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《67》邪魔者の排除
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恐ろしい仮説が頭をよぎる。
この世界がストーリーの歪みを修正しようとしている可能性だ。
ユージーンは、公爵邸に侵入した刺客のせいで心身共に深い傷を追うはずだった。
それが主人公に深く執着する要因にもなる。
けれど、それは阻止された。
この事件は、物語を軌道修正するために作り出されたのかもしれない。
だとすればユージーンは攫われて目玉をえぐり取られでもしていたのだろうか。
(サスペンスドラマにでもするつもりなのか?)
または、邪魔者の排除。
悪役令息であるはずの自分が攻略対象と仲良くなり、親密度を上げるために必要だったはずの事件まで未遂に終わらせてしまった。
車輪が大きな石を踏む。一瞬浮き上がった全身は、容赦なく木の床へ叩きつけられた。
(何も分からない)
どの考えも結局は憶測でしかない。
しかし、その予測が正しいとして、自分がしたことに後悔もない。
(公爵邸で事件が起きるのを、黙って見てるだけなんて、出来なかった)
ここはもう、自分にとってただのゲームの世界では無い。
彼らは皆ここで生きている。
ゲームで起こった事件は、結局は全てヒロインとの恋を彩るためのスパイスに過ぎない。
大切な人達を守りたいと、自分ならばそれができると、気づいてしまった。
(僕だから出来ることがある。たとえ、転生したのが悪役令息でも·····)
ノワは何度か深呼吸を繰り返した。
荷台が一際大きく揺れる。馬車はきしんだ音を立て、動きを止めた。
「予定より早かったな。上手くいったか?」
先程の2人よりも幾分野太い声がまざる。
数人の足音と声が聞こえた。
どうやら、自分をさらった2人組は集団の一味らしい。
「ご苦労だったな」
「楽勝ですよ!近衛もいねえし、馬車の中にはヒョロっこい坊やが1人。荷台に転がしてますんで」
調子のいい声がそう告げたところで、もう1人の男が「けどよ」と口を挟んだ。
「ありゃ結構な上玉ですぜ。顔もですが、特に黒髪と黒の瞳なんて滅多に···」
「·······黒だって?」
ノワをさらった男の言葉は、野太い声に遮られる。
砂利を踏む足音が近づいてきた。
新鮮な空気と共に、目隠しの先がうっすらと明るくなる。
「·····っ!?」
髪を鷲掴みされ、ノワは前のめりに倒れ込んだ。
目隠しを外され、視界に光が刺す。
「·····こいつは、公爵家の息子じゃない!」
初老の男が、唾を飛ばしながら叫んだ。
「ええっ?」
「なんだって?!」
新緑の中だ。
目の前の男の後ろには、ざっと20人程度の男たちがいた。
粗暴な見た目をした連中だ。年齢は20代から40代くらいで、皆服の上から黒いローブを羽織っている。
「いや、しかし、確かに俺たちは····」
ノワを拐ったであろう二人は、戸惑ったように顔を見合わせた。
「白い髪に碧眼だって言っただろうが!お前たちの目は節穴か?!」
どうやら、今ノワの胸ぐらを掴んでいる男がリーダー格らしい。
声を発しようとするも、口元にはテープが巻かれ、叶わなかった。
「今からでも取り替えに·····」
「阿呆か!」
男は憤りの収まらぬ顔でノワへと向き直る。
「運が悪かったなぁ、坊ちゃんよ····だがこうするしかねえんだ」
彼が手を伸ばしたのは、腰に収まった短剣だった。
腹が反り返った刃が鞘から引き抜かれる。
人のために生きることを決意したばかりで、早速殺されることが決定したらしい。
あんまりではないだろうか。
「んー!!!ん、ん!!」
抗議も虚しく、剣を持った腕が振り上げられる。
ノワは強く瞼を閉じた。
「そいつを使って金儲けできる」
一人の言葉が、男の動きを止める。
「·····なんだって?」
「他国の奴隷オークションに出せばいい。身元が知られる心配も無いし、そこらの商品より数倍高く売れるだろ」
フードを目深にかぶった若者だ。
男達は、互いの顔を窺った。
「そうだな·····」
目の前の男が、ノワの足の先から顔までを舐めるように眺める。
彼はふむと頷き、短剣をしまった。
「移動するぞ!」
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