悪役令嬢vs腹黒王子〜時々性悪ヒロインと毒舌執事〜

1.婚約破棄まであと6ヶ月

7.悪役令嬢はメアリーと話す

「キーナ様、おはようございます！」

教室へ向かう途中に数人の女子生徒が寄ってきた。

「みなさん、おはようございます。」

彼女達は私のご学友という名の取り巻きだ。

全員、名の知れた貴族出身だが地位も財力も我がハンドリー公爵家には及ばない。
おそらく彼女達は、ハンドリー公爵家と繋がりを持ちたい両親から私に媚を売るように言われているのだろう。

まあ、ハンドリー公爵家としても多くの貴族の動きは把握しておきたいので、この『お友達ごっこ』は私にもメリットがある。

私たちはそんな上っ面な関係性で成り立っている。

「キーナ様は今日も綺麗ですわ。どうしたらそんなにキメの細かいお肌になれるのですか？」

「あら、ありがとう。あまり意識したことはないのだけど、健康に良い食事と良質な睡眠を取るように心掛けてるの。」

なんてね。
食事や睡眠なんて基本中の基本で、めちゃめちゃ高い化粧品を使って色々努力してるのよ。

「さすがですわー！」

そんな当たり障りのない会話をしながら歩いていると、急に目の前にメアリーが現れ、私にぶつかった。

「きゃっ！！」

メアリーは私にぶつかった衝撃で転んでしまったが、普段から鍛えている私はびくともしなかった。

それでも取り巻き令嬢たちは、メアリーには見向きもせず私に向かって「大丈夫ですか？」、「お怪我はありませんでしたか？」と心配してくれる。

いや、お怪我がありそうなのは転がったメアリーの方だと思うわ。

そんなことを思いつつも心配してくれる令嬢達には礼を言ってメアリーに近づいた。

メアリーは足首を抑え俯いている。
あー、なんてか弱く守ってあげたくなる姿なんだろう。
メアリーは本当に華奢な体をしている。
筋肉質な私とは大違いだ。

「大丈夫？」

私はなるべく優しい表情で声を掛けた。
しかしメアリーの肩は怯えるようにビクッと強張り、大粒のブルーサファイアの瞳には涙が溜まっている。

「あ、はい。大丈夫です…。あっ、いた…。」

メアリーの顔が歪んだ。
足を痛めたのかしら？

私が痛めた箇所を聞こうと思った瞬間、取り巻き令嬢の1人が「ちょっと、あなた。キーナ様にぶつかったくせに謝罪もないの？」と怒りだした。

「そうよ、しかもあなた廊下を走っていたでしょう？これだから市民出身は常識がなくて嫌ね。」

彼女達は市民出身のメアリーを見下し嘲笑う。
貴族はこの国のヒエラルキーの上位、市民は下位。
ましてや、ぶつかった相手が第一王子の婚約者である公爵令嬢なら彼女達は全力で私の味方をする。

正直、いつもの私なら見て見ぬフリして立ち去るが、メアリーは光魔法の使い手でアレンのたぶん好きな人。

関わりたくないけど、無視するわけにもいかない。

「みなさん、彼女は転入して来たばかりなのよ。あまり責めてはいけないわ。」

私は令嬢達を笑顔で宥めつつ、メアリーに話しかけた。

「メアリーさん、よね？どこか体を痛めたの？」

私が声をかけると怯えていたメアリーの表情は、パァッと明るくなった。

「私の名前、知ってるんですね！照れちゃうな。ちょっと足を痛めちゃったけど大丈夫です！」

私含め取り巻き令嬢達は彼女のフランクすぎる話し方に凍りついた。

「あ…あら、そう。良かった。でも淑女たるもの室内で走るのは良くないわ。今度から気を付けてね。」

私はなんとか動揺を隠して注意すると、メアリーは目を見開き固まった。

「メアリーさん？」

もう一度声を掛けると、メアリーは再び明るい表情になり「はいっ！気を付けます。」と元気に答えた。

なんだか不思議な子だわ。