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第6話
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《TBside》
たった四日間の滞在期間で近隣住民の力も借りて多くの商品を作り上げたおれは、食に関することならアルフェンロード大帝国一だと言っても過言ではない商人の元へとやって来ていた。立派な建物の一室で相対するのは、商人のダグラス・シエル。髭を携えた何とも胡散臭そうな商人だ。腕は確かだけど…。
「これが、あなた様のいう商品ですか…?」
「はい。こちらはチョコレート。そちらはココアです」
机に置かれるその二つの商品をまじまじと見つめたダグラス商人は、チョコレートを食す。カッと見開かれた瞳。すると次はココアをごくごくと飲み干した。驚いている瞳と目が合う。
「これは…」
「売れますか?」
「何としてでもこの私の名に懸けて売れさせましょう!」
その言葉に満足したおれは、頭を下げた。ダグラス商人にここまでお墨付きを貰えればもう一安心だ。放っておいても資金は手に入るし、売れるだろう。
そして、その数十日後。おれの予想は、まさに的中。商品は、爆発的に平民の間で売れた。それどころか、その噂が貴族の元まで行き届き商品を買う貴族が続出した。他国までその噂が広がるのはもう時間の問題だろうな。手紙でニコラスさんやダグラス商人とやり取りをしているが、繁盛し過ぎているらしい。マリアに頼んでいた人員確保も問題ないし、気にせずとも資金はがっぽがっぽとおれの元へ入って来る。ココアは、甘い飲み物だから、次は苦い豆でも作って深みのある飲み物でも開発しようかな。邸宅の自室でそんなことを考えながら優雅に紅茶を飲んでいると、マリアが一枚の紙を手渡して来た。
「ティファニベル様。この資金はどうされますか?」
「ベルの名でここに投資しといてくれる?」
「ウラルデッタ公爵家の事業ですか?し、失礼ながら、この事業は成功例がないのでは…」
マリアの言う通り。今回ウラルデッタ公爵が臨む事業は、貴族用の一風変わったドレス製作の事業である。古株が強いドレス製作の事業だが、アルフェンロード大帝国は他国に比べ四季がはっきりとしており夏と冬の寒暖差が激しい。と言っても夏でも多少暑いが肌を見せずとも過ごせる気温だ。そのため一年を通して貴族女性はあまり肌を見せるのは良しとされていない。だけど、本当は自身の肌を露出したい、プロモーションや肌の色を自慢したいなど、女性はきっとその胸の内にそういった思いを抱いている。丈が長いのが当たり前なドレスだが、常識を覆すような涼し気な美しいドレスが出来たら貴族女性は注目するだろう。超一流の踊り子が踊る舞台を所持し、何人もの踊り子を雇っているウラルデッタ公爵が始める新しいドレス製作の事業。投資しないわけにはいかない。元踊り子であった母のことも知れるかもしれないし…。
「大丈夫。成功させるから」
おれがそう言うと、マリアは頬を赤くして頷いた。リラ夫人の命日がもうそろそろだ。その更に一月後には、不定期で開催される皇宮での舞踏会がある。おれはいつも、ランスのオマケとして招待されているが、初めての舞踏会で嫌がらせをされ名を地に落としたときから、行っていない。久々に参加するともなれば、盛大に注目を集めないと。もう誰にも、好き勝手言わせてやらない。
「一月後の舞踏会、マリアも参加して欲しいんだけど」
「え、えぇ!?!?!?!?わ、私がですか!?と、というか、ティファニベル様もご参加されるのですか…?」
「うん、」
マリアは、おれの頷きに対して少し戸惑った顔をする。どうやら心配してくれているみたいだ。マリアと言えでもおれが平民の子で嫌われ者であることを知っている。だから、舞踏会で不当な扱いに合うのではとでも危惧していそうだ。
「もう、隠れるだけの生活は嫌なんだよ。おれもマリアも幸せになる権利があるんだからさ」
「…………」
「パートナーとして一人選ぶことができるから、おれのパートナーとして参加して欲しい」
その言葉に、マリアは俯いた。下級貴族だとしても、貴族は貴族。ある程度の所作はできるだろうし、マリアは美少女だからいい出会いの場にもなるかもしれない。そんなことを考えながら期待の眼差しをマリアに向けていると、マリアは勢いよく顔を上げてしっかりと頷いた。
「分かりました…!このマリア・ファルン、必ずやティファニベル様のお役に立って見せましゅっ!………」
いつも大事なところで噛むマリアに対して、愛しいなぁと思う。役に立って貰うことはほとんどないのだけど…。ただ、ベルとしてではなくティファニベルの名で買ったドレスを着てそのまま舞踏会に参加するだけでいい。広告塔になるだけでいいのだ。それだけで、おれの財産は増える。
「ダンスの練習、一緒にしようか」
「は、はい!お願いします!」
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たった四日間の滞在期間で近隣住民の力も借りて多くの商品を作り上げたおれは、食に関することならアルフェンロード大帝国一だと言っても過言ではない商人の元へとやって来ていた。立派な建物の一室で相対するのは、商人のダグラス・シエル。髭を携えた何とも胡散臭そうな商人だ。腕は確かだけど…。
「これが、あなた様のいう商品ですか…?」
「はい。こちらはチョコレート。そちらはココアです」
机に置かれるその二つの商品をまじまじと見つめたダグラス商人は、チョコレートを食す。カッと見開かれた瞳。すると次はココアをごくごくと飲み干した。驚いている瞳と目が合う。
「これは…」
「売れますか?」
「何としてでもこの私の名に懸けて売れさせましょう!」
その言葉に満足したおれは、頭を下げた。ダグラス商人にここまでお墨付きを貰えればもう一安心だ。放っておいても資金は手に入るし、売れるだろう。
そして、その数十日後。おれの予想は、まさに的中。商品は、爆発的に平民の間で売れた。それどころか、その噂が貴族の元まで行き届き商品を買う貴族が続出した。他国までその噂が広がるのはもう時間の問題だろうな。手紙でニコラスさんやダグラス商人とやり取りをしているが、繁盛し過ぎているらしい。マリアに頼んでいた人員確保も問題ないし、気にせずとも資金はがっぽがっぽとおれの元へ入って来る。ココアは、甘い飲み物だから、次は苦い豆でも作って深みのある飲み物でも開発しようかな。邸宅の自室でそんなことを考えながら優雅に紅茶を飲んでいると、マリアが一枚の紙を手渡して来た。
「ティファニベル様。この資金はどうされますか?」
「ベルの名でここに投資しといてくれる?」
「ウラルデッタ公爵家の事業ですか?し、失礼ながら、この事業は成功例がないのでは…」
マリアの言う通り。今回ウラルデッタ公爵が臨む事業は、貴族用の一風変わったドレス製作の事業である。古株が強いドレス製作の事業だが、アルフェンロード大帝国は他国に比べ四季がはっきりとしており夏と冬の寒暖差が激しい。と言っても夏でも多少暑いが肌を見せずとも過ごせる気温だ。そのため一年を通して貴族女性はあまり肌を見せるのは良しとされていない。だけど、本当は自身の肌を露出したい、プロモーションや肌の色を自慢したいなど、女性はきっとその胸の内にそういった思いを抱いている。丈が長いのが当たり前なドレスだが、常識を覆すような涼し気な美しいドレスが出来たら貴族女性は注目するだろう。超一流の踊り子が踊る舞台を所持し、何人もの踊り子を雇っているウラルデッタ公爵が始める新しいドレス製作の事業。投資しないわけにはいかない。元踊り子であった母のことも知れるかもしれないし…。
「大丈夫。成功させるから」
おれがそう言うと、マリアは頬を赤くして頷いた。リラ夫人の命日がもうそろそろだ。その更に一月後には、不定期で開催される皇宮での舞踏会がある。おれはいつも、ランスのオマケとして招待されているが、初めての舞踏会で嫌がらせをされ名を地に落としたときから、行っていない。久々に参加するともなれば、盛大に注目を集めないと。もう誰にも、好き勝手言わせてやらない。
「一月後の舞踏会、マリアも参加して欲しいんだけど」
「え、えぇ!?!?!?!?わ、私がですか!?と、というか、ティファニベル様もご参加されるのですか…?」
「うん、」
マリアは、おれの頷きに対して少し戸惑った顔をする。どうやら心配してくれているみたいだ。マリアと言えでもおれが平民の子で嫌われ者であることを知っている。だから、舞踏会で不当な扱いに合うのではとでも危惧していそうだ。
「もう、隠れるだけの生活は嫌なんだよ。おれもマリアも幸せになる権利があるんだからさ」
「…………」
「パートナーとして一人選ぶことができるから、おれのパートナーとして参加して欲しい」
その言葉に、マリアは俯いた。下級貴族だとしても、貴族は貴族。ある程度の所作はできるだろうし、マリアは美少女だからいい出会いの場にもなるかもしれない。そんなことを考えながら期待の眼差しをマリアに向けていると、マリアは勢いよく顔を上げてしっかりと頷いた。
「分かりました…!このマリア・ファルン、必ずやティファニベル様のお役に立って見せましゅっ!………」
いつも大事なところで噛むマリアに対して、愛しいなぁと思う。役に立って貰うことはほとんどないのだけど…。ただ、ベルとしてではなくティファニベルの名で買ったドレスを着てそのまま舞踏会に参加するだけでいい。広告塔になるだけでいいのだ。それだけで、おれの財産は増える。
「ダンスの練習、一緒にしようか」
「は、はい!お願いします!」
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