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《66》公爵家
しおりを挟む「成程、全く好意が感じられないから不思議に思っていたところだ。恥ずかしがり屋な所も好印象だね」
果たして自分は、この男を騙せているのだろうか。
はたまた全てお見通しで、遊ばれているのだろうか。
屋敷へ侵入し、更には知る者のみが知る愛称で呼んだ不審者。そんな自分をそばに置くのだから、彼は相当変わり者だ。
もしも自分が他のモブキャラに転生していたのなら、ヒロインにぜひ警告したい。
ユージーンは超ド級の腹黒サディストなのでやめておけと。
(·····それとも、愛する人には原作通りスパダリ紳士になるのかな)
「今度、ゆっくり話が出来る時間を儲けよう。共にする時間が増えればいずれ緊張も解けるだろう?」
ノワは頷く他なかった。
(怖い。怖すぎる·····)
馬車に乗っていたのは、時間にすれば30分。
その間は、永遠のように長く感じられた。
「挨拶を済ませてくるから、少し待っていてくれ」
目的地に着くと、ユージーンは一人馬車をおりた。
1人になったノワは、深く息を吐く。
息が詰まるかと思った。
大会のトーナメント表を眺める。一日目にリダルの名前は無かった。
体力上のハンデで、最年少の17歳がトーナメントに組み込まれるのは2日目かららしい。
それでも、勝ち残った相手と戦うんだから、結局1回戦で敗退する確率が高くなる。
ノワは背もたれに体を預けた。
(今日は来なくても良かったんだ)
勝ち残り戦と決勝戦は明日だ。
一日損した気分だ。しかし、どこか安堵している自分がいた。
リダルに会ったら、取り敢えずは心から謝罪しようと思う。
思えばそれなりに酷い言い草だった。
あの死神のことだ。
ノワが下手に出れば、きっとまた貸し1つだなんて意地の悪いことを言うに違いない。
けれどそれも、今となっては特に嫌だとは思わなくなっていた。
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胸が苦しくなるような気分は、彼の顔立ちがあまりにも綺麗だったからだ。ただそれだけだ。
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王宮へ忍び込んでいた理由も、フィアンを忌み嫌うわけも、なぜ変装をしているのかも、彼については何一つ知らない。
(思い返せば、本当に危険人物だ)
彼は一体、何者なんだろう。
不意に、扉が二度ノックされた。
彼が用事を終えて戻ってきたのだ。扉へ手をかけながら、しかしノワは疑問を抱く。
普通、馬車の扉を開けるのは従者の仕事だ。
そしてユージーンがノックをする必要はない。
疑問が不信感に変わった頃、扉は既に開かれていた。
大柄な黒服の男が目の前に現れる。
叫ぶより先に、口元を厚手の布で覆われた。
ガタガタと荒い振動が続いている。
荷台の中だ。
ノワは手足の自由を奪われ、床に転がされていた。
「いや~、こんなに上手くいくとはな」
「もっとスピード出ないのか、このオンボロはよ」
前方、荷台の運転席から、機嫌の良い男二人の声が聞こえる。
目元を布で覆われ、視界は確認することが出来ない。
(まじか·····)
目を覚ましたのは、つい先程。
体が酷く痛む。既に長い間床に身体を叩きつけられていたようだ。
(とすると、ここは都心からだいぶ離れた場所·····)
混乱の中、ノワは必死に記憶を呼び覚ます。
突如、黒服に身を包んだ男が自分を襲った。
布で口元を塞がれ、睡眠薬を吸わされたのだ。
(どうして僕が····)
パニックに陥りそうになるが、ここで頼れるのは自分だけだ。
痛みに耐えながら、思考を集中させる。
彼らが襲ったのは公爵家の馬車。
とすると、狙いは自分ではなく、ユージーンだったはずだ。
「公爵家だぜ?身代金は幾らでも払うに違いない」
(やっぱり·····)
馬車の中にいた自分とユージーンを間違えたのだろう。
そして誘拐犯は、公爵家の者を判断できない人間。
彼らの身分は貴族ではない。
そこまでを考えて、疑問が浮かび上がった。
ユージーンが人さらいにあうなんて話は、ゲーム中には無かったはず。
誘拐関連の話があったとすればヒロインが攻略対象を庇い人質になるという事件くらいだ。
それも、結局は攻略対象との関係を進展させるためのハプニングに過ぎない。
───が、手違いでノワが誘拐されていなければ、ここにはユージーンがいるはずだった。
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