【完結】悪役令息に転生した社畜は物語を変えたい。

亜依流.@.@

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《5》転生万歳

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凛々しい声が、天井高く昇ってゆく。

ノワは心の中で手を合わせた。

転生万歳。神は存在したのだ。
悪役令息がなんだ、変態キス魔男がなんだというのだ。

ノワは瞬きも惜しむほど彼を凝視した。


当時のノワは知りえなかったのだ。
今後、シナリオがどのように変化してしまうのかを。















───────────────







寮部屋は二人一部屋だった。
半開きになった扉の向こうから、まだ見ぬルームメイトの気配がする。


(優しい人だといいな)


生温い期待を寄せながら扉を開く。
木造の室内、背の高い青年がこちらを振り返った。


「·····えっ」


数メートル先で、アイボニー色の髪が揺れる。
ノワは準備していた挨拶を忘れた。


「あれ、今朝の」


こちらを振り返った相手が、形の良い眉を持ち上げた。
間違いない。
今朝、裏庭で出会った男だ。


「なんでここに·····」

「え?だってここ俺の部屋だし」


愕然とするノワとは対照的に、彼は陽気に笑った。


「嘘だろ·····」


「いや、奇遇だね」


何がおかしいのか、相手は「あはは」と軽薄そうな笑い声をこぼした。

整った顔立ちは、今朝出会うよりもずっと前から知っている。

嫌な予感がする。
これ以上考えるのは止せとストッパーをかけるが、脳は勝手に答えを導き出した。


「キース・クリスティー・バーテンベルク」


プレイボーイな攻略対象、キース・クリスティー・バーテンベルク。

ゲーム中のノワが何かと突っかかっていた人物だ。
相関関係は、同学年同クラスで恋敵。
嫌がらせを試みるも全敗、更に感の鋭い彼に次々と主人公への企みを阻止される。

悪役令息ノワから、騎士の如くヒロインを守るキース。彼のルートは、チャラ男設定とのギャップも相まってかなりの胸きゅんものだった。

──のだが、まさかあんな形キスで、そのキースと初対面するとは。


「へえ、僕のことを知ってるんだ?」

「そりゃ、有名だし·····」


バーテンベルクを知らない貴族はいない。
この国屈指の資産家で、皇族とも親交のある、格式高い家紋だ。


「有名ね」

「う、うん·····」


口元が引き攣る。
上手く笑えているかどうか、定かではなかった。


「まあ、今朝は悪かったよ」


意外にもあっさりと謝罪したキースに、毒気を抜かれる。
ゲームの中のキースは主人公意外には尽く態度が悪く、おまけに大の男嫌いだった。


「いや、僕の方こそ····」

「ファーストキスを奪ってしまったみたいで」


彼は白い歯をこぼして笑った。


「な、な·····」

「あれ、怒ってるのかい?怖いなあ、僕だって初めてだったんだよ?」


男は、とつけ足し、キースは未だヘラヘラしている。
ノワは殺意に震える拳を握りしめた。


「は、は、は。吃驚したよ~」


眉尻のひくつきを耐え、同じ調子で言い返す。
キースの無礼な発言は留まらなかった。


「あの後何回歯を磨いたと思う?」

「·····さあ·····」

「まあ僕も数えてないから答えは分からないけど、君は良かったよね。初キスが僕みたいな美男子で──あぁ、狙ったの?」

「·····は?」

「君、僕のフルネームがすぐ出てくるなんて怪しいなあ。僕のことが好きなんじゃないの?」


たまにいるんだよ、僕に抱かれたいって男の子。気持ち悪いよねと話す男の言葉は、宇宙人語だろうか。


「冗談だよ、はは」


キースがやれやれと首を振る。

彼は、初めからこちらの答えなどどうでも良いようだった。


「僕もいくらかは感謝してるんだよ」

「何が·····」


怒りのパラメーターはとうに通り越していた。


「男と相部屋なんてどんなホラー体験かと思ったけど、君は女の子みたいに華奢で中性的な顔立ちだから」


こちらが一番気にしている体型について、彼はなんの戸惑いもなく指摘したのだ。
これは、ゲーム内のノワが彼を恨んでいたって仕方がないのではないだろうか。


いや、落ち着け。
彼とは決して仲違いしてはいけない。

なぜなら、この軽薄そうな男は、実は誰よりも執念深く、疑り深いからだ。


「ところで、君の名前は?」


彼が今後ノワの生死を握る可能性は多いにある。


「ノワ・ボース・パトリック」


手を差し出すと、彼は、やめてくれと肩を竦めた。


「プライベートで男と握手なんて、冗談じゃない」


今この瞬間から、彼と良好な関係を築く計画は却下だ。こんなクソ男に良い顔をするなど不可能である。

キースとの関わりは、最小限に抑えよう。


「ノワくんね。じゃ取り敢えず、部屋は中央で区切ることにしようか」


線より先は来たら駄目だよと言うキースに、ノワは引きつった笑みを返した。


























新入生たちは教室を割りあてられ、続いて学力調査テストを受けさせられた。

ゲーム内のノワは学問の出来の悪さから、カンニングを企んだり課題の期日を守らなかったり、チームワークで他の生徒の足を引っ張ったりと、酷い劣等生ぶりだった。

それを阻止するため十の頃から家庭教師をつけてもらっていたのが、功を奏したようだ。


「テスト難しかったよな?」

「ああ·····」


周りの1年生達の会話を聞きながら、ノワは胸をなでおろす。
手応えは悪くなかった。


「ノワくん、試験どうだった?」


が、不可解なことが一つ。


「悪くは無いと思うけど·····なんで話しかけてくるの」


隣の席で長い足を組んだ美男子に、ノワは怪訝そうな視線を向けた。


「酷いな。話しかけたら駄目?」

「そうじゃないけど」


あれだけ無礼な発言を立て続けにして、よくも普通に声をかけられたものだ。
男と関わりたくないはずの彼がなぜ自分に構うのか──ノワの疑問を知ってか知らずか、キースは変わらぬ笑みで言った。













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