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《第五十六話》

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「イヴァン様が、すきです」


勢いのまま、一息にそれを言葉にする。
器用な愛情表現の仕方など、分からない。
だからネロは、イヴァンにされて嬉しかったことを、そっくりそのまま返した。

キスをして、抱きしめて、その後のことなど考えていなかった。

ぽたぽたとこぼれる涙が、イヴァンのシャツの上に落ちては、浸透してゆく。
慌てて退こうとしたネロは、イヴァンに引き留められた。

腰に回された手が、力強くネロを抱き寄せる。
再び顔が近づいてきた。


「·····もう一度」

「·····え?」


もう一度言え、と、彼の声が促す。
ネロは震える唇から、愛しています、と零す。
こうなってしまってはヤケクソだ。
ネロは何度もそれを呟いた。


「何でもしますから、だから、ずっと·····」

「ネロ」


イヴァンがネロを呼ぶ。

彼の瞳は熱を帯びていた。
鋭い輝きに、光がます。こんなにも綺麗な緑を、初めて見た。


「お前を愛してる」


紡がれた言葉は、静かな部屋に溶けた。





























イヴァンの人差し指と中指を咥え込み、ネロは2度目の絶頂を迎えた。


「そんなに善いのか?」

「ん、う♡」


彼の指を咥えていると思うと、それだけで果ててしまいそうだ。
ネロは、更に指を締め付け、膣を擦りつけるようにして腰を揺らした。


「随分素直だな」


手のひらで撫でていたイヴァンの熱が、大きさを増す。


「あ♡」


薬指を追加され、激しく動かされながら乳頭を舌で舐め取られる。


「ぁあ♡イヴァンさま♡イヴァ、さまっ♡」


ネロは必死にイヴァンの名前を呼んだ。


「すきっ·····」


「·····──ネロ、」


「んっ……んぅ…ふ……♡」


優しく舌で舌を絡み取られる。口内を蹂躙されている間、ネロの孔はキュンキュンと締付けられた。


「ん♡ぅ、ん」


間もなくして、ネロに絶頂の波がやってくる。
熱く濡れた身体は大きく震え出した。


「…んっ♡ゃ、イッちゃっ…♡~~っ」


しかしその寸前に、イヴァンの指はずるりと引き抜かれてしまう。
潤んだ瞳が快楽を強請り、ひくひくと孔を強弱させる。
恥ずかしがりのネロにはそれが精一杯なのだろう。
イヴァンは、ネロの体をそっと押し倒した。


「·····俺のネロ」


ランプの光で、イヴァンの逞しい身体が浮き上がる。ネロは期待が高まって、思わず、小さく声を漏らした。


「·····あ♡」


乳頭に噛みつかれる。
少し引っ張られて、強く吸いつかれた。


「あ·····♡もっと·····」


こちらを仰ぎ見たイヴァンの瞳は、ギラギラと光っていた。


「軽い仕置のつもりだったが…喜ばれては意味が無いな」

「おしおき……?」


ネロが聞き返すと、イヴァンの手は滑るようにして、足先から内ももまでを撫でた。
そして指先は、最後に蕾へ触れる。
 

「俺以外を受け入れるなと」


言った筈だと、半音低くなったイヴァンの声に、ネロはビクリと震え上がった。


「ごめんなさ····」

「分かってるんだ、お前のせいではないと·····それでも俺は·····嫉妬に狂ってしまいそうだ」


ネロは呆然とイヴァンを見上げていた。
感じるのは、悲しみや怒りだった。


「イヴァンさま、ネロはここにいます」


彼の熱い体に腕を回す。
抱きしめると、鼓動はさらに高まった。
この鼓動が、イヴァンに届いていないはずが無い。


「だから、はやく、ここを·····」


本当は、死ぬほど恥ずかしい。
でも彼に、安心して欲しい。
ネロは、濡れそぼった穴を開いてみせた。


「イヴァンさまで、いっぱい、埋めてくださ·····」


言葉は、最後まで続かなかった。


「二度と、決して、他の奴になど触らせない」


待ち望んでいた熱棒が当てられる。
ゆっくりと入れられたイヴァンの熱を締め付け、ネロは甘い声で鳴く。


「もっと足を開け」

「っあ♡·····んっ♡」


イヴァンに恥ずかしい所までじっくりと見られてしまっている。

恥ずかしい。
けれど、それ以上に嬉しい。
ネロが達した後も、イヴァンはネロのナカに何度も腰をうちつけた。
囁かれる愛の言葉を聞きながら、甘い快楽に浸っていた。










「んぅ·····」


分厚いカーテンから、ぼんやりと朝日が差し込んでいる。
目を覚ましたネロは、段々と昨夜を思い出した。
暖かい壁にすりよって、そっと顔をうずめる。

暖かい。


「イヴァンさま、好き」


これも、早く起きた特権だ。
ネロはくすくす笑いながら、イヴァンの鼻先、次いで頬へとキスをする。


「好き·····」


初めはイタズラをしていただけなのに、だんだん変な気分になってきてしまった。


「ん、ぅ·····」


乳頭を、硬い胸板に擦り付けてみる。


「あっ·····」


気持ちいい。ネロは自ら尻の穴へ手を伸ばしかけ、ハッとして動きを止めた。

ベットを濡らしたら、バレてしまう。
ネロは快楽を拾うのを我慢して、最後にイヴァンの頬へキスをした。

再びうとうととし始めた頃だった。
扉がノックされ、廊下から一人の男が現れる。

カーテンが開かれると、薄暗い部屋に朝日が差し込んだ。
セシルだ。


「おはようございます、イヴァン様」


彼は毎日、ネクタイの角度まで同じだ。
いっそ感心する。眺めていると目が合って、直ぐにフイと逸らされた。

感動の再会が嘘みたいだ。


「お茶をお持ちしました」


「置いておけ」


ネロはビクリと飛び上がった。
ハッキリとしたイヴァンの声音は、明らかに寝起きのものではない。

ティーカップに注がれたアールグレイが、ホカホカと湯気を立てている。
セシルが出ていくと、ネロは恐る恐るイヴァンを見上げた。
案の定彼もこちらを見下ろしている。
ネロは自分の行動が全て彼にバレている事を悟った。


「あっ……」


口をぱくぱくと動かしたのち、逃げ場もなくイヴァンの胸元へ顔をうずめる。
イヴァンがふっと笑う気配がした。


後日、ネロの帰国を知らされていなかったディックが不機嫌になりつつも「おかえり会」などというさパーティーを開いたのは、また別の話である。









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