36 / 342
《33》兄さん
しおりを挟む正直に言うしかない。
「なんで怒ってるの?」
ノワは強くまぶたを閉じた。
ゲーム中のアレクシスはヒロイン以外を人と思わぬような冷血漢で、エンディングでは毎回あっさり兄のノワを殺める。
このままでは、遅かれ早かれ、ゲーム通りの結末になってしまう。
「謝るから·····」
どうか命だけは助けてくれ。
ノワはアレクシスを見上げた。
「嫌わないで」
「は·····?」
涼し気な瞳が見開かれ、アレクシスの表情は理解し難そうに歪んだ。
「どうして兄さんが謝るんですか」
だから、怒っている理由がわからないのだ。なぜ謝るのかと聞かれても困る。
「アレクに嫌われたんじゃないかって思ったら、怖くて·····」
アレクシスは先程と比べ、いくらか落ち着いた様子だ。
ノワはほっと息をついた。
「アレクが大好きだから」
念の為、可愛げのある言葉も忘れず付け足す。
「··········」
長く感じた沈黙は時間にすれば数秒にも満たなかっただろう。
「あの、アレク·····」
待てども、返答はやってこない。
彼の顔を覗き込もうとし、
「ちょっと待ってください」
いつになく硬い声に、慌てて下へ向き直る。
「アレク?」
「·····謝るのは俺の方です」
──このどうしようもない兄のせいで、本当におかしくなってしまいそうだ。
アレクシスはため息をついた。
嫉妬に狂い、理性を失いそうになる。
しかし、彼の言葉一つに救われてしまう。
どうしようもないのは自分の方なのだろう。
「じ、じゃあ、許してくれるの?」
未だお門違いなことを言うノワに呆れながらも、アレクシスはハイと空返事をした。
「本当に、許す?恨んでない?」
一体何の話をしているのだろう。
ある種、ここまで強い想いは、恨みに近いのかもしれない。
しかし、恨みよりも深く、切ないはずだ。
「はい」
「じゃあ、憎んだりとか」
「·····そんなに気がかりなら、ひとつ、お願いを聞いてください」
ノワはキョトンと首を傾げた。
「アレクが僕にお願い事?」
たちまち表情が明るくなる。
「いいよ!」
理不尽な提案をしたはずだが、ノワは嬉しそうだ。
仕舞いには「お兄ちゃんに言ってごらんなさい」と得意げに胸を叩く。
それこそ、憎らしいほど愛らしい。
アレクシスは生唾を飲み込んだ。
「抱きしめても良いですか?」
「えっ?」
ノワが素っ頓狂な声を上げる。
「それとも、俺では嫌ですか?」
目の前の青年は真剣だが、台詞には違和感があった。
「俺"では"って、どういうこと?」
「·····そのままの意味です」
別の相手なら喜んだんじゃないですか、と、くぐもった声が呟く。
「仲のいい人とか」
ノワはやっと意味を理解した。
彼は、キースの手紙を読んだのだろう。
(これって·····)
ヤキモチという4文字が頭に浮かぶ。
ノワの頬はだらしなく緩んだ。
「弟よ!」
大きな身体に腕を回す。
「アレクが1番大好きだよ~」
「違います」
勢いよく抱きしめて胸元に頬を擦り寄せたら、首根っこを掴み引き剥がされた。
「酷い」
ノワはわざとらしく頬をふくらませた。
アレクシスは笑っていなかった。
「今日は俺から抱きしめさせて下さい」
「·····?」
いつの間にか腰に手を回されていた。
力強く引き寄せられ、胸の中に閉じ込められる。
「っ?」
腕の形に腰がゆがむ。
暖かい手のひらが背を撫でた。
「アレク·····」
いつもの抱擁とは何かが違う。
ノワは狼狽えた。
「もう一度言ってください」
アレクシスがぶっきらぼうに言う。
(何だっけ·····)
「誰よりも俺が好きだと」
「·····?そんなこと·····」
言ってないのに、という言葉は、しりすぼみに消えてゆく。
腰にまわった腕に、力が込められた。
「同じようなことでしょう。それとも、違うんですか?」
「あ·····ちょっ·····」
駄々をこねるような、それにしては艶かしい、男の声だ。
とてもでは無いが、弟らしい甘え方とは言えない。
「ねぇ、兄さん」
お願い、と、彼は宥めるように囁く。
一体いつの間にこんなオネダリを覚えたんだ。
ノワは冷や汗をかいた。
269
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました
水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。
原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。
「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」
破滅フラグを回避するため、俺は決意した。
主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。
しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。
「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」
いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!?
全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ!
小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
* ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)
インスタ @yuruyu0
Youtube @BL小説動画 です!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです!
ヴィル×ノィユのお話です。
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけのお話を更新するかもです。
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
婚約破棄で追放された悪役令息の俺、実はオメガだと隠していたら辺境で出会った無骨な傭兵が隣国の皇太子で運命の番でした
水凪しおん
BL
「今この時をもって、貴様との婚約を破棄する!」
公爵令息レオンは、王子アルベルトとその寵愛する聖女リリアによって、身に覚えのない罪で断罪され、全てを奪われた。
婚約、地位、家族からの愛――そして、痩せ衰えた最果ての辺境地へと追放される。
しかし、それは新たな人生の始まりだった。
前世の知識というチート能力を秘めたレオンは、絶望の地を希望の楽園へと変えていく。
そんな彼の前に現れたのは、ミステリアスな傭兵カイ。
共に困難を乗り越えるうち、二人の間には強い絆が芽生え始める。
だがレオンには、誰にも言えない秘密があった。
彼は、この世界で蔑まれる存在――「オメガ」なのだ。
一方、レオンを追放した王国は、彼の不在によって崩壊の一途を辿っていた。
これは、どん底から這い上がる悪役令息が、運命の番と出会い、真実の愛と幸福を手に入れるまでの物語。
痛快な逆転劇と、とろけるほど甘い溺愛が織りなす、異世界やり直しロマンス!
【完結】悪役令息の従者に転職しました
* ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
透夜×ロロァのお話です。
本編完結、『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけを更新するかもです。
『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も
『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!(笑)
大陸中に、かっこいー激つよ従僕たちを輸出して、悪役令息たちをたすける透夜(笑)
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる