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《80》今後の計画
しおりを挟む焦れるような眼差し。秘密事を教えるように潜まれた声は、普段とは想像もつかない、性的な魅力を感じた。
「おまけに、鳴き声も」
「····っ?」
手のひらが背を滑る。
ノワは飛び上がった。
こんな表情をするような人ではない。少し意地悪な視線が艶めかしくて、わけも分からず心臓がうるさくなる。
けれど、初めて見るものではない。
ユージーンがフィアンの前で「ジェダイト」と呼ばせた時、そして舞踏会で女装をしていた時。
確かに自分は、この耽美な笑みを垣間見た。
「本当に、どこも怪我してないんだろうな?」
「は、はい」
首を縦に振る。
密着した部分が火照るように熱い。
自分とて、健全な男である。これ以上彼とくっついていたら、反応してはいけない場所が目覚めそうだ。
そんなことになれば、誘拐事件よりも恐ろしい未来が待っているだろう。
「フィアン様、もう····」
縋るような思いで呟く。
ふっ、と、息を着くような声が聞こえた。
(わ、笑った·····?)
フィアンの片手がノワの手を握る。
腕は立ち上がるのと同時に、容易くノワを引き上げた。
「今日は宮で休め」
ノワは表情を輝かせた。
学園に戻れば、いつユージーンから呼び出しがあるかわからない。
何よりも宮殿に寝泊まりなど、一生に一度とない機会だ。
「ありがとうございます」
頭を下げたノワに、フィアンはキュッと口の端を持ち上げた。
太陽のような人。太陽はとても明るいが、同時にとても手の届かぬ場所にあるのだ。
扉へ向かって歩き出す背中が、ずっと遠くに感じた。
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腹の奥から押し出すような呻き声がもれる。
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荷台の中で予測した事について、真剣に考える必要がありそうだ。
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予測が正しい場合、新たな疑問が生まれる。
それはノワを救い出したリダルの存在だった。
邪魔者が死ぬべきシーンで、彼はなぜ自分を救えたのか?
彼はこの世界には異質の存在だ。今回の件で確信に至った。
ただのエキストラにしては不可解な点が多すぎる。
放置しておくのは危険だ。
ノワは脳内でリダルを要注意人物に指定した。
今後の目標は、ユージーンとの関係を改善する事、そしてどうにかしてリダルを監視すること。
大体の考えをまとめたところで、召使いが湯汲みの手伝いに来る。
そこでノワはやっと、自分が他人の血や泥に汚れていることに気がついた。
こびり付いた跡を洗い流しながら、思い出すのは、たくましくて暖かい腕の中だ。
ニヤニヤとしていたノワは、ふと手を止める。
別れる寸前、正面から見たフィアンの頬は、案外傷が酷くないようだった。
あんなに思い切り殴られたというのに、攻略対象は怪我をしても尚イケメンを保つ補正でもかかっているのだろうか。
それに比べ、荒々しく部屋を出ていったリダルの怪我は、血が滴るほど酷いようだった。
(僕の部屋が用意されてるなら、きっとリダルも王宮にいるはず)
彼の事だから、まともな手当てすらしていないかもしれない。
数分後、ノワは部屋を出ることになった。
リダルが自分の助けがなくたって問題ないことは分かっている。
しかし一応は命の恩人だし、何よりも「リダルについて調べる」という目的がある。
手当するという名目があれば近付きやすい。
そんなわけで彼を探さない理由はなかった。
純白と黄金に輝く宮内を、上階から順に捜索する。
基本的に、客人が他人の敷地を好きかってうろつくのはタブーだ。
今回は例外だと自分に言い聞かせながら各階の端から端を早足に進む。
探せどリダルの姿は見つからない。
客人が滞在する部屋の前には召使いが待機しているはずだが、どの扉にもそんな光景をうかがうことは出来なかったのだ。
彼はまたどこへ消えたのだろう?
いらない時に限ってしつこいくせに。
悪態をつきながら、マラソンコースのように広いフロアを進む。
駆け足に角を曲がったとき、正面に黒い物体が立ち塞がった。
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