竜人嫌いの一匹狼魔族が拾った竜人を育てたらすごく愛された。

そら。

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竜人嫌いの魔族、竜人の子供を育てる

47.それぞれの想いと爆発音

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夏祭り当日。

アリスはルカとの待ち合わせの場所へ向かった。
美味しそうな香りが漂う屋台や異国の食器が並ぶ露店は、足を止めたくなるほど魅力的だ。
後でルカと一緒にゆっくり見に行こう。

行き交う人々を避けながら歩いていると、アリスのすぐ近くを3人の子供たちが走り抜けて行った。
先頭を走る男の子は、お面を被って片手にわたあめを握っている。その後を女の子と小さい男の子が笑いながら追いかけていく。

(ふふ、昔の私たちみたい…)

昔は日が暮れるまで遊んでいたアリスたちも卒業を控え、それぞれの道に進む準備のため、最近は3人で遊ぶことが少なくなった。

ルカは家業を継ぐため家の手伝いを本格的に始めたし、シロは進学か就職かまだ迷っていると言っていたが、学校にいる時間はほとんど勉強に充てている。
そしてアリス自身は魔族が集まるギルドで仕事をするため、魔族の友達と過ごす事が多くなった。

ルカが自分に好意を寄せている事は気付いていた。
アリスもいつも明るくて好奇心旺盛なルカが好きだった。夏祭りに誘ってくれて本当はすごく嬉しかったし、ドキドキして眠れない日もあった。

これからもずっとルカと一緒にいたい。

だけど人間のルカの人生は短い。
恋愛するには辛い相手だ。

お互いにそれを理解しているから、きっとこの初めてのデートが最後のデートになるだろう。
だから今日は思いっきり楽しまなきゃ。

夏の暖かい風が吹き抜け、ドキドキしていたアリスの心は少し痛くなった。

「よ、よお、アリス!」

よく通る澄んだ声に顔を上げれば、ルカが少し緊張した様子で手を振っている。
その姿がなんだか可愛くて、アリスは思わず笑って手を振った。

「お待たせ、ルカ。ねぇ、もしかしてデートだから緊張してるの?」

アリスがニヤニヤしながらルカの顔を覗き込むと、ルカは一気に真っ赤になった。

「…っデ!?はぁ?緊張なんかするかよ!」

「あっそー、残念。…私はドキドキしてるのに」

「…へ?」

アリスの言葉にルカが固まる。そんなルカを置いてアリスは歩き出した。

「ねぇ、ルカ!あっちに可愛い露店があったの。花火が始まる前に行ってみよう」

「え、…ああ。うん、行こう。……アリス」

「なに?」

呼ばれてアリスは振り向いた。

自分の服の裾を握るルカは、ひと呼吸してアリスを真っ直ぐに見た。

「…俺も今日すげぇドキドキしてる。来てくれてありがとう」

ルカの素直な言葉にアリスは満足そうに笑った。





真っ暗な夜空に花火が次々と打ち上がる。

迷子を親に届けたユーロンとスノウは、竜人騎士団の駐屯所へ戻ってきた。
駐屯所といっても夏祭り用に簡易的に建てられたテントで、中に入ると疲労困憊の騎士たちが休んでいる。

「あちゃー。みんなお疲れのようですねぇ」

スノウは困った顔で笑いながらお茶の準備を始めた。

「そりゃそうだろう。朝方まで嵐の中で救助活動をしてたんだ…」

ユーロンも疲れた様子で空いている席に座った。

昨日は隣国の海で魔獣の群れが何百人もの人間を乗せた大型客船を襲っていると緊急連絡が入り、竜人騎士団は救助へ向かった。
魔獣の群れだけならまだしも、天候は大嵐で巨大な船を飲み込むほど海は荒れていた。

嵐の中、魔獣と戦いながらの救助活動は、タフな騎士たちでも骨が折れるものだった。

そして無事救助活動が終わったのは今日の朝方。
騎士たちは疲れ切った体に鞭を打ち、夏祭りの警備にやって来たのだ。

ユーロンは天井を見上げ、深いため息をついた。

「ユーロンさんも随分疲れてますね。リラックス効果のあるお茶を淹れたので飲んでくださいね」

スノウはユーロンの前に淹れたてのお茶を置いた。

「お前こそ魔力が低下してるぞ。さっさと仮眠して何かあった時に備えとけ」

ユーロンはお茶を飲みながらスノウを見た。

「あはは、それはユーロンさんもでしょ。それにしても花火の音が凄いですね。せっかくだから僕、ちょっと見てきますね」

スノウが外へ出ようと扉に手を掛けようとすると、扉は開きユーロンによく似た若い竜人が立っていた。

「えーっと…、あっ!もしかしてシャオル君!?」

スノウが目を丸くして聞くと、ユーロンの末息子のシャオルが愛想なく「…どうも」と挨拶した。
すると後ろから「シャオル、ちゃんとご挨拶しなさい」とユーロンの妻サハラに小突かれた。

「わあ!サハラさんもご無沙汰しております!」

サハラの声にユーロンは「さ、サハラ!?」と驚いて飛び起きた。

「こんばんは、スノウさん。主人がいつもお世話になっております」

竜人にしては華奢な体型で金色の長い髪を一つに纏め、グリーンの瞳で微笑む彼女はいつ見ても美しい。
性格は温厚で気さくだが、芯が強く肝が据わっている。仕事でほぼ家にいないユーロンを一切頼らず子供8人を育て上げた。
ユーロンはそんな彼女に頭が上がらないらしい。

「いえいえ!ユーロンさん、奥様がいらっしゃいましたよ」

「…あ、ああ。よく来たな」

無表情で話すユーロンだが、照れているようにも見える。

「突然来てしまってごめんなさい。騎士団の方々がお疲れだと聞いたので、魔力回復の聖水と果物を持ってきたの。皆さんで召し上がって」

「…それはありがたい。助かる」

「ふふ、良かった」

普段、中々会えない2人の会話はいつみても初々しい。スノウは微笑ましく思いながら、そっと外へ出るとシャオルに話しかけられた。

「スノウさん、どこか出掛けるんですか?」

「少し花火を見てくるよ。すぐ戻るけどね」

「…俺も一緒に行っていいですか?」

「もちろん。行こう」

シャオルが横に並ぶと身長の高さに驚いた。

「シャオル君ってまだ17歳だよね?もう僕より身長高い。なんかショックだ…」

「18歳ですよ。スノウさんは…全然変わらないですね」

そう言ってシャオルの口元が少し緩む。

「うわっ、生意気ー。そういえば竜人騎士学校はどう?楽しい?」

「まあ、それなりに。でも早く卒業して騎士団で…、スノウさんと一緒に働きたいです」

「あははっ、本当に?光栄だな。でも赤ちゃんの時から知ってるシャオル君と一緒に働く日が来たら、僕、泣いちゃうかも。もう親心?みたいな感じでさ」

笑いながら話すスノウの言葉に、シャオルの眉間に皺が寄った。

「…シャオル君?」

「…そういう事、言わないで下さい。おじさんくさいですよ」

「いいよー。もうおじさんだもん」

シャオルは、笑って空を見上げるスノウが憎らしくなった。

この人にとって自分はまだまだ子供なんだ。
早く肩を並べて戦いたい。
1人の男として認められたい。
そして心に秘めている気持ちを伝えたい。

「…今に見てろよ」

シャオルの小さな呟きは、花火の音にかき消された。






「ちょっとルーフ!!どんだけ酒飲んだんだよ!」

ルカの酒屋にやってきたシロとルーフは、屋上で花火を楽しんでいたが、シロは忙しそうに働くルカの父親の手伝いをしていた。
店の忙しさもひと段落したので、ルーフの元へ戻ってくると、ベロベロに酔っ払ったルーフが全く知らない男の客と肩を組みながら酒を飲んでいた。

「おお、シロぉ。おかえりぃー。ちゃんと稼いで来たかぁー?」

「ルカのお父さんからお金なんて貰わないよ。ほら、こっち来て!もー、目を離すんじゃなかった」

ルーフを男から引き剥がし、シロは1番奥の席にルーフを座らせた。

「そうだぞぉ?せっか一緒に来たのに、俺をほっとくお前が悪い!一緒に花火見る約束しただろ?」

ルーフは今度はシロの肩を組み、頭を力強くぐりぐりと撫でた。

「いててっ!もー、ごめんて。…ていうか、ルーフも俺と花火見たかったの?」

シロは嬉しそうにルーフを見上げた。

「まあな。だって卒業したらミール王国ここから離れるだろ?今年が見納めだぞ。あ、そういえばさっき一緒に飲んでた奴らはモンド王国から来たんだってよ。しかもお前の進学先の近くに住んでるんだってさ。自然も多くてすげぇ綺麗な場所だってさ。良かったな!」

ルーフは酔っているせいか、いつもよりシロにくっ付いて上機嫌で話している。
シロはそんなルーフを愛しくも思いながら、水の入ったコップをルーフの口元に近づけた。

「もー、ルーフ酔っ払い過ぎ。ほら、お水飲んで。俺まだ進学先決めてないよ?」

「はぁー?さっさと決めろよ。まあ、でも、どうせ俺からは離れるつもりないんだろ?」

そう言ってルーフはシロの胸に頭を擦り寄せた。

「っ!!ル、ルーフ…、どうしたの?そんな事されたら俺だって我慢できないんだけど…」

甘えてくるルーフが死ぬほど可愛い。
シロは我慢できずにルーフを抱きしめた。

ああ、やっぱりルーフのそばにいたい。
ルーフがそばに居ていいと言うなら、竜人騎士学校なんて行かなくていいじゃないか。
スノウのような医療魔法なんて使えなくていい。
ルーフが言うようにモンド王国の学校で医学を学ぼう。
ルーフとずっと一緒に暮らしていく方が幸せなんだ。


シロがそう決心した瞬間、ルーフは急に真剣な顔をして遠くの空を見上げ、視覚、聴力、嗅覚を集中させた。

嫌な予感がする。

「…何か来る」

ルーフがそう呟き、すぐにシロを庇うように押し倒した。
その瞬間、空が真っ白になり、大地が揺れるほどの爆発音が鳴り響いた。
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