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5 レスト視点
しおりを挟むスヤスヤと自分にもたれかかったまま眠るステラを横目に俺はフーッと息を吐く
本当はこのまま、心地いい時間を過ごしたいがそうはいかない
俺は今、とにかく時間がないのだ
パチンと指を鳴らし彼女の部屋、、
王都に位置するタウンハウスのゲストルームに転移した
彼女が競売にかけられていたあの日、
本当はすぐにでも話がしたかったが魔法で眠らされておりなかなか目覚めず、
置いて辺境に立つしか無かった
その後、彼女が絵本と勘違いして辺境の俺の執務室に転移した際
しっかりと訂正すべきだったがしなかった
奴隷という立場にある彼女に自分が購買主だと伝えてしまうと怯えさせるのではないか?
多忙を理由に置き手紙のみで顔も見せない自分の事を彼女は一体どう思っているのか
そう考えると途端に言うべき言葉を失った
そのままズルズルと時間だけが過ぎていき
今ではレストなんて名乗って、
騙すような形で彼女と関係を築いてしまっている
しっかり向き合わなければ
そう思う一方で打ち明けた時の彼女の反応が怖くて言い出せない
綺麗に整頓された部屋に彼女の待遇が問題無いことを確認する
いつもナイトウェアで、本以外の話題が出ないから心配していたのだが
うん、、本当にただただ出不精で、本の虫なだけなのかもしれない
彼女のためを思いタウンハウスを選んだが、外出が好きでないのならその必要はなかったかもしれない
今年は特に酷い猛吹雪が続いており辺境にある自分の屋敷は外出はおろか、物流が完全にストップしてしまい手紙の一通さえ出せない始末だ
そのせいもありタウンハウスとの連絡が取れずにいた
「いや、、まだこちらに来させるのは無理があるな」
そっとベットに彼女を横たえるとサイドチェストに絵本を置いておく
この移動で指輪が二つもまた魔力を失い、黒くなってしまった
やはり長距離の転移は消費魔力が多すぎる
初めてステラが俺の執務室に現れた時は本当に驚いた
あの本は転移先を固定させて往復出来るように作ったものだが、たとえ距離を近くしたとしてもその燃費の悪さからとてもじゃないが運用できずにいた。
競売場で彼女を購入したあの日、
ステラをゲストルームに残す際に、緊急時用にと本棚に忍ばせておいたが今の俺の魔力量では一度の往復すら出来ない
今回こうして送り届けられたのも、ステラが魔力を注いでくれた魔道具のおかげだ
王都はまだ雪どころか寒くすらなっていないとは
魔道具無しで適温に保たれている部屋にやはりこちらを選んでよかったと思う
俺は少しだけ窓の外に意識を向けるといまだ眠るステラの前髪をさらりと撫でて重い腰を上げる
「全て片付けるまで、、もう少しだけ待っていて、、」
本当はいけないとわかりつつ前髪を避けた事で現れたおでこに軽く口付けを落として
俺はまたあの雪深い土地へと戻った
ー
ーー
ーーー
ーーーー
ノーザランド辺境伯領
最北端に位置する雪で閉ざされた陰鬱な領地
その領主邸にある執務室に戻ると、扉の鍵を開けて防音魔法を解く
ステラが部屋にいる間に誰かが訪ねてきては大変だ
まぁ、あまり来訪者は多くないが
魔法を解いた瞬間、けたたましく扉をドンドンと叩く音とヒステリックに叫ぶ女の声が部屋に響く
無視してデスクに戻ると書類に目を通す
ほどなくして鍵が開いたことに気がついたのかバァンと大きな音を立てて扉が開かれる
「貴方!一体何様のつもり!?」
ズカズカと入ってくる派手な女性
その金切り声に頭が痛くなりこめかみを抑える
ギャンギャンと馬耳雑言を並べられるがいつもの事だ
書類に筆を走らせながら収まるのを待つ
程なくして肩で息をする彼女の言葉が止まったところで口を開く
「どうなさいましたかお義母様」
俺の言葉に心底嫌そうに眉間に皺を寄せると彼女は扇をバサリと開き口元を隠す
「穢らわしい、、貴方の母になどなった覚えはありません
捨て子風情が、、本来なら会話どころか同じ空気を吸う事だって出来ない卑しい存在のくせに」
本当にこの人は、息をするように毒を吐く
レスト、、そう口にする人物が変わるだけでこうもその響きが異なるとは
歓楽街の宿屋の前に捨てられていた子供だからレスト
俺の幼少時の名前だ
とうの昔に捨てた物だが、、よくもまぁ調べ上げた物だ
「書面上そうなのですから致し方ないのでは?
それに、伯爵様が下さいました名があるのをお忘れですか?」
淡々と返す俺にブツブツと文句を言う
耳に蓋をするように一切反応をせずにいるといくら罵ったところで無駄だとようやく諦めがついたようで、
コホンと咳払いをする
「私の品格維持費が何故か振り込まれていないんですの、、
一体どう言うつもりです?」
あぁ、その事か
「どうも何も、、以前より申し上げていたではありませんか
冬を乗り越える為、備蓄品購入に多く資材を投入する為品格維持費事に割く余裕はないと、、
それに、貴女にお渡ししている品格維持費は領民の年収の数倍はあるはずです」
視線を向けるのも勿体無い
書類作業を止めぬまま言葉を続ける
プルプルと拳を振るわせているのが見ていなくてもわかる
「領民!?領民の年収が引き合いに出される事こそ間違いですわ!!
私は伯爵夫人ですのよ!
そもそも貴方になんの権限があって、、!!「領主代行に選ばれたのも、、そのまま領主になるのも、、もう決まった事です。
義理父上がそう遺しておりますので」
遮るように声を上げ、ジッと彼女を見つめる
「いいえ、私の息子が跡を継ぎます」
その言葉に思わずフッと声を上げてしまった
「彼に何が出来ると、、?」
あえて煽るように言葉を発すると顔を真っ赤にして部屋を出ていく
バァンとまた勢いよく扉が閉められる
先日、義理父上が長い眠りについた。
遺した言葉は領地を守れるものに跡を継がせると言う曖昧な遺言だった
どうせあの女が明言する前に口を塞いだのだろう
今は吹雪の為そういった事は起きないが、冬季以外は魔物の脅威に晒される
ここは本当に過酷な土地だ
その為血筋ではなく、強いものが次期当主に選ばれる事が多い
実際俺も、魔術師として優秀だと言う理由で養子にされ、座りたくもないこの座に座るハメになりそうだ
まぁ、、金で買われ自らつく事を決めたのだが、、、
常に魔物に襲われて、唯一の安息は猛吹雪という過酷な土地を重要視しているのはそれなりに理由があるわけで、
豊かな鉱脈がその理由だ
魔力石が大量に採掘される為、金銭的には豊か、、、
まぁ俺を当主に据えるために大金を積んだせいで今は多少、、そこそこ金欠なのだが
国としても失うわけにはいかない鉱脈を守るため、次期伯爵領主は現領主の一存のみでは決められず、王によって正式に指名され就くことになっている
まぁ、魔力の強い者の子は魔力が強い事が多い
基本は王の介入があるとはいえ他の家紋と同様、親から子に受け継がれるものだが、、
本当に義理父上の血を引いているのかと疑いたくなるようなポンコツなのだ、ここの実子は
その少ない魔力量も去ることながら性格から技量まで、、本当に何をとっても出来損ないだ
ここに来てすぐは、あのドラ息子に頑張ってもらい、金だけもらって次期領主は遠慮させてもらおうかと思っていたが
大金を積んでまで養子を探していたのも頷ける
あれはダメだ、、
義理父上はいい人だったし、、ある程度恩義も感じている
ハァ
そうひとつため息を落とすとまた書類にペンを走らせてる
王からの次期辺境伯任命は越冬後を予定している
つまり雪解けまでの4ヶ月、、
この期間を使ってあのポンコツを領主に押し上げる算段だろう
この莫大な仕事を処理しながらそれも阻止しなくてはならないのか
「そんなに領主になりたいなら代理業務もついでにやってくんねぇかな」
そう口にしながら次期領主になる為にと共に授業を受けた日のことを思い出す
「うん、無理だな」
そう1人で自己完結していると
コンコン
ノックの音と共に初老の男性が入ってくる
執事服をキッチリと着込み、オールバックにされた髪は後毛の一つまでぴっちりと固められている
相変わらず几帳面そうだ
「奥様は喪に伏すとの事で、しばらく伯爵領を後にするそうです」
「、、転移魔法陣は使用禁止だ、魔力石が勿体無い
どうしてもと言うなら己で発動させろと伝えてくれ」
暖房器具はもちろんだが、緊急時に食料や物資を運ぶのにも魔力石は必要不可欠だ
「しかしながらそうしますと奥様は、、」
「足も体も随分と健康そうだった、、馬車に積む暖房具くらいは好きに使ってくれ」
俺の言葉に一礼すると執事長は部屋を後にした
これでどんなに頑張っても王都まで数ヶ月はかかるだろう
そのうちまた大騒ぎでやってくるだろうから、、
鍵をかけておくか
パチンと指を鳴らし
扉に鍵をかける
完全に防音にしてしまうと他のものが困るから、、仕方ない少しくらいは我慢するか
やれやれ
そうしてまた高く積み上げられた書類に目を落とした
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