ゴドウィン校のヴァンパイア達~望まぬ転生~

亜依流.@.@

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【112】目覚め

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決して仲がいい訳でも無い。
自分たちはライバル同士で、同じ目的を持つ理解者。
それだけの事だ。

いずれ、また敵になることがあるだろう。

その時が来るのは、きっと····───。














仕上げに花瓶の水を取り替える。
鮮やかな花は、どれもぱんと水を張って瑞々しい。

この地域では見かけない種類の花だ。
色褪せ始めたのは直ちに捨てて欲しいと念を押されている。ロイはその中から萎み始めたものを摘みとり、新しい花を差し入れた。

彼は艶やかな視線を細め、笑っていた。

あの日から10日に1度の周期で、咲きたての花束が届けられる。
どこか異国の風を感じさせる香りは、彼の手にした第二の故郷のものだろう。
その中でも溢れんばかりに凛々しい薔薇の花が、送り主を思い浮かばせる。

差出人は、ウィリアム・ヨハン・ファントムレイ。
枯れる前に花を贈り続けることは、求愛する相手への永遠の愛を意味する。

部屋を見渡し不備がないことを確かめる。
扉へ向かおうとしたロイの脚は、ふと立ち止まった。

引き返し、ベッドの前で、そっと片膝をつく。
少々傾いた陽が、眠っている滑らかな頬を優しく照らしている。

呼吸に合わせて腹部が上がったり下がったりする。
微かに揺れる羽毛を捉え、ロイはほっと息をついた。

目元にかかった髪を指の先で払ってやる。
絹手袋から、暖かな温もりを感じた。

この小さなニンゲンを失うのが、いつしか何よりも恐ろしくなっていた。

眠ったままの彼が、このまま息を引き取ってしまうのではないか。
目を離した隙に、元の世界へ連れ返されてしまうのではないか。
スースーと聞こえてくる寝息に耳をすましては安堵するのだ。

瞼を閉じると、喜怒哀楽の豊かなニンゲンが浮かんだ。
泣き出しそうだったり、怯えていたり、ぶすくれていたり、かと思えば、照れくさそうに笑ったり、嬉しそうに眉を下げる。

自身の胸元に手を添える。
固い胸板と、布の感触だけがした。

体温はない。
それなのに彼を思う時、この辺りが締め付けられ、熱く感じる。

口元に近づけた両手を握り合わせ、今日も彼へ、祈りを捧げる。
永遠の愛を伝える術も、資格ももちあわせていない。
だから、せめて傍で見守っていたい。


「チアキさん·····」


呟きは長閑な正午に溶けた。

なんだか、頭がぼんやりする。

「·····?」

身体から力が抜けてゆく。
意識はだんだんと薄らいでゆく。

白い記憶の中、柔らかな声に名前を呼ばれた気がした。


























生ぬるい風がまつ毛を揺らす。
こそばゆい。そっと目を開ける。


「ん·····」


するすると滑る羽毛と、人を堕落させてしまいそうなほど柔らかなマットの中にいた。

風の流れてきた方へ視線をやる。
レースのカーテンがヒラヒラとなびいていた。








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