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《276》夜の城

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───ふと目が覚めた。
ジョセフはいない。たしかワインをこぼして、彼に着替えを手伝ってもらっている最中に眠ってしまったのだ。

いつの間にかベットの上で、新しい服に着替えさせられ、羽毛をかけられていた。


「おしっこ·····」


まだ頭がクラクラする。
手洗い場はどこだっけ。
体を斜めにしながら歩いていると、壁に体当たりした。
痛い。
手当たり次第に、扉を開く。
クローゼットだった。

酔っている自覚はあるが、それにしても手洗い場にたどり着かないのは不思議でしかない。
部屋からトイレが逃げた。
ノワは手洗い場を求め、部屋を飛び出した。

冷たい廊下を素足で進む。
一歩一歩と体を動かす度、尿意が促される。
もう限界だ。ノワはその場にしゃがみこんだ。


「う·····」

「────聖徒様?」


背後から、自分を呼ぶ声がする。
近づいてきた足音は目の前で立ち止まり、相手はサッと身をかがめた。










「こんなところで如何致しましたか?何か····」


イアードが強制的な眠りにつく零時から二時の間、レハルトは近辺警備をしている。
彼はノワの様子に首をかしげた。

震えている。
寒いのだろうか。そう思って手を差し伸べるが、こちらを見上げた顔は真っ赤だった。

縋るような視線に、不覚にもドキリとする。
ふわりとアルコールの匂いがした。


(酔っていらっしゃる?)


庭での出来事の後、部屋を飛び出し地べたに座り込んでしまうほど酒を飲んだらしい。
イアードに投げかけられた言葉が余程ショックだったようだ。

この分だと、ノワがイアードを蔑ろにしているという噂の信ぴょう性は薄そうだ。

いくら政略結婚でもあれは無い。レハルトはノワに同情した。


「おしっこ」


そして次に、薄い唇が紡いだ言葉を脳内で反芻する。


「··········ハイ?」

「うう·····」


濡れた瞳が切なげに細められる。
弱々しく下がった眉がなんとも言えずいじらしい。視覚だけで判断すれば、おかしな気を起こしてしまいそうなほど艶かしい表情だ。

が、しかし、今はそんなことを分析している場合ではない。


「おしっこしたい」


喘ぐような声が訴える。


「おし·····っ──ゴホン、御手洗ですか?それならお部屋に·····」

「もう、我慢できない·····」

「え"」


なんと、相手はスリーパーをたくしあげ、下着に手を突っ込んだでは無いか。









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