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《142》牢獄の天使
しおりを挟む(───あなたに会えるなら、今すぐに死にたい)
ひたすらそれだけを祈った。
デリックが9つの時、収容所での非人道的な実験が明るみに出、捕虜奴隷達は労働力の必要な鉱山や開拓地に安く雇われるようになった。
それを望まぬものは、賤民としての道を強いられた。
デリックは布切れのような服と銀貨1枚を受け取り、牢獄を後にした。その日から、天使の夢は見なくなった。
食べ物を奪い、時には自分より弱い存在を脅して、生き延びることを学んだ。
それでも、この心が何かを感じる瞬間は訪れなかった。
喜びや悲しみ、そして罪悪感さえも、感じられなかった。
真冬の夕方の事だった。デリックは空腹と寒さで、凍死寸前だった。
でも、この季節は好きだ。
また会えるかもしれない。今度は、永遠の中で。
か細く、荒い息遣いが聞こえた。
眠っていたデリックは、ぼんやりとまぶたを開ける。
目の前に、パンの入った紙袋を押し付けられた。
相手の小さな手は、寒さで真っ赤になっている。
デリックの両手を、同じ歳ほどの少年が、優しく握りしめた。
──────────────
起床時間よりも早く目が覚めてしまった。
薄暗いテントを見回す。
左隣にはこちらへ背を向けて眠っているデリック。
寝返りを打って反対側には、眠る前と全く同じく、整ったままの寝袋があった。
リダルは戻ってこなかったらしい。
「··········」
ノワは天井を睨みつけた。
数秒後、ムクリと起き上がる。
リダルが気になる訳では無い。
チームだから、単独行動をされては困るのだ。
デリックを起こさないようテントを出る。
出てすぐの岩場に、人影があった。
「·····リダル?」
伏せていたまぶたが開かれる。
赤い瞳がノワを捉えた。
「あ··········」
早朝から見るには、少し目に悪い顔立ちだ。
「なんで、テントに戻ってこなかったの?」
問いかけるも、相手は眉をひそめるだけだ。
「昨日、どこにいたの?」
「どこでもいいだろ」
「····なんか怒ってる?昨日、待ってたのに·····」
「は?」
唸るような声が言葉の先を遮断する。
ノワは驚いて口をつぐんだ。
彼を恐ろしく感じるのは、久しぶりだった。
「調子良いことばっか言ってんじゃねえよ」
風が木の葉を揺らす。
ざわつく音は嫌な感じだ。
「あいつに泣くほど好かれて、満更でもなかったんだろ?」
彼の口元が、意地悪く吊り上がる。
あの頃、リダルはテントの前にいたらしい。
目の前まで来たというなら、なぜ入ってこなかったのか、尚更意味がわからない。
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