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《302》大公様

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まじまじと眺めていると、彼は怪訝そうな顔をした。
その表情もイアードらしくて、ノワはますます目を離せなくなる。
どこをどう見ても、ありえないくらい端麗な顔だった。


「何笑ってんだよ」


セクシーな低音がうなる。

(声は、前よりも硬くなった)


「おい」

「わっ」


ハッと我に返る。

大公様はオコだ。
こんな顔をさせたかったわけじゃない。

前みたいに、意地悪でもいいから、笑ってみてほしい。どうしたら笑ってくれるかと彼を見上げるが、目が合うと頭の中は真っ白になってしまった。


「か、かっこよくて·····」


いつかの日、フィアンより格好良くて強い男が現れたらそっちを好きになるのか、と、聞かれたことを思い出す。

あの時、自分は彼を心底憐れに思った。しかし今は、結果だけを見ればあながち間違いではないことになっている。

思い出をたどっていると、呆れるくらい切なくなってしまう。


「··········は?」


訝しげな顔に、困惑と呆れがまじる。


「なんなんだよ、いきなり·····」


失敗した。ノワは頭を抱え込みたくなった。
しかし彼は少し宙を眺めたあと、微量に口角を上げる。

妖しくて、嫌な感じのする笑みだ。

ノワの胸は安易にしめつけられた。


「フィアンの面影でも見つけたか?」

「───へ?」


彼はそれだけを言い残し、さっさと歩いていってしまう。


「イアード」


ノワはイアードのあとを追いかけた。
名前すら出していないのに、よくもそんな皮肉が言えるものだ。


「待ってよ」


強く告げる。
イアードは以外にも聞き分けよく足を止めた。
突如立ち止まった大男の背中にぶつかりかけ──それは、振り返った相手に阻止された。


「いま、執務が終わったところでしょ?」


ノワは思い切ってイアードを自室に誘った。
彼に、定期的に王宮へ来てもらえるよう話をするためだ。

あと数日で、大公国を後にしなければいけない。イアードの治癒を続けるためには、彼からこちらへ出向いてもらわないといけなかった。

お茶の誘いを、果たしてイアードは仕方なさそうに了承した。
彼が理由もなくこちらの誘いを断らないことを知っている。

今の立場を利用してる。
友情も、恋情もない。彼との出来事は、この世で自分しか覚えていない。











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