【完結】寡黙な宰相閣下の愛玩奴隷~主人に恋した奴隷少年の運命~

亜依流.@.@

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〖第三十三話〗

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ネロの答えに、彼はそう、と頷いた。


「もし気が変わったら、いつでも声をかけて下さい」


ステファンに頷き返し、椅子から浮いた自身の脚を見下ろす。

気が変わったら──それが単に外へ出掛けたいという意味だと分かってはいる。
が、もしもイヴァンの元から逃げたいかと聞かれれば、それは否だ。

なぜなら自分は、寡黙なあの主を恋い慕っているから。

もっと彼を知りたいし、傍にいたい。そう思うのだから、自分が外へ出る時はきっと、イヴァンに捨てられた時だ。


「イヴァン様には、充分良くしてもらってるから·····これ以上何かを望むなんて出来ません」


イヴァンを思い出しながら、ネロは思わず口元を綻ばせた。


「·····。」


大好きな主人に気を取られているネロは、凍てついたステファンの眼差しに気付かない。


(──馬鹿な事を)


ネロの微笑みに、ある日の少女が重なる。

あの日から、長い月日が流れた。

イヴァンへの憎悪の気持ちは、とうに冷えきっていた。

否、怒りと悲しみ以外の感情が、あの日と共に消えた。

何をしていても、どんなに美しい風景を目にしても、何も感じなくなってしまった。

復讐をするためだけに生きていた。
それが叶った時、この虚無から開放されるのだと信じて疑わなかった。

そんなステファンにとって、現在込み上げているこの感情は、とても久しいものだった。

イヴァンを想い恥じらうように眉を下げるネロ。そんな彼を目にしたとたん、視線は目の前の少年に奪われていた。

まじまじとネロを見つめていた事に気付かされ、さっと顔を背ける。

イヴァンを憎む筈の奴隷が、恋をした少女のように彼を語っている。

本来なら、聞くに絶えない笑い話だ。

しかし可笑しいはずの事実は不愉快でしかない。
ステファンはとうとう席を立った。


「ステファン様?どこに·····」

「···急用を思い出したので、一度部屋へ戻ります」


ネロの言葉を遮り、扉へ向かうステファン。

とても気分が悪かった。これ以上ここにいては、要らぬ失言をしてしまいそうだ。


「まって」


ネロがステファンを追いかける。

足元が留守なネロがつまずくのと、ステファンが後ろを向くのは同時だった。


「!」


突進してきたネロを咄嗟に抱き止める。

ネロはぎゅっと瞼を閉じる。
前のめりに倒れ込むが、痛みや衝撃はなかった。


「·····大丈夫?」


(た、助かった·····)


ほっと息を着く。

温かな何かが、内腿の下で微かに上下していた。


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