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22.手に入らないのなら(前世クリフトン)
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ライラの提案は簡単なことだ。クリフトンがライラと親しくする。それを見てマリオンが嫉妬するのか見極めようとのことだ。幼稚だと分かっているが、マリオンが嫉妬する顔を見てみたい。クリフトンのことで感情を揺らすところを見たかった。
「クリフトン様を好きなら絶対に嫉妬するはずです。もししなかったらマリオン様とは婚約を解消したほうがいいですよ」
上目遣いで首を傾げるライラは暗に自分を婚約者にと言っている。それは全く考えていないので利用するだけだ。クリフトンはマリオンのことが好きだ。でもこのまま結婚しても幸せになれる気がしない。両親のような冷たい夫婦関係はまっぴらだ。一瞬婚約を解消するべきか悩んだが――やっぱり彼女を手放したくない。
それ以降の夜会ではマリオンとのファーストダンスの後はライラと過ごした。マリオンは悲しそうに俯くがクリフトンには何も言わない。彼女の性格から嫉妬よりも自分を責めるのかもしれないが、クリフトンはマリオンの口から言葉が欲しかった。
「自分を優先して欲しい」もしくは「クリフトン様をお慕いしています」そうでなければ責める言葉でもよかった。他の令嬢たちやライラのような言葉や態度が欲しい。
でもマリオンが口にしたのは――。
「クリフトン様。私が何か失礼をしてしまったのでしょうか? 気をつけます。どうか教えてくださいませ」
「どうせ言ってもマリオンには理解出来ない」
クリフトンは自分が無様にも婚約者の気を引きたくて見苦しく足掻いていることが許せなかった。それが悔しくてマリオンへの怒りになっていく。
(何故私の気持ちを理解しないのか!)
そんなときライラの言葉を聞いて動揺した。
「マリオン様が男性と密会しているようです。手紙を拾いました。見て下さい! こんなのクリフトン様への裏切りです。酷いわ。実はお伝えしていなかったのですが夜会で騎士と抱き合っている姿を見たと言う証言もあるのです!」
「騎士と抱き合っていた」と聞き怒りで目の奥が真っ赤に染まる。確かコンラッドと言ったか……。あの男とクリフトンの目を盗んで会っていたのか? ライラから手紙受け取り中身を読めば愛を告げる言葉が並んでいる。そしてクリフトンの婚約者になどなりたくなかったとまで書かれていた。それでも冷静になって側近に手紙の文字の筆跡鑑定を命じた。クリフトンはマリオンに問いかけた。
「……マリオン。私をどう思っている?」
「尊敬しています」
クリフトンは落胆した。自分が欲しいのはその言葉じゃない。
そして手紙の筆跡鑑定の結果が出た。
「間違いなくベイトソン公爵令嬢の文字です」
「そうか」
クリフトンは手を握りしめ怒りに震えた。その日の夜会が終わるとマリオンに問い詰めた。
「マリオン。ライラがこの手紙を拾った。お前が書いたもので間違いないか?」
マリオンはそれを受けとり目を通すと顔色を変え唇を強く噛んだ。その姿は隠し事を見つかり動揺しているように映った。
「これは私が書いたものではありません。文字は似せてありますが違います」
「見苦しいぞ。筆跡鑑定もしてある」
「そんな……」
マリオンは往生際悪く認めない。
「お願いします。もう一度詳しく再調査をして下さい」
ライラがマリオンに優しく諭すように話しかけた。
「マリオン様。本当のことを言って下さいませ。夜会の時に騎士と抱き合ってたという目撃者もいるのです。認めればクリフトン様も分かってくれます。それで婚約を破棄すればいいのですもの」
マリオンは強く首を振る。その必死な様子は本当に誤解だからか、もしくは自己保身なのか分からない。
「それは誤解です。抱き合っていたのではなく、具合が悪くて歩けない私を支えて下さっただけです」
支えていた? それなら一緒にいたことは本当じゃないか。もう何を聞いても見え透いた言い訳にしか聞こえない。マリオンは裏切ったのだ。
「本当ですか? 見つめ合っていい感じだったって聞いていますよ」
「ライラ、もういい!! マリオンを牢へ!」
これ以上聞いていたくなくて騎士に命じマリオンを牢屋へ放り込んだ。それは貴族用ではなく平民の罪人が入る場所だった。裏切られたとの気持ちが強く許せないと思った。愛していたからこそ憎しみは深くなる。
クリフトンは引出しから小瓶を取り出し手で弄んだ。黄色い小瓶……王家の秘毒。
「私を愛さないのなら、もういい……」
翌日、昼過ぎにマリオンのいる牢に向かった。手には小瓶を握っている。最後にもう一度問う。その答え次第でマリオンに飲ませるつもりだった。彼女はたった一晩で酷くやつれていた。
「マリオン。本当に不貞の事実はないと言い切れるのか?」
「……私は不貞などしておりません」
「だがマリオンが騎士と抱き合っていた姿を見た証人がいる」
「抱き合ってなどいません。騎士様には具合が悪いところを助けてもらっただけです」
「…………」
彼女がコンラッドに向けた微笑みを思い出す。一度もクリフトンに向けたことのない顔を。一瞬、激しい怒りが沸く。これは嫉妬だ。私が嫉妬をするなんて。
「マリオン。私をどう思っている?」
それでも今、彼女の口から「愛している」と聞けたなら……。
「……もちろん尊敬しています」
「そうか」
心がスッと冷えた。マリオンとクリフトの距離は変わらないままだった。
(終わりだ――)
クリフトンは失望すると表情を消し毒の入った小瓶を握る手をマリオンに向かって差し出した。
「殿下……」
マリオンはそれを力なく受け取るとぼんやりとクリフトンを見上げた。最後まで私を名前で呼ばなかった。何度も名前で呼ぶようにと言ったのに恐れ多いと遠慮していた。あれは遠慮だったのか? いいや、もうどうでもいい。
「マリオン。それを飲め」
マリオンは全てを諦めた儚い笑みを浮かべた。そして躊躇うことなく蓋を開け一気に飲み干した。ゆっくりと仰向けに倒れると目を閉じた。それを見届け牢をあとにした。すぐに宰相を呼び出した。
「マリオンの不貞の噂を確かめるために牢に入れたのだが、彼女は毒を飲んで死んだ。きっと自責の念からの行動だろう。王太子の婚約者が不貞で自死など醜聞だ。適切に処理をしてくれ」
「分かりました」
宰相は何も訊いてこなかった。普通に考えればマリオンが毒を持っているはずがない。矛盾だらけでも何かを察したようだ。これは宰相に大きな貸しになってしまった。しばらくすると宰相が戻って来た。
「殿下。牢にベイトソン公爵令嬢の遺体はありませんでした」
「そんな馬鹿な……」
クリフトンは動揺し口を手で覆った。確かに死んだことを確認はしていない。でもあの毒は王家に伝わるもので苦しむことなく確実に死ぬ。苦しませないようにしたのは最後の慈悲だった。
取り乱すクリフトンを冷静に眺めながら宰相はおもむろに口を開いた。
「マリオン様は死んでいない。きっと不貞を突きつけられて死んだふりをしたのです。そして不貞相手と示し合わせて駆け落ちをした。騎士団に問い合わせたら一人の騎士の姿が見当たらないそうです。間違いありません」
宰相は涼しい顔をして言ったが、納得できるはずもない。さすがのクリフトンも動揺を顕わにした。
「違う。あの毒で助かるはずがない」
「ですが遺体がありませんしもし毒を飲んだのなら、毒の出どころを調査する必要があります。更にその責任も問わねばなりません。殿下。これは王家の秘毒ですね? 彼女がこれを手に入れることはできないはずです。調査すれば殿下の責任を追及しなければなりません。いいのですか? 公爵令嬢を確かな証拠もなく牢に入れたことも明るみになります。ですが、もしこのまま駆け落ちということにしておけばベイトソン公爵家だけが責任を負えばいい」
宰相の手には黄色い瓶がある。その目はどうしますか? と、毒の出どころを調べていいのかと脅している。ここでようやく我に返った。これが公になれば王太子の立場が危うくなる。最悪妾の子に奪われるかもしれない。それは駄目だ。正当な血を引くクリフトンが王にならなければならない。だから決断した。
「そうだな……。宰相の言う通りだ」
「ええ。殿下。あとのことはすべて私にお任せください」
「ああ、頼む」
宰相は口角を上げると恭しく頭を下げて退出した。
もう済んでしまったことだ。宰相に任せてしまえばいい。遺体がないのだからこれ以上調べることはできない。それにしても誰がマリオンを連れ去ったのか。騎士が一人いないと言っていた……。コンラッドという男なのか。
――もう忘れよう。自分は王にならなければならない尊い存在なのだから。
その後、クリフトンは宰相の後ろ盾をもつ侯爵令嬢と婚約し結婚した。マリオンは失踪したと騒ぎになった。宰相の指示で騎士団が調査を行ったがその結果は予定通り騎士と駆け落ちしたということになった。一応捜索もされたが二人は見つからなかった。ベイトソン公爵にはその不祥事の責任を取って蟄居及び多額の罰金を科した。
結婚後の生活はいいものではなかった。妻は宰相から何かを聞かされていたようで、クリフトンに尊大に振る舞った。もちろん彼女を愛することはない。あれほど回避したかった冷たい夫婦生活を送ることになった。
数年後、クリフトンは王位を継ぎさらに妻との間に三人の子が生まれた。
さらに七十年後、クリフトンは老衰で死んだ。死の間際にマリオンを思い出した。
(もしマリオンと結婚したのなら違った生活を送れたのだろうか。贅沢が好きで傲慢な妻との結婚生活は最悪だった)
後に知ったのはマリオンが書いたとされた不貞の証拠の手紙の筆跡鑑定は、母が偽造したものだった。マリオンの文字ではなかった。たぶんマリオンを排除してライラを新しい婚約者にしようとしたのだろう。それも無駄になったが。
(マリオンは不貞をしていなかった。疑ったりして可哀想なことをしてしまった。きっと彼女は私へ好意を口に出すのが恥ずかしかったに違いない。抵抗もなく毒を飲んだのはクリフトンが自分を信じなかったことに絶望したからだ。だから本当はマリオンは私を愛していたんだ。若い私はそれに気付かずに彼女を死なせてしまった。なんて不幸な運命なんだ……。マリオン、すまなかった。もし時間を戻せるのなら今度こそ一緒に幸せになろう……)
クリフトンは人生の最後に、幸せじゃなかった妻との関係はマリオンを失ったせいだと後悔した。
「クリフトン様を好きなら絶対に嫉妬するはずです。もししなかったらマリオン様とは婚約を解消したほうがいいですよ」
上目遣いで首を傾げるライラは暗に自分を婚約者にと言っている。それは全く考えていないので利用するだけだ。クリフトンはマリオンのことが好きだ。でもこのまま結婚しても幸せになれる気がしない。両親のような冷たい夫婦関係はまっぴらだ。一瞬婚約を解消するべきか悩んだが――やっぱり彼女を手放したくない。
それ以降の夜会ではマリオンとのファーストダンスの後はライラと過ごした。マリオンは悲しそうに俯くがクリフトンには何も言わない。彼女の性格から嫉妬よりも自分を責めるのかもしれないが、クリフトンはマリオンの口から言葉が欲しかった。
「自分を優先して欲しい」もしくは「クリフトン様をお慕いしています」そうでなければ責める言葉でもよかった。他の令嬢たちやライラのような言葉や態度が欲しい。
でもマリオンが口にしたのは――。
「クリフトン様。私が何か失礼をしてしまったのでしょうか? 気をつけます。どうか教えてくださいませ」
「どうせ言ってもマリオンには理解出来ない」
クリフトンは自分が無様にも婚約者の気を引きたくて見苦しく足掻いていることが許せなかった。それが悔しくてマリオンへの怒りになっていく。
(何故私の気持ちを理解しないのか!)
そんなときライラの言葉を聞いて動揺した。
「マリオン様が男性と密会しているようです。手紙を拾いました。見て下さい! こんなのクリフトン様への裏切りです。酷いわ。実はお伝えしていなかったのですが夜会で騎士と抱き合っている姿を見たと言う証言もあるのです!」
「騎士と抱き合っていた」と聞き怒りで目の奥が真っ赤に染まる。確かコンラッドと言ったか……。あの男とクリフトンの目を盗んで会っていたのか? ライラから手紙受け取り中身を読めば愛を告げる言葉が並んでいる。そしてクリフトンの婚約者になどなりたくなかったとまで書かれていた。それでも冷静になって側近に手紙の文字の筆跡鑑定を命じた。クリフトンはマリオンに問いかけた。
「……マリオン。私をどう思っている?」
「尊敬しています」
クリフトンは落胆した。自分が欲しいのはその言葉じゃない。
そして手紙の筆跡鑑定の結果が出た。
「間違いなくベイトソン公爵令嬢の文字です」
「そうか」
クリフトンは手を握りしめ怒りに震えた。その日の夜会が終わるとマリオンに問い詰めた。
「マリオン。ライラがこの手紙を拾った。お前が書いたもので間違いないか?」
マリオンはそれを受けとり目を通すと顔色を変え唇を強く噛んだ。その姿は隠し事を見つかり動揺しているように映った。
「これは私が書いたものではありません。文字は似せてありますが違います」
「見苦しいぞ。筆跡鑑定もしてある」
「そんな……」
マリオンは往生際悪く認めない。
「お願いします。もう一度詳しく再調査をして下さい」
ライラがマリオンに優しく諭すように話しかけた。
「マリオン様。本当のことを言って下さいませ。夜会の時に騎士と抱き合ってたという目撃者もいるのです。認めればクリフトン様も分かってくれます。それで婚約を破棄すればいいのですもの」
マリオンは強く首を振る。その必死な様子は本当に誤解だからか、もしくは自己保身なのか分からない。
「それは誤解です。抱き合っていたのではなく、具合が悪くて歩けない私を支えて下さっただけです」
支えていた? それなら一緒にいたことは本当じゃないか。もう何を聞いても見え透いた言い訳にしか聞こえない。マリオンは裏切ったのだ。
「本当ですか? 見つめ合っていい感じだったって聞いていますよ」
「ライラ、もういい!! マリオンを牢へ!」
これ以上聞いていたくなくて騎士に命じマリオンを牢屋へ放り込んだ。それは貴族用ではなく平民の罪人が入る場所だった。裏切られたとの気持ちが強く許せないと思った。愛していたからこそ憎しみは深くなる。
クリフトンは引出しから小瓶を取り出し手で弄んだ。黄色い小瓶……王家の秘毒。
「私を愛さないのなら、もういい……」
翌日、昼過ぎにマリオンのいる牢に向かった。手には小瓶を握っている。最後にもう一度問う。その答え次第でマリオンに飲ませるつもりだった。彼女はたった一晩で酷くやつれていた。
「マリオン。本当に不貞の事実はないと言い切れるのか?」
「……私は不貞などしておりません」
「だがマリオンが騎士と抱き合っていた姿を見た証人がいる」
「抱き合ってなどいません。騎士様には具合が悪いところを助けてもらっただけです」
「…………」
彼女がコンラッドに向けた微笑みを思い出す。一度もクリフトンに向けたことのない顔を。一瞬、激しい怒りが沸く。これは嫉妬だ。私が嫉妬をするなんて。
「マリオン。私をどう思っている?」
それでも今、彼女の口から「愛している」と聞けたなら……。
「……もちろん尊敬しています」
「そうか」
心がスッと冷えた。マリオンとクリフトの距離は変わらないままだった。
(終わりだ――)
クリフトンは失望すると表情を消し毒の入った小瓶を握る手をマリオンに向かって差し出した。
「殿下……」
マリオンはそれを力なく受け取るとぼんやりとクリフトンを見上げた。最後まで私を名前で呼ばなかった。何度も名前で呼ぶようにと言ったのに恐れ多いと遠慮していた。あれは遠慮だったのか? いいや、もうどうでもいい。
「マリオン。それを飲め」
マリオンは全てを諦めた儚い笑みを浮かべた。そして躊躇うことなく蓋を開け一気に飲み干した。ゆっくりと仰向けに倒れると目を閉じた。それを見届け牢をあとにした。すぐに宰相を呼び出した。
「マリオンの不貞の噂を確かめるために牢に入れたのだが、彼女は毒を飲んで死んだ。きっと自責の念からの行動だろう。王太子の婚約者が不貞で自死など醜聞だ。適切に処理をしてくれ」
「分かりました」
宰相は何も訊いてこなかった。普通に考えればマリオンが毒を持っているはずがない。矛盾だらけでも何かを察したようだ。これは宰相に大きな貸しになってしまった。しばらくすると宰相が戻って来た。
「殿下。牢にベイトソン公爵令嬢の遺体はありませんでした」
「そんな馬鹿な……」
クリフトンは動揺し口を手で覆った。確かに死んだことを確認はしていない。でもあの毒は王家に伝わるもので苦しむことなく確実に死ぬ。苦しませないようにしたのは最後の慈悲だった。
取り乱すクリフトンを冷静に眺めながら宰相はおもむろに口を開いた。
「マリオン様は死んでいない。きっと不貞を突きつけられて死んだふりをしたのです。そして不貞相手と示し合わせて駆け落ちをした。騎士団に問い合わせたら一人の騎士の姿が見当たらないそうです。間違いありません」
宰相は涼しい顔をして言ったが、納得できるはずもない。さすがのクリフトンも動揺を顕わにした。
「違う。あの毒で助かるはずがない」
「ですが遺体がありませんしもし毒を飲んだのなら、毒の出どころを調査する必要があります。更にその責任も問わねばなりません。殿下。これは王家の秘毒ですね? 彼女がこれを手に入れることはできないはずです。調査すれば殿下の責任を追及しなければなりません。いいのですか? 公爵令嬢を確かな証拠もなく牢に入れたことも明るみになります。ですが、もしこのまま駆け落ちということにしておけばベイトソン公爵家だけが責任を負えばいい」
宰相の手には黄色い瓶がある。その目はどうしますか? と、毒の出どころを調べていいのかと脅している。ここでようやく我に返った。これが公になれば王太子の立場が危うくなる。最悪妾の子に奪われるかもしれない。それは駄目だ。正当な血を引くクリフトンが王にならなければならない。だから決断した。
「そうだな……。宰相の言う通りだ」
「ええ。殿下。あとのことはすべて私にお任せください」
「ああ、頼む」
宰相は口角を上げると恭しく頭を下げて退出した。
もう済んでしまったことだ。宰相に任せてしまえばいい。遺体がないのだからこれ以上調べることはできない。それにしても誰がマリオンを連れ去ったのか。騎士が一人いないと言っていた……。コンラッドという男なのか。
――もう忘れよう。自分は王にならなければならない尊い存在なのだから。
その後、クリフトンは宰相の後ろ盾をもつ侯爵令嬢と婚約し結婚した。マリオンは失踪したと騒ぎになった。宰相の指示で騎士団が調査を行ったがその結果は予定通り騎士と駆け落ちしたということになった。一応捜索もされたが二人は見つからなかった。ベイトソン公爵にはその不祥事の責任を取って蟄居及び多額の罰金を科した。
結婚後の生活はいいものではなかった。妻は宰相から何かを聞かされていたようで、クリフトンに尊大に振る舞った。もちろん彼女を愛することはない。あれほど回避したかった冷たい夫婦生活を送ることになった。
数年後、クリフトンは王位を継ぎさらに妻との間に三人の子が生まれた。
さらに七十年後、クリフトンは老衰で死んだ。死の間際にマリオンを思い出した。
(もしマリオンと結婚したのなら違った生活を送れたのだろうか。贅沢が好きで傲慢な妻との結婚生活は最悪だった)
後に知ったのはマリオンが書いたとされた不貞の証拠の手紙の筆跡鑑定は、母が偽造したものだった。マリオンの文字ではなかった。たぶんマリオンを排除してライラを新しい婚約者にしようとしたのだろう。それも無駄になったが。
(マリオンは不貞をしていなかった。疑ったりして可哀想なことをしてしまった。きっと彼女は私へ好意を口に出すのが恥ずかしかったに違いない。抵抗もなく毒を飲んだのはクリフトンが自分を信じなかったことに絶望したからだ。だから本当はマリオンは私を愛していたんだ。若い私はそれに気付かずに彼女を死なせてしまった。なんて不幸な運命なんだ……。マリオン、すまなかった。もし時間を戻せるのなら今度こそ一緒に幸せになろう……)
クリフトンは人生の最後に、幸せじゃなかった妻との関係はマリオンを失ったせいだと後悔した。
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