむ」
ホープ伯爵は納得いかない顔で唸った。だが話の続きがあるのだろう。そのまま話を続けた。
「だが、このままでは皇女殿下の命が危ない。なぜなら彼女が考えるよりもこの問題は大きくなりすぎたのだ。私は彼女の婚姻を推し進めた。皇帝陛下の考える皇女殿下よりも強い男子を条件にな。そしてその後のことは君が知っている通りだ」
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彼であれば正直に話して大会を開催していそうなのに。そんな疑問からの質問をすれば、ホープ伯爵は何かを思い出して怒ったような顔になった。
「私が作成した案内にはしっかりと記載があった。主催者側としてもはっきりさせるべき点だと私以外の大臣達も考えていたからね。それなのにあの脳筋野郎が!!!」
「あー。やらかしたんだ。娘を嫁がせないために…」
「うむ。皇帝命令まで使ってわざと案内から文言を消したのだ。あの男は平民から貴族まで優秀な人材を確保する柔軟な思考を持っているにも関わらず、同盟国であっても領土を広げるためには力を振るっても良いと考えていたのだ。私にはそんなそぶりもみせず長年隠してな。今回のことでこれ幸いと…。対象国はどこでもよかったのだ。それがたまたまミャティ国だっただけなのだよ」
『利己的な考えをよしとする暴君ですね。もっと突いてやればよかったです』
ベルナールの言葉に私はウンウンと頷いて同意した。
「ここまでクズだと知ってたら体なんて触らせなかったのに!くっそー。触らせ損だわ。しっかり仕返ししてやる」
脳筋というか、なんか他の気質がある気がするがこれは何というものだったか。喉の奥に小骨が刺さったかのように違和感がある。
プラスして体を触られた時の不快感を思い出し、オエッと嗚咽を漏らす仕草をすればベルナールがそっと私に水が入ったコップを渡してきた。受け取って一口飲むと、口の中がすっきりとした。
ベルナールは私に変わって話を進めた。
『皇女殿下はご自身の婿探しだとご存知でしたか?』
「ああ。ご存じだった。なぜなら私が今回の大会を開催する意味、そして彼女の取り巻く状況の危うさをお伝えしたからね。皇女殿下は本当によくできたお方で私の話を聞いても〈それがこの国の安定につながるならば〉と微笑まれた」
『女性で生まれてきたことが、とても惜しいお方ですね』
「ああ、本当にそうなのだ。皇帝陛下が皇女殿下を女帝にする道を切り開くと一言おっしゃってくだされば…私は皇女殿下のために力の限り尽くすつもりだった。計画の草案も作成し、いつでも動けるようにしていた。本当に残念でならない…」
ホープ伯爵は悲しそうに微笑んだ。
「彼女が姿を消したのはいつ頃なんですか?」
私の質問にホープ伯爵は過去を思い出しながら返答した。
「確か、剣術大会が終わって7日経った頃だろうか。ミャティ国との交渉が決裂し始めた頃だよ」
『彼女が国の情勢を憂いて家出した可能性は?』
「うむ。実のところ、当初から私はそう考えていた。証がない可能性が高かったし、皇女殿下の性格を考えても自身が消えれば国内外のいざこざがなくなるのだと結論を出すのでは?と、考えていたからね。重鎮達も口には出さなかったが、そう考えている人は多いはずだ。皇帝陛下が意地になって相手側に噛みつき始めたのも、おそらく愛娘が出奔したと考えたからだろう。それに、皇女殿下はミャティ王太子殿下が婚姻されているのご存じだった」
「え?そうなんですか?」
ホープ伯爵は頷くと話を続けた。
「それはそうだろう。隣国の王族の婚姻だ。私でさえ把握していることなのだ。彼女が知らぬわけがない」
「そうですよねー」
「皇女殿下は別に側妃でもよかったのだろう。勝敗が決まった後にお会いした時も〈愛がある婚姻ではなくとも、友愛や家族愛があれば良い。私にとってそこは重要ではない〉とおっしゃっていたからね」
皇女殿下の話を聞けば聞くほど、脳筋エロ親父の所業が許せない。私はもともと考えていた案をホープ伯爵に話すことにした。
「伯爵様。私にとって初めは皇女殿下が守り手であるか否かはあまり重要視していなかった。この点をしっかりお伝えした上で、私がこの件を解決するにあたって考えていたことなのですが…」
「ふむ」
ホープ伯爵は私の話を聞く姿勢になると、ジッと見定めるような目つきになった。
「初めは、証がある可能性をつつき私自身が守り手であることを話した上で、実は森から神託がおりこの国の第3皇女殿下とともに森に来るよう指示された。だが、いらっしゃらない。必ず連れてくるようにと言われているが、どうしよう。では、本当にミャティ国に皇女殿下がいるのか確かめてくる。その流れでうちのケイレブを紹介。守り手の要望により、一旦休戦し交渉をする。多分言い争いになるため、話の流れで王太子殿下とケイレブを戦わせ、ケイレブが勝利する。これで、王太子殿下は皇女殿下よりも強いがケイレブよりは弱い。ケイレブは実質皇女殿下より強い。よってミャティ国は皇女殿下の婚姻先には相応しくない。戦う理由がなくなった頃合いに、魔道具を使って森からの神託を演出。森の判断により、皇女殿下はすでに守り手として選ばれ役目を果たしている。早くきなさいと言われて、皇女殿下の身元が確定し、終戦。そんな感じで考えてたんですけど…」
「ほうほう。それだと実際には皇女殿下の行方ははっきりしないままではあるが、戦をやめさせる理由にはできるな。あとは皇帝陛下の頭を下げさせ、今後このようなことをしでかさないよう誓わせる。そんな流れが見えたが…うーむ」
「うちのケイレブはめちゃつよなので、絶対に勝てます。狼の姿でも瞬殺でしょうが、実は最近私が作った魔道具で人型に変化できるようになったんです。剣も使えます」
ホープ伯爵は私の隠し球に少し驚くような顔になった。だがすぐに受け入れたのか「そうなんだなあ」という顔になり、自身の薄い頭を撫でながら話し始めた。
「だが、私としては皇女殿下が本当に守り手として生きていらっしゃるのか。それとも他国で身分を隠しながらも自分らしく生きていらっしゃるのか。それが1番知りたい。彼女の行く末が心配なのだ」
「そうですよねー。私も伯爵様のお話を聞いてそう思ってますもの。でも、現段階だと私達にはそれを確認する術がありません」
私とホープ伯爵が一緒になってため息をつくと、ベルナールが不思議そうな声で話しかけてきた。
『ご主人様。何かお忘れではないですか?』
「え?」
なんのことかわからず首を傾げれば、ベルナールは胸に手を当てて軽く頭を下げた。
『私は万能の魔道具。ご主人様に足りぬもを補う物です。私に皇女殿下を探すように申しつけてくだされば良いのです』
「え、でも…もし本当に森の中にいるとしたら?あそこは守り手か守り手候補しか入れないじゃない」
『その点も問題ございません。ご主人様。私は万能の魔道具。ただ、命じてくだされば良いのです』
ベルナールは下げた頭をあげると、にっこりと微笑んだ。
『いかがなさいますか?全てご主人様のご意志に従います。私は貴方様のために存在しているのですから』
私はベルナールの言葉を聞きながら、うううううっと唸り声を出した。助けを求めるようにホープ伯爵に目線を向けるが、彼は私達の会話に驚きを隠せないようで唖然としている。ケイレブは話を途中までは聞いていたのだろうが、お肉食べ放題で満腹になり床で伏せてプープー寝ている。
私は唸りながら悩みに悩んだ。そして、結論を伝えるために口を開いた。
「お願い、ベルナール。キャスリーン皇女殿下を探して。もし、森で守り手として過ごしているのならば…1番近い街まで来て父親や彼女を心配する人に会ってほしい。そして、しっかりお別れをしてほしいって伝えてくれない?もし、国外に出て過ごしているのであれば、元気だと手紙だけでも送ってあげてほしい。私も含めて、貴方を心配してますって伝えて欲しい。…できるかな?」
ベルナールは私の言葉を聞いて優しくは微笑んだ。
『もちろんでございます。必ずお伝えいたします』
「う、うん。危なくなったらすぐに帰ってくるのよ!」
『はい』
「アンタも急に消えたら許さないんだからね!」
『…はい』
優しく微笑む顔を見ていると、急に彼が目の前からいなくなってしまうような気持ちになった。私は溢れる涙を堪えると、椅子から立ち上がって座ったままのベルナールの背中に抱きついた。
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なんだか離し難い。私はベルナールの大きな背中に顔を埋めてイヤイヤッと首を横に振った。ベルナールは私が甘えている様子をクスクスと笑いながら、ホープ伯爵に目線を向けて軽く頭を下げた。
ホープ伯爵は座ったまま姿勢を正すとベルナールに向かって胸に手を当て頭を下げた。まるで王族に敬意を払う臣下のように。
私はしばらくベルナールの背中にひっついていたが、渋々離れた。そして、収納ポーチをあさって目的のもを取り出した。ベルナールは椅子から立ち上がり、今にも行ってしまいそうな様子だ。
私はベルナールの正面に立つと、旅を出てからあえて使わないようにしていた魔道具を手渡した。
「ベルナール。もし、直接伯爵様達を皇女殿下と会わせることができないならこの道具を使って。通信魔道具で…」
『ああ、なるほど。連絡を入れさせるのですね。かしこまりました。しかし、ご主人様はこの道具を所持されていたのですね。魔道具として普及されているものでも一般的なものなので所持しているとは思っていましたが、使われる姿を見たことありませんでした』
「故郷に連絡をいれたりしたら、里心がついて森に行きたくなくなるかなと。だって私が今まで歩んできた道は振り返らず、まっすぐ前を向いて歩かなきゃって思ってたから。でもベルナールは違うでしょ?私が置いていく存在じゃないもの。だから、渡しておくね」
私の言葉にベルナールは困ったような嬉しいような顔になると、床に片膝をついて跪いた。
『私、ベルナール・デル・セトレニアはエヴィ・ピデン公女殿下に一生の忠誠を誓います。貴方様が求めるものを補うために、貴方様のために尽くします。例え私の体が朽ちようとも、貴方様が私を必要だとあれば見守っております。貴方様が私を不要だと、そうおっしゃられる日まで』
まるで騎士が忠誠を誓うような宣言に私の心がドキドキと高鳴った。正直ベルナールの容姿は自分の好みだし、彼がもし私と同じ時代に生きていたならば恋をした可能性だってアリ寄りのアリだ。
初めは存在がうざかったが、一緒に旅をして彼の優しさ、賢さ、強さ…色々な一面を見たことで今では側に居なければ心に隙間ができてしまうような存在になった。
(だからなのかな。こんなに胸が苦しいのは…ザワザワするし、ムズムズする)
私は自然と耳が熱くなるのを感じつつ、ベルナールに向かって手の甲を差し出した。
ベルナールはその手を両手で恭しく手に取ると、手の甲に軽く口付けをしてきた。
『では、行ってまいります。早くて2日ほどで連絡が取れるかと思います。もしも1週間経っても戻らない場合は、一度この国の森の入り口までお越しください』
「わかったわ。頼んだわよ」
『仰せの通りに』
ベルナールは私の手を軽く撫でた。そして手の甲から手の平にクルッと回すと、手の平の真ん中にまた軽く口付けた。私から声をかける前に彼は何も言わずにポワンッと白い煙と共にその場から消えた。
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