【完結】高嶺のバスケ部主将(ヤンデレ後輩&不良後輩×世話焼き先輩)

亜依流.@.@

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第一章

《第2話》ムカつく先輩

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ヒラヒラと手を振って、聞かなかった振りをする。


「鍵閉めるから、早く出ろ」


姫宮は、そのうちの一人のケツを軽く蹴ったのだった。

























姫宮みずき。
学園のどこへ行っても、彼の話題は尽きない。

更衣月は帰り際、チラと後ろを振り返った。
自分と離れて、すぐさまほかの男たちに囲まれている姫宮がいた。

眩しげに笑う薄い唇に、ずっと通った鼻筋。少しタレ目の片側には、おまけのように色っぽい黒子が書き出されている。

姫宮みずきが有名な理由は、綺麗な容姿と人格にある。
男女共に魅了してしまう学園のマドンナ──そんな別名を思い出しながら、更衣月は卑下するようにため息をついた。

彼を崇め奉る者がいれば、一方で彼を"いかがわしい目"で見る者が多いのも、また事実だ。

所謂性の対象。
いや、寧ろ彼の周りでそんな想像をした事がない人間などいないのではないだろうか。

今姫宮が頭を撫でている人懐っこい後輩も、彼の支持に従い従順に練習に励む部員達も。
あわよくば、なんて考えている事を、当の本人は露ほども知らない。

例えば、頭を撫でている細い腕を掴んで、組み敷いてしまいたい、とか。
或いは偉そうな口を塞いで、耽美な下克上を望んだり。


──馬鹿馬鹿しい。
木更月は地面の石ころを蹴飛ばした。
はじけた凸凹は木陰に吸い込まれていった。

ここ最近の悩みは、まさに彼に関する事だった。
姫宮を見ると、腹の奥がムカつくような、かと思えば胸をキツく締め付けられるような息苦しさを感じる。
酷く苛立つような感情にも似て、批なるものだった。

最初、更衣月はこの感情に戸惑った。
別に、姫宮を恨んでいるということは無い。
自分を思い切り叩くやつなんてこの学校には姫宮くらいしかいないが、正直不思議と、嫌な気はしなかった。

お節介で、歳が1つ上なだけで偉そうで、口うるさい先輩。
初め、言葉のキャッチボールさえしてみせなかった自分に対し、彼は自分勝手に話を進めた。
強引に肩を組んで喜怒哀楽する彼の表情や声は、少し鬱陶しい。それくらいのものだった。

それなのに時折、彼を思い出しては、胃のムカつくような思いをする。
決まって、他の人間と仲良さげにしている時や、彼らの下心も知らず、無防備な笑顔を向けているときだった。

姫宮は、更衣月がなぜ定期的に遅刻を繰り返すのかを知らない。
更衣月自身も、それは無意識だった。
送迎の車の中、ふと、彼との思い出を辿った。









   ある日、屋上で授業をサボっていた時のことだ。

「こら」といいつつ怒る気のない姫宮が、優しい瞳で笑った。


「アンタ···なんでいんの」

「俺はいーの。てか敬語」

「·····っす」


機嫌が良さそうだった。
普段のしっかりとした雰囲気はない。寝転んでいた更衣月の横に、彼は当たり前のように腰掛けた。

初夏の風が、2人を通り過ぎてゆく。
そっと彼を見上げると、まだこちらを見下ろした姫宮がいた。

やはり優しくて、どこか満足気な眼差しだ。
更衣月は彼から目を逸らし、咄嗟に反対方向を向いて、寝たフリをした。

暫く、「こら、寝るな」とか「おーい、トウマクーン?」とか、ふざけたように自分を呼ぶ声が続いた。

こっぱずかしくて、寝たフリを続けた。
優しくて穏やかな声は、不思議なほど居心地が良い。
やがて姫宮は、仕方ないやつ、と、小さく呟いた。

彼は誰にだってこうなのだ。
世話焼きで、馴れ馴れしい。
だから、どこか大切にされているように勘違いさせられる。

まるで愛情を注がれているように錯覚する。
彼のしなやかな指が、掬うように更衣月の髪を撫でた。

その行動を、1拍おいてから理解する。
更衣月は目を見開いて、それから慌てて閉じた。


「おやすみ」


いつもはアリーナで声をはりあげているあの人の、良く通る静かな声。
俺だけに向けられた、安らかな時間を告げる声。

隣で寝息をつき始めた姫宮を背に感じる。あの時は、今度こそ目を見開いたまま、ばっくばっくと鳴る心臓を押さえつけていた。

高一の、7月頭頃の出来事。
荒れていた時期の中にある、彼との刹那の穏やかな思い出だ。

車の窓を半分開ける。
4月下旬の生ぬるい風が舞い込んできた。更衣月はぼうっと外を眺めていた。










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