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《293》バレた?

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かさついた手のひらが、それをすっぽりと包み込む。


「·····ん·······っ!」


緩みかけた唇に力を入れる。

(嘘·····)

彼に慰められている。
信じられないような心地だが、絶妙な力加減が平行運動を始めると、そこは歓喜に先走りを滴らせた。

拒絶の言葉さえ紡ぐことを許されない。


「ぁ·····ふ、ぅ·····っ·····」


ノワは濃厚なキスを甘受する他なかった。

昼間とは別人みたいな甘いキスに溺れる。
気持ちいい、もっと触って欲しい。いつの間にか、それしか考えられなくなっていた。

長い間、自分で慰めることさえしていなかった身体だ。
ノワは呆気なく果ててしまった。

ちゅぽ、と、濡れた音を残して、唇が離れてゆく。
すぐに、首元で荒い息遣いを感じた。


「·····っ」


薄い皮を刺されるような痛みがあった。
一瞬、血を吸い取られた錯覚に陥る。
鋭くて長い吸引が続く。
身体中の熱が疼き、達したはずの生物がまた潤う。


「はぁ·····ぁ·····はぁ·····っ」


あんなにも恐れていたはずの彼の熱が、心地よい。
唇も手も、息遣いさえ、全てが官能的な刺激に変わる。
ノワは震える手をイアードの額にかざした。


「"眠って"」


少し遅れてから、大きな体躯がのしかかってきた。
浅い寝息が聞こえてくる。
苦しそうな様子はない。
気が抜けて、しばらく動くことが出来なかった。

──ぼうっとしている暇はない。
このチカラが効くのは、持って数分。早く部屋から出なければ。

イアードを横に転がし、ベットから抜け出す。
子鹿のように震えた膝はバランスを崩し、ノワはベットの下にへたりこんだ。

腹にとびちった熱が冷めてゆくが、新しく生成された熱は、未だ収まりそうにない。


(なんで?)


くて、屈辱的なことのはずだった。
吸いつかれた時は確かに痛みすら感じたのに──悦んでいる自分がいた。

扉を叩く音がした。
咄嗟に、スリーパーの裏側で熱欲を拭う。
ノワは膝の皿に力を込め、立ち上がった。


「お疲れ様でした」


廊下に出るとレハルトが目礼した。
うんとだけ返答し、彼を顔を合わせないように先を歩く。
しかし、相手は直ぐに、異変に気づいたらしい。


「聖徒様、お待ちください」


(もしかして、バレた?)


駆け出そうとしたノワの手首は、レハルトに捕まえられた。
彼の手が冷たく感じたのは、自分の体温が高いせいだ。


「ご無理をなさったのですか」







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