7 / 342
《5》転生万歳
しおりを挟む凛々しい声が、天井高く昇ってゆく。
ノワは心の中で手を合わせた。
転生万歳。神は存在したのだ。
悪役令息がなんだ、変態キス魔男がなんだというのだ。
ノワは瞬きも惜しむほど彼を凝視した。
当時のノワは知りえなかったのだ。
今後、シナリオがどのように変化してしまうのかを。
───────────────
寮部屋は二人一部屋だった。
半開きになった扉の向こうから、まだ見ぬルームメイトの気配がする。
(優しい人だといいな)
生温い期待を寄せながら扉を開く。
木造の室内、背の高い青年がこちらを振り返った。
「·····えっ」
数メートル先で、アイボニー色の髪が揺れる。
ノワは準備していた挨拶を忘れた。
「あれ、今朝の」
こちらを振り返った相手が、形の良い眉を持ち上げた。
間違いない。
今朝、裏庭で出会った男だ。
「なんでここに·····」
「え?だってここ俺の部屋だし」
愕然とするノワとは対照的に、彼は陽気に笑った。
「嘘だろ·····」
「いや、奇遇だね」
何がおかしいのか、相手は「あはは」と軽薄そうな笑い声をこぼした。
整った顔立ちは、今朝出会うよりもずっと前から知っている。
嫌な予感がする。
これ以上考えるのは止せとストッパーをかけるが、脳は勝手に答えを導き出した。
「キース・クリスティー・バーテンベルク」
プレイボーイな攻略対象、キース・クリスティー・バーテンベルク。
ゲーム中のノワが何かと突っかかっていた人物だ。
相関関係は、同学年同クラスで恋敵。
嫌がらせを試みるも全敗、更に感の鋭い彼に次々と主人公への企みを阻止される。
悪役令息ノワから、騎士の如くヒロインを守るキース。彼のルートは、チャラ男設定とのギャップも相まってかなりの胸きゅんものだった。
──のだが、まさかあんな形で、そのキースと初対面するとは。
「へえ、僕のことを知ってるんだ?」
「そりゃ、有名だし·····」
バーテンベルクを知らない貴族はいない。
この国屈指の資産家で、皇族とも親交のある、格式高い家紋だ。
「有名ね」
「う、うん·····」
口元が引き攣る。
上手く笑えているかどうか、定かではなかった。
「まあ、今朝は悪かったよ」
意外にもあっさりと謝罪したキースに、毒気を抜かれる。
ゲームの中のキースは主人公意外には尽く態度が悪く、おまけに大の男嫌いだった。
「いや、僕の方こそ····」
「ファーストキスを奪ってしまったみたいで」
彼は白い歯をこぼして笑った。
「な、な·····」
「あれ、怒ってるのかい?怖いなあ、僕だって初めてだったんだよ?」
男は、とつけ足し、キースは未だヘラヘラしている。
ノワは殺意に震える拳を握りしめた。
「は、は、は。吃驚したよ~」
眉尻のひくつきを耐え、同じ調子で言い返す。
キースの無礼な発言は留まらなかった。
「あの後何回歯を磨いたと思う?」
「·····さあ·····」
「まあ僕も数えてないから答えは分からないけど、君は良かったよね。初キスが僕みたいな美男子で──あぁ、狙ったの?」
「·····は?」
「君、僕のフルネームがすぐ出てくるなんて怪しいなあ。僕のことが好きなんじゃないの?」
たまにいるんだよ、僕に抱かれたいって男の子。気持ち悪いよねと話す男の言葉は、宇宙人語だろうか。
「冗談だよ、はは」
キースがやれやれと首を振る。
彼は、初めからこちらの答えなどどうでも良いようだった。
「僕もいくらかは感謝してるんだよ」
「何が·····」
怒りのパラメーターはとうに通り越していた。
「男と相部屋なんてどんなホラー体験かと思ったけど、君は女の子みたいに華奢で中性的な顔立ちだから」
こちらが一番気にしている体型について、彼はなんの戸惑いもなく指摘したのだ。
これは、ゲーム内のノワが彼を恨んでいたって仕方がないのではないだろうか。
いや、落ち着け。
彼とは決して仲違いしてはいけない。
なぜなら、この軽薄そうな男は、実は誰よりも執念深く、疑り深いからだ。
「ところで、君の名前は?」
彼が今後ノワの生死を握る可能性は多いにある。
「ノワ・ボース・パトリック」
手を差し出すと、彼は、やめてくれと肩を竦めた。
「プライベートで男と握手なんて、冗談じゃない」
今この瞬間から、彼と良好な関係を築く計画は却下だ。こんなクソ男に良い顔をするなど不可能である。
キースとの関わりは、最小限に抑えよう。
「ノワくんね。じゃ取り敢えず、部屋は中央で区切ることにしようか」
線より先は来たら駄目だよと言うキースに、ノワは引きつった笑みを返した。
新入生たちは教室を割りあてられ、続いて学力調査テストを受けさせられた。
ゲーム内のノワは学問の出来の悪さから、カンニングを企んだり課題の期日を守らなかったり、チームワークで他の生徒の足を引っ張ったりと、酷い劣等生ぶりだった。
それを阻止するため十の頃から家庭教師をつけてもらっていたのが、功を奏したようだ。
「テスト難しかったよな?」
「ああ·····」
周りの1年生達の会話を聞きながら、ノワは胸をなでおろす。
手応えは悪くなかった。
「ノワくん、試験どうだった?」
が、不可解なことが一つ。
「悪くは無いと思うけど·····なんで話しかけてくるの」
隣の席で長い足を組んだ美男子に、ノワは怪訝そうな視線を向けた。
「酷いな。話しかけたら駄目?」
「そうじゃないけど」
あれだけ無礼な発言を立て続けにして、よくも普通に声をかけられたものだ。
男と関わりたくないはずの彼がなぜ自分に構うのか──ノワの疑問を知ってか知らずか、キースは変わらぬ笑みで言った。
354
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました
水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。
原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。
「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」
破滅フラグを回避するため、俺は決意した。
主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。
しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。
「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」
いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!?
全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ!
小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!
俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード
中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。
目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。
しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。
転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。
だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。
そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。
弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。
そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。
颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。
「お前といると、楽だ」
次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。
「お前、俺から逃げるな」
颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。
転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。
これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。
続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』
かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、
転生した高校時代を経て、無事に大学生になった――
恋人である藤崎颯斗と共に。
だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。
「付き合ってるけど、誰にも言っていない」
その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。
モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、
そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。
甘えたくても甘えられない――
そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。
過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの
じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。
今度こそ、言葉にする。
「好きだよ」って、ちゃんと。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
婚約破棄で追放された悪役令息の俺、実はオメガだと隠していたら辺境で出会った無骨な傭兵が隣国の皇太子で運命の番でした
水凪しおん
BL
「今この時をもって、貴様との婚約を破棄する!」
公爵令息レオンは、王子アルベルトとその寵愛する聖女リリアによって、身に覚えのない罪で断罪され、全てを奪われた。
婚約、地位、家族からの愛――そして、痩せ衰えた最果ての辺境地へと追放される。
しかし、それは新たな人生の始まりだった。
前世の知識というチート能力を秘めたレオンは、絶望の地を希望の楽園へと変えていく。
そんな彼の前に現れたのは、ミステリアスな傭兵カイ。
共に困難を乗り越えるうち、二人の間には強い絆が芽生え始める。
だがレオンには、誰にも言えない秘密があった。
彼は、この世界で蔑まれる存在――「オメガ」なのだ。
一方、レオンを追放した王国は、彼の不在によって崩壊の一途を辿っていた。
これは、どん底から這い上がる悪役令息が、運命の番と出会い、真実の愛と幸福を手に入れるまでの物語。
痛快な逆転劇と、とろけるほど甘い溺愛が織りなす、異世界やり直しロマンス!
【完結】悪役令息の従者に転職しました
* ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
透夜×ロロァのお話です。
本編完結、『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけを更新するかもです。
『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も
『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!(笑)
大陸中に、かっこいー激つよ従僕たちを輸出して、悪役令息たちをたすける透夜(笑)
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる