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12【エリック視点】 私の愛を試しているんだろ?
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そんな風に私が思っていたからか。神は、私に月光の使者との邂逅を与えて下さった。
「私は、一目見て貴女の虜になってしまったようだ。お願いです、私の月光の君。美しい貴女のお名前を教えては頂けませんでしょうか?」
星が瞬くような大きな瞳にぷくりと色気を含んだ小さな唇。光り輝く白銀の髪が緩やかなカーブを描いて豊満な胸に落ち、締まったウエストとの曲線を際立たせていた。
全てが美しい。全てが完璧。こんな完璧な女性がこの世にいたなんて。
この女性との出会いにより、今まで惰性で足元に置いていた婚約者を私は排除した。
デシャネル子爵は娘可愛さに渋り、父も融資惜しさに激昂したが、そんな事は彼女の事を思えば些細な事だ。
それに、最後まで彼女の名を知る事は出来なかったが、あれだけの気品が漂う彼女はきっと高位貴族の令嬢に違いない。私が彼女と結婚する事が出来れば、デシャネル子爵なんかよりも多く融資して貰えるはず。
そうすれば、父の機嫌も直るだろうし、むしろ私に感謝するんじゃ無いか?
あはははははははは。あんな冴えない女なんかよりも、私には彼女の様な女が相応しいのだ。
あの女のせいで、社交界でどれだけ私が肩身の狭い思いをして来た事か。これからは誰もが羨む絶世の美女を侍らし、私は羨望の眼差しを一身に浴びるのだ!!
なのに……
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!!
月光の君がっ、彼女が! 私の婚約者だと言うのか!?
騙された!!
知っていたら婚約解消なんてしなかった!
こんなに美しく成長するなら、最初から優しくして甘やかしてやったのに!!
いや、今からでも遅くはない! マリサは私の事を好いているんだ。
新しいドレスも宝石も、マリサが欲しいと言う物全て買い与えてやれば、機嫌もなおるはず……はず、なのに……
愛が無かった? 私の事が好きじゃなかったと言うのか!?
私に婚約解消されて、ショックで泣き濡れていたんじゃないのか!?
確かに、父はデシャネル子爵家との婚約は我がミュラトール伯爵家からの要望で叶ったものだったと叱られたが。そんなの! 普通、嘘だと思うだろう!
クソックソックソッ!!!
もう、マリサは私のものにならないのか!? 五年間も私の婚約者だったのに……私のものだったのに!!
いや……そうだ、一度は私のものだったんだ。私に情が無い訳ないじゃないか。
今は、色々な行き違いと誤解で拗ねているだけで、本当は私の愛を試しているんだろ? 愛していなかった、なんて、可愛い憎まれ口じゃないか。
一緒にダンスを踊ろう。そうすれば、誤解も、彼女の勘違いも解けるはずだ。
そうしたら、きっとマリサはこう言うんだ「私にはエリック様しかいない。もう一度、エリック様の婚約者に戻りたい」と……
「お断りいたしますわ」
なんで!
「エリック様に対する情は私の中には既に一欠片もございませんの」
そんな……
「今度は、自分を優位に置きたいが為に姑息な方法で人を屈辱的に支配しようとする方でなく、私を尊重し大事にして下さる方を選びますわ」
今まで見た事の無い艶やかな笑顔で晴れ晴れと言い切るマリサに、言いたい事が山ほどあるのに、どれも言葉になって出てこない。
そんなに綺麗に笑えるのに、なぜ今までその笑顔を見せなかったんだ、とか。
私という婚約者がいたのに、そんなに簡単に乗り換えるのか、とか。
屈辱的に支配しようなんて思って無かった、とか。
なんと言えば、私の名誉は守られるのか。
「私がエリック様から不当な扱いを受けていた、という事はこの場の皆様が証人ですわ。ですから、誤魔化す事は出来ませんでしてよ」
皆様? そう言えば、さっき数人の野次馬が私達を見ていた。それを思い出し、周りを見回して私は愕然とした。
数人どころか、数十人という人々が私達を取り囲み、嘲り、嫌悪、蔑み、色々な視線で私を見ていた。
何故……何故、そんな目で私を見るんだ。私が何をしたと言うんだ……
逃げ出したくなる視線にジリジリと後退りする中、人々の中に私の友人達を見付け、助かった、と思った。私の友人なら、こんな観衆の視線から助けてくれると思ったのだ。
しかし、彼等は私と目線が合うと顔を歪め、ふい、と顔ごと逸らし人々の輪から離れて行った。
マリサだけでなく友人達にまで見放され、私は膝から崩れ落ちた。
なぜ?……なぜ……
そして、マリサも完璧なカーテシーを私に披露し、振り返る事も無く取り巻きの令嬢達を引き連れ去って行った。
「私は、一目見て貴女の虜になってしまったようだ。お願いです、私の月光の君。美しい貴女のお名前を教えては頂けませんでしょうか?」
星が瞬くような大きな瞳にぷくりと色気を含んだ小さな唇。光り輝く白銀の髪が緩やかなカーブを描いて豊満な胸に落ち、締まったウエストとの曲線を際立たせていた。
全てが美しい。全てが完璧。こんな完璧な女性がこの世にいたなんて。
この女性との出会いにより、今まで惰性で足元に置いていた婚約者を私は排除した。
デシャネル子爵は娘可愛さに渋り、父も融資惜しさに激昂したが、そんな事は彼女の事を思えば些細な事だ。
それに、最後まで彼女の名を知る事は出来なかったが、あれだけの気品が漂う彼女はきっと高位貴族の令嬢に違いない。私が彼女と結婚する事が出来れば、デシャネル子爵なんかよりも多く融資して貰えるはず。
そうすれば、父の機嫌も直るだろうし、むしろ私に感謝するんじゃ無いか?
あはははははははは。あんな冴えない女なんかよりも、私には彼女の様な女が相応しいのだ。
あの女のせいで、社交界でどれだけ私が肩身の狭い思いをして来た事か。これからは誰もが羨む絶世の美女を侍らし、私は羨望の眼差しを一身に浴びるのだ!!
なのに……
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!!
月光の君がっ、彼女が! 私の婚約者だと言うのか!?
騙された!!
知っていたら婚約解消なんてしなかった!
こんなに美しく成長するなら、最初から優しくして甘やかしてやったのに!!
いや、今からでも遅くはない! マリサは私の事を好いているんだ。
新しいドレスも宝石も、マリサが欲しいと言う物全て買い与えてやれば、機嫌もなおるはず……はず、なのに……
愛が無かった? 私の事が好きじゃなかったと言うのか!?
私に婚約解消されて、ショックで泣き濡れていたんじゃないのか!?
確かに、父はデシャネル子爵家との婚約は我がミュラトール伯爵家からの要望で叶ったものだったと叱られたが。そんなの! 普通、嘘だと思うだろう!
クソックソックソッ!!!
もう、マリサは私のものにならないのか!? 五年間も私の婚約者だったのに……私のものだったのに!!
いや……そうだ、一度は私のものだったんだ。私に情が無い訳ないじゃないか。
今は、色々な行き違いと誤解で拗ねているだけで、本当は私の愛を試しているんだろ? 愛していなかった、なんて、可愛い憎まれ口じゃないか。
一緒にダンスを踊ろう。そうすれば、誤解も、彼女の勘違いも解けるはずだ。
そうしたら、きっとマリサはこう言うんだ「私にはエリック様しかいない。もう一度、エリック様の婚約者に戻りたい」と……
「お断りいたしますわ」
なんで!
「エリック様に対する情は私の中には既に一欠片もございませんの」
そんな……
「今度は、自分を優位に置きたいが為に姑息な方法で人を屈辱的に支配しようとする方でなく、私を尊重し大事にして下さる方を選びますわ」
今まで見た事の無い艶やかな笑顔で晴れ晴れと言い切るマリサに、言いたい事が山ほどあるのに、どれも言葉になって出てこない。
そんなに綺麗に笑えるのに、なぜ今までその笑顔を見せなかったんだ、とか。
私という婚約者がいたのに、そんなに簡単に乗り換えるのか、とか。
屈辱的に支配しようなんて思って無かった、とか。
なんと言えば、私の名誉は守られるのか。
「私がエリック様から不当な扱いを受けていた、という事はこの場の皆様が証人ですわ。ですから、誤魔化す事は出来ませんでしてよ」
皆様? そう言えば、さっき数人の野次馬が私達を見ていた。それを思い出し、周りを見回して私は愕然とした。
数人どころか、数十人という人々が私達を取り囲み、嘲り、嫌悪、蔑み、色々な視線で私を見ていた。
何故……何故、そんな目で私を見るんだ。私が何をしたと言うんだ……
逃げ出したくなる視線にジリジリと後退りする中、人々の中に私の友人達を見付け、助かった、と思った。私の友人なら、こんな観衆の視線から助けてくれると思ったのだ。
しかし、彼等は私と目線が合うと顔を歪め、ふい、と顔ごと逸らし人々の輪から離れて行った。
マリサだけでなく友人達にまで見放され、私は膝から崩れ落ちた。
なぜ?……なぜ……
そして、マリサも完璧なカーテシーを私に披露し、振り返る事も無く取り巻きの令嬢達を引き連れ去って行った。
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