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第82話
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《TBside》
後日。
エーデルワイス大公が犯した数々の大罪が、オルドガルド次期大公並びに元帥のランスロットにより余すことなく暴露された。
エーデルワイス大公家当主は、皇帝陛下とランス、そして裁判長の名の元に早急に死刑に処された。最後まで抵抗を見せていたそうだが、判決が覆ることはなかった。
末息子であるセリム様は、エーデルワイス大公家邸宅にある地下牢への永久投獄を言い渡された。皇帝陛下により派遣された日替わりの軍人が、セリム様が死するときまで地下牢を見張るという。自らが住んでいた邸宅の牢に幽閉されることになろうとは、さすがのセリム様も思ってなどいなかっただろう。体も弱いため、劣悪な環境に長く耐えられるとは思えない。逝かれる日も、近い。とにかく彼は、二度と日の目を見ることはないだろう。
かのエーデルワイス元帥の子孫家のため、一族総出の没落や降爵は免れた。
そして、おれとランスは、と言うと________。
「そうか…」
ソファーに深々と腰掛けたお父様は、安心しきった様子で瞼を下ろした。
全ての問題事を解決できたため、お父様への報告をしている最中だ。
「ランスロット、ティファニベル。おまえたちの結婚を、心から祝福しよう」
目尻に皺が寄り、微笑みを見せるお父様。初めて見る優しげな表情に、心が震える。
母を心から愛し、平民の子であったおれを使用人でも何でもなく、一族の息子として迎え入れてくれたお父様。酷く冷たくて酷い人だと思っていたけれど、全くそうではなかった。お父様は、いつもおれのことを考えてくれていたんだ。ずっと、ずっと、前から。
「ランスロット。ティファニベルは、私が唯一生涯で愛した女性の子だ…。必ず幸せにしろ」
「はい、必ずや」
お父様の言葉に、ランスが深く頷く。お父様は、おれをジッと見つめて優しく笑う。
「美しく優しかったルラーナによく似ているな」
「っ………」
記憶の紐を必死に手繰り寄せて、亡き母を思い浮かべる。ピンク色の長い髪を靡かせ、優しげにおれの名を呼ぶ母。ずっと曖昧だった母の顔が、はっきりと脳裏に浮かぶ。父を愛し、そしてお父様に愛された人。愛と花が良く似合う、女性だった。
お父様も母を思い出すように瞼をそっと下ろす。恐らくその瞼の裏にいるのは、母だけではない。ランスの母でありオルドガルド大公夫人でもあったリラ夫人も、いるのだろう。
「立派に育ったな、ランスロット、ティファニベル。ルラーナも、リラも、おまえたちを誇りに思っているだろう」
その言葉に、目元が熱くなる。
まさか、お父様からそんなお言葉をいただけるなんて…。前までは考えられないことだったのに。
「二人の分まで、そして私の分まで、幸せになってくれ」
「はい、お父様」
そう言うと、お父様は満足気に頷いた。
ねぇ、お父様。おれ、もう幸せなんです。幸せになりたいがためにいろいろ行動を起こしてきましたけど、家族がいれば…家族さえいれば、あとはもう何もいりません。
訪れた陽気に花々が顔を出し挨拶をする、よく晴れた暖かな季節のこと。おれたち三人は、本当の意味で家族となった_______。
お父様にランスとの婚約を報告してから数日後のこと。既に、おれとランスが正式に婚約を結ぶという話が広まり、社交界は慌ただしくなっていた。
ライドニッツ卿は、グラディドール大帝国へと帰還した。おれの友人のレミルアナ…カーデリアン侯爵令嬢も事業のためにグラディドール大帝国へと渡った。どうやらその際に、ライドニッツ卿とレミルアナが共にグラディドール大帝国へと向かったらしく、二人が婚約するのも時間の問題だという噂も広まっている。
おれとランスは、婚約式など様々な面倒な行事を省いて、今から約一月後に結婚式を挙げることとなった。
「結婚の日時が正式に決まりましたね」
「そうだね」
オルドガルド大公家邸宅の大きな庭。隅々まで手入れの行き届いた美しい庭に悠然と佇む白亜のアンティーク。淹れたてのお茶を飲みながら、おれたちは安らぎのひとときを過ごしていた。
「俺たちが結婚したら、俺が正式に大公家を引き継ぐことになりました」
「そ、そうなの!?初耳なんだけど…。じゃあお父様はどうされるおつもり?」
「宰相を続けながら、皇宮近くにある別荘に住まわれるそうです」
ランスから今々聞いた事実に、おれは驚きを隠せない。
ランスがオルドガルド大公家を継ぐということは、全ての権限はランスに移るということ。つまりおれたちが幼い頃から育ったこの邸宅も、オルドガルド大公家が持つ財産も全てランスの物となる。新当主となったランスとその妻となるおれがこの邸宅に住むことになるなら、お父様は…。宰相を続けるならもちろん皇宮近くの別荘に住むのが一番良いんだけど、少し…寂しく感じるな。
「別荘に移っても度々この家には顔を出すと言っていました」
「そう、なんだ…。じゃあ早く孫の顔を見せてあげたいね」
「はい。…………………………え、?」
たっぷり数秒。ランスは頬を真っ赤に染め上げて、口をパクパクとしている。
何を恥ずかしがっているんだ。オルドガルド大公夫人として、おれは世継ぎを産む役目があるし、お父様にも早く孫の顔を見せてあげたいし…。母やリラ夫人にも良い報告をしたい。そう思うのは普通なのに…。そもそももう体は繋げてるんだから一度や二度も同じでしょう?
「そ、そんなっ…。俺たちにはまだ早いですよ!」
「………………」
ごにょごにょと話しながら照れているランスを他所に、子供は五人くらい欲しいな、と呑気なことを考えるのであった。
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後日。
エーデルワイス大公が犯した数々の大罪が、オルドガルド次期大公並びに元帥のランスロットにより余すことなく暴露された。
エーデルワイス大公家当主は、皇帝陛下とランス、そして裁判長の名の元に早急に死刑に処された。最後まで抵抗を見せていたそうだが、判決が覆ることはなかった。
末息子であるセリム様は、エーデルワイス大公家邸宅にある地下牢への永久投獄を言い渡された。皇帝陛下により派遣された日替わりの軍人が、セリム様が死するときまで地下牢を見張るという。自らが住んでいた邸宅の牢に幽閉されることになろうとは、さすがのセリム様も思ってなどいなかっただろう。体も弱いため、劣悪な環境に長く耐えられるとは思えない。逝かれる日も、近い。とにかく彼は、二度と日の目を見ることはないだろう。
かのエーデルワイス元帥の子孫家のため、一族総出の没落や降爵は免れた。
そして、おれとランスは、と言うと________。
「そうか…」
ソファーに深々と腰掛けたお父様は、安心しきった様子で瞼を下ろした。
全ての問題事を解決できたため、お父様への報告をしている最中だ。
「ランスロット、ティファニベル。おまえたちの結婚を、心から祝福しよう」
目尻に皺が寄り、微笑みを見せるお父様。初めて見る優しげな表情に、心が震える。
母を心から愛し、平民の子であったおれを使用人でも何でもなく、一族の息子として迎え入れてくれたお父様。酷く冷たくて酷い人だと思っていたけれど、全くそうではなかった。お父様は、いつもおれのことを考えてくれていたんだ。ずっと、ずっと、前から。
「ランスロット。ティファニベルは、私が唯一生涯で愛した女性の子だ…。必ず幸せにしろ」
「はい、必ずや」
お父様の言葉に、ランスが深く頷く。お父様は、おれをジッと見つめて優しく笑う。
「美しく優しかったルラーナによく似ているな」
「っ………」
記憶の紐を必死に手繰り寄せて、亡き母を思い浮かべる。ピンク色の長い髪を靡かせ、優しげにおれの名を呼ぶ母。ずっと曖昧だった母の顔が、はっきりと脳裏に浮かぶ。父を愛し、そしてお父様に愛された人。愛と花が良く似合う、女性だった。
お父様も母を思い出すように瞼をそっと下ろす。恐らくその瞼の裏にいるのは、母だけではない。ランスの母でありオルドガルド大公夫人でもあったリラ夫人も、いるのだろう。
「立派に育ったな、ランスロット、ティファニベル。ルラーナも、リラも、おまえたちを誇りに思っているだろう」
その言葉に、目元が熱くなる。
まさか、お父様からそんなお言葉をいただけるなんて…。前までは考えられないことだったのに。
「二人の分まで、そして私の分まで、幸せになってくれ」
「はい、お父様」
そう言うと、お父様は満足気に頷いた。
ねぇ、お父様。おれ、もう幸せなんです。幸せになりたいがためにいろいろ行動を起こしてきましたけど、家族がいれば…家族さえいれば、あとはもう何もいりません。
訪れた陽気に花々が顔を出し挨拶をする、よく晴れた暖かな季節のこと。おれたち三人は、本当の意味で家族となった_______。
お父様にランスとの婚約を報告してから数日後のこと。既に、おれとランスが正式に婚約を結ぶという話が広まり、社交界は慌ただしくなっていた。
ライドニッツ卿は、グラディドール大帝国へと帰還した。おれの友人のレミルアナ…カーデリアン侯爵令嬢も事業のためにグラディドール大帝国へと渡った。どうやらその際に、ライドニッツ卿とレミルアナが共にグラディドール大帝国へと向かったらしく、二人が婚約するのも時間の問題だという噂も広まっている。
おれとランスは、婚約式など様々な面倒な行事を省いて、今から約一月後に結婚式を挙げることとなった。
「結婚の日時が正式に決まりましたね」
「そうだね」
オルドガルド大公家邸宅の大きな庭。隅々まで手入れの行き届いた美しい庭に悠然と佇む白亜のアンティーク。淹れたてのお茶を飲みながら、おれたちは安らぎのひとときを過ごしていた。
「俺たちが結婚したら、俺が正式に大公家を引き継ぐことになりました」
「そ、そうなの!?初耳なんだけど…。じゃあお父様はどうされるおつもり?」
「宰相を続けながら、皇宮近くにある別荘に住まわれるそうです」
ランスから今々聞いた事実に、おれは驚きを隠せない。
ランスがオルドガルド大公家を継ぐということは、全ての権限はランスに移るということ。つまりおれたちが幼い頃から育ったこの邸宅も、オルドガルド大公家が持つ財産も全てランスの物となる。新当主となったランスとその妻となるおれがこの邸宅に住むことになるなら、お父様は…。宰相を続けるならもちろん皇宮近くの別荘に住むのが一番良いんだけど、少し…寂しく感じるな。
「別荘に移っても度々この家には顔を出すと言っていました」
「そう、なんだ…。じゃあ早く孫の顔を見せてあげたいね」
「はい。…………………………え、?」
たっぷり数秒。ランスは頬を真っ赤に染め上げて、口をパクパクとしている。
何を恥ずかしがっているんだ。オルドガルド大公夫人として、おれは世継ぎを産む役目があるし、お父様にも早く孫の顔を見せてあげたいし…。母やリラ夫人にも良い報告をしたい。そう思うのは普通なのに…。そもそももう体は繋げてるんだから一度や二度も同じでしょう?
「そ、そんなっ…。俺たちにはまだ早いですよ!」
「………………」
ごにょごにょと話しながら照れているランスを他所に、子供は五人くらい欲しいな、と呑気なことを考えるのであった。
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