222 / 342
《218》地下牢
しおりを挟む┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
地下牢には数十人の貴族が収容されていた。
城内の見張りは城壁からの攻撃のせいで手薄だ。
おまけに地下は非常時の隠れ道に近い。レハルトが着いた頃には、既に捕らえられていた貴族達の避難が開始されていた。
イアードは、初めから知っていて自分をここへ寄越したのだ。
勿論、案じてくれたわけではない。一人の方が動きやすいと判断したのだろう。
早い話が、邪険にされたというわけだ。
「怪我を負った方はおりませんが、意識不明者が一人」
その場を指揮していた副団長がレハルトへ報告する。
「バーテンベルク伯爵ご令息です。聖徒の加護で一命は取りとめましたが、それから目を覚ましていないと·····」
「直ぐに医師の元へ」
「レハルト」
鉄の格子に、張りのある男の声が響いた。
「皇子殿下·····」
奥の独居監房からフィアンが姿を現す。その場にいた者達は、皆緊張した面持ちで頭を下げた。
「避難を続けろ」
フィアンの言葉で、騎士達は再び避難の案内を始める。
レハルトは彼の元へ跪いた。
「状況は?」
「はい。現在帝国民は、神殿の洗礼によって暗示催眠にかかっております。洗礼を免れたヴァーヴ家紋とシヴァー家紋騎士団が──」
掻い摘んで報告しながら、フィアンの様子を確認する。
皇帝が崩御し殆どの帝国民が敵の今、フィアンは不気味な程冷静だ。
頼もしい事のはずだが、レハルトはそれを不審にも感じた。
「そうか、イアードが教皇を」
朱赤の瞳は、何かを模索するように細められた。
「それで、イアードはどこへ向かった?」
「恐らく、聖剣のある謁見の間かと·····」
レハルトが全て言い終わる前に、フィアンは地下の避難口とは反対方向へ向かう。
倒れている反乱軍の騎士から剣を奪う。横顔には、微かな笑みが浮かべられていた。
「俺はイアードの援護に行く。他の者達を頼む」
先攻に出たのはデリックだった。
一飛びで距離が詰まる。刃の分厚い大剣が、イアードの頭目掛けて振り上げられた。
武器の重量に似合わぬ俊敏さだ。
(聖力の扶助のせいか)
イアードは取り出した短剣で攻撃を受け止める。
「!」
攻撃を返す寸前、緑の光が目の前で弾ける。イアードは咄嗟に後ずさった。
刃はかすりもしなかったはずだ。
しかし、シャツの襟に、生ぬるい湿り気を感じた。
「避けられたことは褒めてやるよ」
デリックは再びイアードの前へ躍り出る。大剣は休むことなく攻撃を繰り広げた。
(なんだ?)
攻撃を交わすたび、空を切った刃が"分散"する。
応援ありがとうございます!
16
お気に入りに追加
4,758
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる