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《269》ジョセフ
しおりを挟むメイドたちの輪の中に、戒めるような声が加わった。
「ジョセフ様」
(ジョセフ····?)
「お前たちの処分は後程伝える」
たしか、バンスに指示をされていた男だ。
仕事に戻れというジョセフの言葉に、彼女たちは慌てて持ち場へ戻っていった。
足音が近づいてくる。
扉から離れなければ。そう思った頃には、隙間から彼が見えた。
こちらに気づいた瞳と目が合う。
咄嗟に扉を閉めてしまった。
しばらくとせず、静かなノックの音が響いた。
会話を盗み聞きしていたことがバレた。
ノワは憂鬱に思いながらも、重苦しい扉を開くしかなかった。
扉の先には、わざと型の古い正服を着こなした、背の高い男がいた。
彼はブラウンの瞳を伏せ、恭しく礼をする。
くすんだ草色の髪が、舞うように解れ落ちた。
「ノワ様の身の回りのお世話をさせていただきます、ジョセフ・ソレイヌと申します」
ジョセフは昼食後、大公国の歴史や側近のイアードの大まかな予定について、丁寧に教えてくれた。
見た目よりもずっと気さくで、感じの良い人物だ。
オマケに気が利く。
ノワは半日もすれば、彼にすっかり気を許していた。
「午前の件は、ごめんなさい。盗み聞きをするつもりはなかったんですが···」
日が暮れそうな頃、ノワは思い切って非礼を謝罪した。
ジョセフは知らない振りを貫こうとしてくれているようだが、あれは、人として恥ずべき行いだった。
彼は少し驚いた顔をして、しかし直ぐにかぶりを振った。
「とんでもございません」
ティーカップに注がれた紅茶から、芳しい湯気が沸き上がる。
ダージリンの香りに、ほかの茶葉がブレンドされているようだ。
「彼女達の処置は30回の鞭打ちのあと推薦状無しの解雇と考えておりますが、ご希望はございますか?」
「えっ」
ノワは目を向いてジョセフを見上げた。
推薦状無しの解雇なんて、社会的地位を失うも同然だ。彼女たちは家紋の恥として一生を終えることとなるだろう。
「鞭はラタンという非常に堅牢な木材で作られたものを使用します。1回の打刑で失神する場合もありますので、回数をわけて行い···」
「待って、待って」
おどろおどろしい発言をさえぎる。
「いくらなんでも重すぎます」
「命が助かるだけ有難いでしょう。足りないくらいですが···」
「僕が負い目を感じずにいられませんから、どうか罰を軽減してください」
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