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9 お断りいたしますわ
「愛が……無かっただなんて、なんで……君が、私に恋慕したから婚約したんだろ!? 多額の援助をチラつかせて! 私の婚約者の座を射止めたんじゃないのか!?」
「はぁ……先日、お父様からも違うと言われましたでしょ? 戻られてから、ミュラトール伯爵様からもご説明されたんじゃございませんの? ミュラトール伯爵家の方から是が非でも婚約して欲しいと我が家に頼み込んだ上での婚約だった、と」
「ぐ……ぐぐ」
悔しそうに目線を落とし、口を閉ざす所を見ると、言われたけど信じなかった。と言う所かしら?
相当ミュラトール伯爵様から怒られたと思うのですけれども、どうなっているのかしら。
エリック様が我が家に婚約破棄したい、と乗り込んで来られた日の翌日、ミュラトール伯爵様が我が家に平身低頭謝罪に来られましたのよ。
格上の伯爵様が格下の子爵に頭を下げるのですから、どちらがあの婚約を望んでいたのか、一目瞭然ですわよね。
頭を下げに下げ、なんとか婚約解消を取り消して欲しい、もう一度婚約して欲しい、と仰って来られましたけれど、もう婚約解消の届けは出してしまった事と、今迄のエリック様の所業をお伝えした上で、お断りいたしましたら顔を真っ青にされていましたわ。
なんでも、婚約者に関する事は全てエリック様に一任されていたそうで。
贈り物もエスコートもせず、貰ったものの礼も言わず、相手を辱めるような恰好を強要し、さらにはそれを嘲るような行いをしていたのを、全く知らなかった、と。
この親にしてこの子あり。ですわね。
一任していたとしても確認はされる物じゃございませんの? 交際費のお金だけ渡して後は知らない、なんて。一任と放置は違いますわよ。
それでも厚顔無恥にも、息子には厳しく言い聞かせる、今までの事も償う、だからもう一度……などと言われるのですから困ったものでしたわ。
きっぱりお断りいたしましたけど。
「も、もう一度! もう一度やり直させてくれ!! もう一度婚約しよう!」
あらまあ、本当に似た者親子です事。同じ事を仰るなんて。
焦りをふんだんに滲ませたお顔で必死に言い募る所とかもう、そっくりですわ。
「君が、こんなにも美しく気高い女性だったなんて、気付かなかった私が馬鹿だった。知ってさえすれば婚約解消なんてしなかったし、君との交流にも積極的になれた! だけど、そんな馬鹿な私に、君は溢れんばかりの慈愛で応えてくれていた。だからこそ、私は君とは気付かずとも、君にもう一度恋をしてしまったのかも知れない。やはり、私にはマリサ、君しかいないんだ。今まで辛い思いをさせてしまって申し訳無かった。寂しい思いをさせてごめん。これからは、君に何かを強要する事もしないし、贈り物だってエスコートだって喜んでする! ダンスだって、あ……そうだ、ダンスだよ……マリサ、私達は一度もダンスを踊った事が無かったね。今から、一曲踊らないかい? 踊って仲直りをしようじゃないか。お互い行き違いがあったんだ。だから」
「お断りいたしますわ」
「なんで!」
そんなの、こっちが、なんで、ですわよ。
なんで、私がそんな頭の悪い言い訳を聞いて頷くと思われるのか、不愉快ですわ!
「今までエスコートをされなくても、ドレスも宝石も贈って頂けなくても、エリック様に言い付けられた装いで夜会に赴き、礼儀に則ってエリック様にご挨拶に伺いダンスもお誘いして来ましたわ。その度に、恥を掻かせるつもりか、と突き放されて来ました。それのどこが行き違いですの?」
「それは……だ、だから、悪かったと……。だからこそ! やり直そうと!」
「あの日」
「え?」
「前回お会いした、あの夜会の日。なぜ私がエリック様に言い付けられた装いでなかったか、お分かりですか?」
「なぜって……なぜ……」
物事を深く考えられないエリック様には難しい質問だったかしら?
でも、ちゃんと私の話を聞いて下さっていれば、分かる事だと思うのですけど。
「もう、エリック様には婚約者としての義務も礼節も必要ないと判断したからですわ。つまり、あの日の段階で見限らせて頂いておりましたの。なので、エリック様に対する情は私の中には既に一欠片もございませんの」
「!!! そ、そそそんな! ま、待ってくれ! 話し合えば! 話し合えば分かる!! そんな冷たい事を言わないでくれ。今は拗ねているだけだよね? 一度は生涯を共にしようと誓い合った仲じゃないか。これからは、その美しい姿で私の側にいてくれて良いんだ。服だって宝石だって買うって言ってるだろ? 君を大切にする。生涯、君だけを愛すると誓う! ここまで私が言っているんだ、婚約解消だなんて……悪い冗談だよね?」
何を勘違いなさっているのか、私の手を取ろうとするエリック様の手を扇子で押し返し数歩下がる。
もう半径一メートルの距離にいられるだけでも虫唾が走りますのよ。
「はぁ……先日、お父様からも違うと言われましたでしょ? 戻られてから、ミュラトール伯爵様からもご説明されたんじゃございませんの? ミュラトール伯爵家の方から是が非でも婚約して欲しいと我が家に頼み込んだ上での婚約だった、と」
「ぐ……ぐぐ」
悔しそうに目線を落とし、口を閉ざす所を見ると、言われたけど信じなかった。と言う所かしら?
相当ミュラトール伯爵様から怒られたと思うのですけれども、どうなっているのかしら。
エリック様が我が家に婚約破棄したい、と乗り込んで来られた日の翌日、ミュラトール伯爵様が我が家に平身低頭謝罪に来られましたのよ。
格上の伯爵様が格下の子爵に頭を下げるのですから、どちらがあの婚約を望んでいたのか、一目瞭然ですわよね。
頭を下げに下げ、なんとか婚約解消を取り消して欲しい、もう一度婚約して欲しい、と仰って来られましたけれど、もう婚約解消の届けは出してしまった事と、今迄のエリック様の所業をお伝えした上で、お断りいたしましたら顔を真っ青にされていましたわ。
なんでも、婚約者に関する事は全てエリック様に一任されていたそうで。
贈り物もエスコートもせず、貰ったものの礼も言わず、相手を辱めるような恰好を強要し、さらにはそれを嘲るような行いをしていたのを、全く知らなかった、と。
この親にしてこの子あり。ですわね。
一任していたとしても確認はされる物じゃございませんの? 交際費のお金だけ渡して後は知らない、なんて。一任と放置は違いますわよ。
それでも厚顔無恥にも、息子には厳しく言い聞かせる、今までの事も償う、だからもう一度……などと言われるのですから困ったものでしたわ。
きっぱりお断りいたしましたけど。
「も、もう一度! もう一度やり直させてくれ!! もう一度婚約しよう!」
あらまあ、本当に似た者親子です事。同じ事を仰るなんて。
焦りをふんだんに滲ませたお顔で必死に言い募る所とかもう、そっくりですわ。
「君が、こんなにも美しく気高い女性だったなんて、気付かなかった私が馬鹿だった。知ってさえすれば婚約解消なんてしなかったし、君との交流にも積極的になれた! だけど、そんな馬鹿な私に、君は溢れんばかりの慈愛で応えてくれていた。だからこそ、私は君とは気付かずとも、君にもう一度恋をしてしまったのかも知れない。やはり、私にはマリサ、君しかいないんだ。今まで辛い思いをさせてしまって申し訳無かった。寂しい思いをさせてごめん。これからは、君に何かを強要する事もしないし、贈り物だってエスコートだって喜んでする! ダンスだって、あ……そうだ、ダンスだよ……マリサ、私達は一度もダンスを踊った事が無かったね。今から、一曲踊らないかい? 踊って仲直りをしようじゃないか。お互い行き違いがあったんだ。だから」
「お断りいたしますわ」
「なんで!」
そんなの、こっちが、なんで、ですわよ。
なんで、私がそんな頭の悪い言い訳を聞いて頷くと思われるのか、不愉快ですわ!
「今までエスコートをされなくても、ドレスも宝石も贈って頂けなくても、エリック様に言い付けられた装いで夜会に赴き、礼儀に則ってエリック様にご挨拶に伺いダンスもお誘いして来ましたわ。その度に、恥を掻かせるつもりか、と突き放されて来ました。それのどこが行き違いですの?」
「それは……だ、だから、悪かったと……。だからこそ! やり直そうと!」
「あの日」
「え?」
「前回お会いした、あの夜会の日。なぜ私がエリック様に言い付けられた装いでなかったか、お分かりですか?」
「なぜって……なぜ……」
物事を深く考えられないエリック様には難しい質問だったかしら?
でも、ちゃんと私の話を聞いて下さっていれば、分かる事だと思うのですけど。
「もう、エリック様には婚約者としての義務も礼節も必要ないと判断したからですわ。つまり、あの日の段階で見限らせて頂いておりましたの。なので、エリック様に対する情は私の中には既に一欠片もございませんの」
「!!! そ、そそそんな! ま、待ってくれ! 話し合えば! 話し合えば分かる!! そんな冷たい事を言わないでくれ。今は拗ねているだけだよね? 一度は生涯を共にしようと誓い合った仲じゃないか。これからは、その美しい姿で私の側にいてくれて良いんだ。服だって宝石だって買うって言ってるだろ? 君を大切にする。生涯、君だけを愛すると誓う! ここまで私が言っているんだ、婚約解消だなんて……悪い冗談だよね?」
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もう半径一メートルの距離にいられるだけでも虫唾が走りますのよ。
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