112 / 141
【112】目覚め
しおりを挟む決して仲がいい訳でも無い。
自分たちはライバル同士で、同じ目的を持つ理解者。
それだけの事だ。
いずれ、また敵になることがあるだろう。
その時が来るのは、きっと····───。
仕上げに花瓶の水を取り替える。
鮮やかな花は、どれもぱんと水を張って瑞々しい。
この地域では見かけない種類の花だ。
色褪せ始めたのは直ちに捨てて欲しいと念を押されている。ロイはその中から萎み始めたものを摘みとり、新しい花を差し入れた。
彼は艶やかな視線を細め、笑っていた。
あの日から10日に1度の周期で、咲きたての花束が届けられる。
どこか異国の風を感じさせる香りは、彼の手にした第二の故郷のものだろう。
その中でも溢れんばかりに凛々しい薔薇の花が、送り主を思い浮かばせる。
差出人は、ウィリアム・ヨハン・ファントムレイ。
枯れる前に花を贈り続けることは、求愛する相手への永遠の愛を意味する。
部屋を見渡し不備がないことを確かめる。
扉へ向かおうとしたロイの脚は、ふと立ち止まった。
引き返し、ベッドの前で、そっと片膝をつく。
少々傾いた陽が、眠っている滑らかな頬を優しく照らしている。
呼吸に合わせて腹部が上がったり下がったりする。
微かに揺れる羽毛を捉え、ロイはほっと息をついた。
目元にかかった髪を指の先で払ってやる。
絹手袋から、暖かな温もりを感じた。
この小さなニンゲンを失うのが、いつしか何よりも恐ろしくなっていた。
眠ったままの彼が、このまま息を引き取ってしまうのではないか。
目を離した隙に、元の世界へ連れ返されてしまうのではないか。
スースーと聞こえてくる寝息に耳をすましては安堵するのだ。
瞼を閉じると、喜怒哀楽の豊かなニンゲンが浮かんだ。
泣き出しそうだったり、怯えていたり、ぶすくれていたり、かと思えば、照れくさそうに笑ったり、嬉しそうに眉を下げる。
自身の胸元に手を添える。
固い胸板と、布の感触だけがした。
体温はない。
それなのに彼を思う時、この辺りが締め付けられ、熱く感じる。
口元に近づけた両手を握り合わせ、今日も彼へ、祈りを捧げる。
永遠の愛を伝える術も、資格ももちあわせていない。
だから、せめて傍で見守っていたい。
「チアキさん·····」
呟きは長閑な正午に溶けた。
なんだか、頭がぼんやりする。
「·····?」
身体から力が抜けてゆく。
意識はだんだんと薄らいでゆく。
白い記憶の中、柔らかな声に名前を呼ばれた気がした。
生ぬるい風がまつ毛を揺らす。
こそばゆい。そっと目を開ける。
「ん·····」
するすると滑る羽毛と、人を堕落させてしまいそうなほど柔らかなマットの中にいた。
風の流れてきた方へ視線をやる。
レースのカーテンがヒラヒラとなびいていた。
20
あなたにおすすめの小説
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!
ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。
牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。
牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。
そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。
ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー
母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。
そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー
「え?僕のお乳が飲みたいの?」
「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」
「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」
そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー
昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!
「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」
*
総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。
いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><)
誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる