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《292》真っ赤な舌

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唇が、ほんの少し開かれる。
そして姿勢が屈まれる。高い鼻が傾くと、浮き出た首筋を月光が走った。


「····っ」


ノワは今回も顔をそむけた。

(これ以上許したらだめだ)


屈辱的な言葉を投げつけられ、傷つけられた。
そして今度は身体にまで辱めを受けるなんて、許せるはずない。
馬鹿野郎と叫んでやろう。それで、股間を蹴りあげてやる。


(そう思うのに)


長い指がノワの顎を固定する。
また、恐ろしい瞳と目が合う。先に視線を逸らしたのはノワの方だった。

今度はしっかりと唇が密着した。
舌の上に呼吸を吐き出される。
たったそれだけで、ノワの口内はじんわりと潤んだ。


「は·····っ·····ン·····」


伸びてきた舌が舌を器用に絡み取る。
鼻から息を吐き出すのと一緒に、身体からは力が抜けてゆく。


「ん·····ぅん·····」


見た目よりもずっと熱い口内だった。
イアードはゆっくりと顔をかたむけながら、様々な角度でこちらを弄ぶ。
唾液が溢れ出る。思わず飲み込むと、長い舌が流れるようにして喉奥を撫でた。

くるしい。
でも、逃がしてはもらえない。

じんわりと視界が潤む。
自由になった手で服を握りしめるが、また手首を拘束される。彼は片手でノワのスリーパーを捲りあげた。

唇が離れる頃、ノワは完全に腰が抜けてしまっていた。

「はぁ·····は·····」


乱れた呼吸を繰り返すと、寂しい匂いがした。
石鹸みたいに素朴で、官能的な香りだ。
身体中にゾクゾクと鳥肌が立つ。

どこを向いても、ベットの中は彼の匂いがした。


「────あ·····っ!」


脇腹を撫でた大きな手が、腰を滑り、内腿の間に忍び込まれてゆく。


「だめ、やめて」


彼の手を振り払おうとするが、頑丈な腕は力を入れている様子もないのに、ビクともしない。

ノワの顔はカッと熱くなった。
気持ち程度に取り付けられた粗末な逸物が、ピンと上を向いていた。


(なんで僕、こんなに)


イアードは起きる兆しがない。

身体中が湿り、冷えた空気にさえ神経が逆立つ。
触られてもいないのに、そこは痛いくらい主張し始める。内腿をまさぐる指先がてっぺんに触れると、ノワは飛び上がった。

目の前で血色の無い唇が弧を描く。
ちらりと覗いた舌は、血を啜ったあとのように真っ赤だった。


「·····ぁ·····っ」








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