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🍸59.暗転🍾
しおりを挟む(今日の人·····)
あまりにも美しい男だったからだろうか。
長いまつ毛を少し伏せて、ため息をつくように笑っていた。口の端が持ち上がると、見ているこちらは冷や汗と吐息が同時に漏れそうになる。そんな男だ。
艶やかなコロンの香りからタバコの匂いはしないのに、妙に鼻の奥がツンとした。
ミ・カリーナで、また会うだろうか?
(会ったら·····)
あったら、改めて助けてもらったお礼を言おう。
それだけでおしまいだ。
もしかしたら、もう一生会わない確率の方が高いのだから。
──────────────────
─────────────
比較的大人しい性格だったと思う。
母親は花が好きだった気がする。小さい頃は年少の誕生日に買ってもらった"クレパス"で花畑を描いて、そこに自分と母親を描いていた。
父親が居なくなってから、母親が家を空けることが多くなった。
空腹と寂しさを無言に閉じ込めていたのは、彼女が疲れて帰ってくるのを毎日見ていたからだ。
優しくて面倒見のいい母親だった。よく絵本を読んでくれたし、ダメなことはダメと叱ってくれていたから、わがままもそれなりに言ったりする子供で、それでも心優しく育ったと思う。
数ヶ月もしたら生活は変わり果てていた。
オンボロのアパート、溜まってゆくゴミ、初めは手作りの作り置から菓子パン、それから金に変わった。
初めて痛い思いをしたのは、母親の彼氏が来て少ししてからだった。
止めに入る母は泣きながら自分を抱きしめてくれた。子供の方が大事ならと言って出ていったその男を追って、それから彼女は2日帰ってこなかった。
愛情はあった、と思う。
いつの間にか変わっていた。
母親の彼氏が変わる度に殴られていた。
小学時代はずっとそんな感じだった。
謎に女の子に好意を寄せられることもあったけれど、ろくに風呂に入っていなかったし、身なりがおかしい事くらい子供でも気がつくのだ。
やかましい同級生の男達に嫌がらせを受けた。
相変わらず家に帰ったら、居候の男に殴られた。
だけど家を出なかった。
ある種の期待があった。
初めの日、母親が泣きながら自分を抱きしめて、守ろうとしてくれるほどの愛情があったと実感できたから。
また自分を選んで欲しかった。
そんな記憶はもう繰り返されなかった。
中学に上がったらグレた。
そのうち母親が居なくなった。
何度目かの絶望と、また捨てられたのかという虚無を無言に殺した。
元から無いものに縋り付いていただけで、とっくの昔に何も無かったのだ。
「ハルキくんのこと気になるの」
(何が?)
「わたしハルキのこと好きかも」
(どうして?)
聞いたこともあった気がする。
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