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八話
夕暮れの街を歩く。細道へ抜けた。
古い木造の建物が並んでいる。
静けさが漂った。
「――、――――!」
わずかに声が聞こえた。足を止める。
色褪せた門の奥、平屋。
軒先には白い看板が掛かる。
手入れされた庭。
建物の中から、灯りが薄く滲んでいた。
「――――!」
また、聞こえる。……何かやっているのかな。
再び歩き出す。
通りの先にマンションが見えた。
「ただいま」
ガチャリ。扉を開ける。
人の気配はない。
靴を脱いで、部屋にあがった。
シェルフへ向かう。
緑の葉に鮮やかな赤の差し色。
四角い鉢の正面には、複雑な模様の彫りがある。
袋からスプレーボトルを取り出す。
「肥料はまだ、駄目だってさ」
ラベルには『活力剤』の文字。
葉や土に吹きかけた。
ボトルを置き、シャツのボタンを外す。
脱衣室の洗濯機に服を放った。
「ふぅ……」
――最近、流行りのアニメがあるんですよ!学園コメディなんですけど……
シャワーを浴びる。
ふと、後輩の声が浮かんできた。
……松方君、流行りものに詳しいんだよなぁ。
体を拭く。部屋着を身につけた。
リビングへ戻り、スマホを手に取る。
「あっ、これか」
ランキング一位に表示されているアニメ。
再生ボタンをタップした。
ナレーションが始まる。
画面を見ながら、キッチンへ向かう。
にんじん、玉ねぎ、ジャガイモ。
それに豚バラもある。
スマホをカウンターに置いた。
野菜の皮をむき、小さく切っていく。
「お、オレが学級委員!?無理ですよ!」
「他に立候補者もいないし……仕方ないじゃない」
――実行委員、立候補は?……誰もいないのか。
――吉井はどうだ?真面目だし、みんなも文句はないだろう?
大鍋で野菜を炒め、水を入れる。
小さな泡が浮かびはじめる。
しばらく経って、弱火に調節した。
「君はもう『モブキャラ』じゃない。みんなの中心にいるんだよ」
――瀬川?いや、構わないが……。
――えー、馨がやるなら私もやればよかったー。
みんなの中心。僕にはなれないな。
馨くんみたいに、頭が良くて、やさしくて、みんなに好かれる人のことを言うんだろう。
鍋に蓋をする。
リビングへ戻り、ソファに座った。
ふつふつと煮える音が続いている。
「オレなんかには……最初から無理だったんだ」
「どうして、いつも自信がないのよ!私は貴方に救われたのに!」
――瀬川君!どうして、僕なんかと……。
――別に、お前のためじゃねぇよ。たまには真面目にやってやろうってだけ。
「もう無理とは言わない。……お前ら、放っとくとロクなことしないからな!」
頬に、涙が伝っていた。
指で拭う。……なにか忘れているような。
「鍋!」
キッチンへ戻り、火を止める。
あふれた泡は一瞬で引いた。
「……はぁ」
ルーを割り入れ、溶かす。
換気扇の音が低く鳴り響いている。
――カチッ。
「ん……?」
乾いた音がした。リビングの方向。
カウンター越しに、目をやる。
何もない。
――ガチャリ。
「……!」
確かなドアの音。
玄関へと急ぐ。
視線の先のドアが、開いていく。
「馨くん!」
「……お前はハチ公か」
大好きな人の、姿。
鞄を受け取る。
胸の奥の違和感は、跡形もなくなった。
古い木造の建物が並んでいる。
静けさが漂った。
「――、――――!」
わずかに声が聞こえた。足を止める。
色褪せた門の奥、平屋。
軒先には白い看板が掛かる。
手入れされた庭。
建物の中から、灯りが薄く滲んでいた。
「――――!」
また、聞こえる。……何かやっているのかな。
再び歩き出す。
通りの先にマンションが見えた。
「ただいま」
ガチャリ。扉を開ける。
人の気配はない。
靴を脱いで、部屋にあがった。
シェルフへ向かう。
緑の葉に鮮やかな赤の差し色。
四角い鉢の正面には、複雑な模様の彫りがある。
袋からスプレーボトルを取り出す。
「肥料はまだ、駄目だってさ」
ラベルには『活力剤』の文字。
葉や土に吹きかけた。
ボトルを置き、シャツのボタンを外す。
脱衣室の洗濯機に服を放った。
「ふぅ……」
――最近、流行りのアニメがあるんですよ!学園コメディなんですけど……
シャワーを浴びる。
ふと、後輩の声が浮かんできた。
……松方君、流行りものに詳しいんだよなぁ。
体を拭く。部屋着を身につけた。
リビングへ戻り、スマホを手に取る。
「あっ、これか」
ランキング一位に表示されているアニメ。
再生ボタンをタップした。
ナレーションが始まる。
画面を見ながら、キッチンへ向かう。
にんじん、玉ねぎ、ジャガイモ。
それに豚バラもある。
スマホをカウンターに置いた。
野菜の皮をむき、小さく切っていく。
「お、オレが学級委員!?無理ですよ!」
「他に立候補者もいないし……仕方ないじゃない」
――実行委員、立候補は?……誰もいないのか。
――吉井はどうだ?真面目だし、みんなも文句はないだろう?
大鍋で野菜を炒め、水を入れる。
小さな泡が浮かびはじめる。
しばらく経って、弱火に調節した。
「君はもう『モブキャラ』じゃない。みんなの中心にいるんだよ」
――瀬川?いや、構わないが……。
――えー、馨がやるなら私もやればよかったー。
みんなの中心。僕にはなれないな。
馨くんみたいに、頭が良くて、やさしくて、みんなに好かれる人のことを言うんだろう。
鍋に蓋をする。
リビングへ戻り、ソファに座った。
ふつふつと煮える音が続いている。
「オレなんかには……最初から無理だったんだ」
「どうして、いつも自信がないのよ!私は貴方に救われたのに!」
――瀬川君!どうして、僕なんかと……。
――別に、お前のためじゃねぇよ。たまには真面目にやってやろうってだけ。
「もう無理とは言わない。……お前ら、放っとくとロクなことしないからな!」
頬に、涙が伝っていた。
指で拭う。……なにか忘れているような。
「鍋!」
キッチンへ戻り、火を止める。
あふれた泡は一瞬で引いた。
「……はぁ」
ルーを割り入れ、溶かす。
換気扇の音が低く鳴り響いている。
――カチッ。
「ん……?」
乾いた音がした。リビングの方向。
カウンター越しに、目をやる。
何もない。
――ガチャリ。
「……!」
確かなドアの音。
玄関へと急ぐ。
視線の先のドアが、開いていく。
「馨くん!」
「……お前はハチ公か」
大好きな人の、姿。
鞄を受け取る。
胸の奥の違和感は、跡形もなくなった。
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