上 下
14 / 49
第二章

《第13話》

しおりを挟む






「先輩に謝って欲しい訳ではありません。昨日何をしてたのか、と、聞きました」


掴まれた左腕が鈍く軋んだ。


「1回手、離せ」


庵野は言うことを聞かなかった。


「教えられない」


姫宮が手を振り払おうとした時だった。


「·····っ!」


後頭部がベッドへ押し付けられる。
一瞬何が起こったのかわからぬほど、体を強く押し倒された。
両手は庵野の片手によって、頭上で拘束される。
見上げた先に、鍛え上げられた肉体があった。
姫宮は言葉を失った。


「このキスマークは、誰に付けられたものですか?」


抑揚のない言葉を、数秒してから理解する。
昨日、部室での出来事の時だ。


「俺の事を忘れて、他の奴と何してたんですか?」

「違っ·····忘れてなんか、」

「また嘘ですか?」


ふっ、と、嘲笑が聞こえた。
手に力を入れるが、拘束はビクともしない。
やばい。本能がそう察知する。


「どけよ·····───っ?!」


首元に高い鼻がうずめられた。
続いて与えられたのは、焼けるような痛み。
姫宮は歯を食いしばった。

吸うような音が長く続く。
まるで神経を引き抜かれるような感覚だ。体からは力が抜けていった。


「お前·····っ」


こちらを仰ぎ見た庵野の口元から、鮮やかな赤が垂れる。
形の良い唇が気持ち程度に弧を描く。
それが、「上書きしました」と、訳の分からないことを言った。


「こんなつもりじゃなかったんです、でも──仕方ないですよね」


妙に穏やかな声が紡ぐ。
姫宮は呆然としたまま彼を見上げていた。
ゆっくりと近づいてきた唇に、そっと唇を重ねられる。
以外にも優しく触れた唇は、先程自分の皮を破った凶器だ。


「っん·····」


ちゅ、ちゅ、と、啄むようなリップ音が続く。
短いキスのあと、しっかりと唇を塞がれた。


「·····ぅん·····っ」


熱い舌が、歯の裏側をなぞり、味わうように舌に絡みつく。
やがて口内には、じんわりと血の味が広がった。

こんなつもりじゃなかった、と彼は言った。
姫宮の方こそ、今日は全てが、こんなつもりじゃなかったのだ。


「みずき先輩·····」


一度舌を抜かれると、唇に唇を擦りつけながら、庵野が下の名前を呼んだ。


「あ、んの·····っん、」


まて、という前に、再び唇を塞がれる。
息が苦しくて、逃げるように顔を背ける。逃げないで、と、濡れた声が耳元へ囁いた。

口内を満遍なく蹂躙されながら、腰の当たりを撫でられる。
酸欠で体が痺れる。
思わず反れた背に、長い指が入り込む。

庵野は全身を舐めるように撫でまわした。
彼からは想像もつかないほどいやらしい手の動きだった。

痛みと、息苦しさ。そしてゾワゾワと神経が逆立つような快楽が混ざりあって、姫宮は思わず瞼を細める。


「先輩·····」


姫宮の表情を確認しながら、庵野の手は下へと移動してゆく。


「!?ちょ·····んっ、!」


抵抗する素振りを見せた姫宮は、ふたたび強く押さえつけられた。
唇はぱくりと塞がれる。

姫宮のペニスは半分硬くなっていた。
庵野はたまらなくなった。

姫宮みずきが自分によって性的興奮を感じている。
もう、後退りは出来ない。そう悟った。

姫宮のモノをしばらく撫でてから、庵野の手はそれを上下にしごき出す。
そっと唇を外すと、薄い唇から、混ざりあった唾液が溢れ出た。


「あんの·····やめ···っ」 


やめろと言いながらかくかくと震える足は、どうやら快楽に余程弱いらしい。


「あっ、やっ·····っ」


抵抗は意味を持たない。
庵野はその蕾に中指を押し入れていった。


「えっ?うそ、っやだ、庵野·····っ」

「みずきさん·····」


ペニスを扱く動きを早める。姫宮は言葉にならない声で鳴いた。
差し込んでいただけの中指が、きゅんと締め付けられる感覚がする。
尻の中も感じるようだった。

「んんっ·····んぅ、っ」


味わうようなディープキスをつづける。
庵野は中指を付け根まで押し込んで、第2関節を前後に動かしてみた。


「ひぅっ?」


びくびく、と、奥がうねる。


「先輩·····奥、気持ちいいんだ·····」


思わずつぶやく。
姫宮の頬はカッと赤らんだ。


「っあっ、やっ·····はぁっ」


瞳の緑が濃くなっている。
庵野は濡れた身体のあちこちへキスを落としながら、指の動きを激しくしていった。

人差し指も追加して、姫宮が1番反応した位置を執拗に刺激する


「~~~っ!」


涙の膜を張った瞳が、時折たまらなさそうに下唇を噛む。


「あ、んのっ·····」


ごくり、と、人知れず庵野の喉が鳴る。
グチュグチュと卑猥な音を出し始めた穴を、わざと大きくかき混ぜる。
庵野はそっと囁いた。


「はしたない音····気持ちいいですか?」

「あっ····」


もう、止めることは出来ない。
最奥を叩くと、姫宮はくねりながら絶頂した。


「あなたのせいで、狂ってしまいそうです」


彼を自分のものに出来たら、どれ程良いだろうか。
独りよがりな思考が、庵野を蝕もうとする。


「はぁ·····っはっ·····はぁっ」


姫宮は荒く呼吸を繰り返していた。
吸い付くような音を残し、孔から長い指が引き抜かれる。

ことの過ぎ去った部屋は、時が止まったように静かだった。


どうしようもない屈辱心と罪悪感の中で姫宮は呟いた。
こんなつもりも、糞もない。





















しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

彼の素顔は誰も知らない

BL / 完結 24h.ポイント:475pt お気に入り:49

残虐王

BL / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:151

不運な花嫁は強運な砂漠の王に愛される

BL / 連載中 24h.ポイント:227pt お気に入り:247

ノー・ウォリーズ

BL / 完結 24h.ポイント:773pt お気に入り:5

【完結】悪役令息に転生した社畜は物語を変えたい。

BL / 完結 24h.ポイント:951pt お気に入り:4,768

2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:1,327

【初恋よりも甘い恋なんて】本編・番外編完結💖

BL / 完結 24h.ポイント:489pt お気に入り:1,499

処理中です...