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🍸66.割れたグラス🍾
しおりを挟む「·····初めて?」
レイの顔は見れない。どんな顔をしてるかも今は気にする暇さえなかった。
ハルキへの想いを、必死に思い返すために。
「また会うって、全部初めて、抱きしめてくれたのも、キスもして、それと、────」
腰を支えていた腕に、ぐっと力が入った。
彼の身体が傾く。広い肩幅がねじれると、窮屈そうにシワのできたスーツが背徳的だ。
パキンと、短く音がした。
「·····へっ」
美しい口元と、男の色気がある喉仏。
そこからピントがブレて、少し先に目が止まる。
彼の手にしていたグラスが割れている。
「レイさん、血が·····!」
「·····」
席を立とうとしたのはレイが引き止めた。
どこからともなくボーイがやってきて掃除をする。ハンカチでふき取ったら、傷口は幸いほんの少しだったようだった。
「·····ごめんね、驚かせてしまった」
「へ·····ぁ、ううん·····」
彼も、酔ったのだろうか?
それにしても、グラスが割れるなんておかしい。
きっと古くなっていたのだ。
「ご、ごめんなさい」
「どうしてルチアちゃんが謝るの」
新しい飲み物と取り換えられて、彼は変わらず微笑んだ。
「ルチアちゃん」
ガラス張りのテーブルに光が反射して、陶器のような頬が光る。
白銀の髪はサラリと揺れた。
「さっきのは·····俺が口出しするものじゃなかった」
少し沈黙が訪れる。
自分はと言うと、さっき、変な予感を察知したから、すぐに返答することは出来なかった。
「·····もしも、君に悲しい顔をさせる人がいたとしても·····」
「!」
「俺といる時は、君を笑顔にするよ」
細くなった切れ長の目元が影を落としたら、月の裏側を見た気がした。
「もしどこかへ行きたいなら」
優しくて暗い眼をしている。
けれど目が離せなくなるほど、奥は輝いて美しい。
「いつでもどこへでも連れ出すよ」
だから心配しないでと、少し首を傾げるのが悪戯っぽい。
さっき、違うことを言おうとしたのではないだろうか?
夜のクラブ、酒の場の口説き文句は、どんな薬よりも危ないのだ。
「レイさん、手品師みたい」
パッと浮かんだ言葉を口にしたら、彼は少し仕方なさそうにため息をついた。
零れるような笑い方がセクシーだ。
「手品も魔法も使えるかも」
「なにそれ」
お酒で緩んだ口角が軽くて、思わず笑ってしまう。
腰から離れていった手の後が、まだ熱い。
さっき、ハルキの事を話して、腰を引き寄せられた時───本当にありえない事に───キスされると思った。
(そんなわけないのに)
「笑ってくれてよかった」
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