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《120》2人の出会い
しおりを挟むペットボトルから水をがぶ飲みする。ぬるい潤いが、喉の乾きを潤した。
(また、視線を感じる·····)
隣にいるデリックをチラリと見やる。
案の定、バッチリと目が合った。理由は分からないが、自分はこの変わった編入生に好かれているらしい。
「僕らって、どこかで会ったことある?」
パトリック家は保守的な家紋だ。
大半の貴族は、言葉を交わすどころか名前すら聞く機会も無いだろう。
「·····はい、二度」
デリックは呟くように答えた。
ノワは、まじまじと彼の顔を見上げた。
「ど、どうかしましたか?」
厳しい練習後のせいか、相手の頬は僅かに赤らんでいる。
ノワが半歩近づくと、デリックは慌てたように後ろへ引き下がった。
「····ごめん、全然思い出せない」
このくらいの顔面なら、イケメン好きな自分は覚えているはずだ。
しかし、目鼻立ちのくっきりとした目の前の顔に、全く見覚えがない。
うーんと顔をしかめるノワ。デリックはブンブンと両手を振った。
「一度目に会ったのは幼い頃だし、二度目は·····一瞬だったから、覚えていなくても当たり前です」
「2回目に会ったのって、どのくらい前?」
恐らくそれほど昔ではないはずだ。予想したノワは、躊躇うように視線をさまよわせたデリックに、もう半歩近づいた。
「半年程前に、王宮で」
「王宮?」
ノワが王宮で出会った人物といえば、片手の指に数えるほどしかいない。
しかし、彼は確かに自分が宮殿にいたことを知っている。
(どこで?)
ふと、視線の先の手に、目を止める。
指先まで傷だらけの手だ。
ノワはあっと声をもらした。
「長い髪の·····木材運んでた人?」
近くで見ると、枯れた赤茶髪は紫がかったボルドーだ。
あの時の青年に重なる。
デリックの表情がぱっと輝いた。
「そうです!あの時は、庭師の手伝いで····人手が足りなくなったんです。それで、下っ端の俺が」
はにかみながら話す青年は、本当に教室のデリックと同一人物だろうか。
教師から注意を受ければ「なぜ」「どうして」の質問攻めで、返された答えを自論破。他の生徒に囁かれようが、全く興味はなし。
それがノワの前では、飼い犬のような従順さだ。
しかも、絶対に一定の距離感を保ったままこちらに触れようとはしない。
「そっか」
ノワは話を深掘りしないようにする。
庭師の助手の下っ端なんて、路上の孤児が違法な労働賃金で働かされているような仕事だ。
ノワの予想よりも、彼は貧しい暮らしをしていたのかもしれない。それなら、礼儀作法やマナーがなっていないのも頷ける。
大体を分析したノワは、違和感に気づいた。
では、全く接点のないはずの1度目の出会いは、いつだったのだろうか。
「あのさ·····」
疑問は、唾液とともに飲み込んだ。
恐らく、あまり思い出したくないだろう。
「パトリックくんが気になること、全部お答えします」
熱のこもったエメラルドが宣言する。
心でも読まれたのだろうか。ノワはギクリとして、デリックから顔を背ける。
態度からして、本当に全て答えてくれそうだ。
しかしそれでは、彼に好奇な視線を向ける輩と同じになってしまう。
デリックは、仲良くなりたいと言った。
過去の話は、時間が経てば、自然と彼の方から話したくなるかもしれない。それまでに関係が続いていなければ、知る必要のなかった話ということだ。
ノワは軽く首を振り、別の事を聞いてみることにした。
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