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プロローグ

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「彼」はリズミカルな足取りで階段を登っていく。規則正しい足音が広い階段にこだまする。彼の横を看護師が慌ただしく駆け降りてゆく。一階の方から救急車のサイレンが、そのすぐ後に慌ただしく駆けていく緊急救命医とストレッチャーの車輪が転がる音が聞こえる。



きっと彼も自分の「患者」の事を思いながら彼は階段を登っていく。目指すは3階…の2号室。
彼が2階の踊り場に差し掛かった時、彼の右を若い男がすごい勢いで駆け降りていった…と思ったらすぐに立ち止まり、驚いたような顔で「彼」の方を振り向いた。


若い男は舌打ちをしてそのまま階段を駆け降りていく。「彼」はその様子を眺めていた。彼は見えないはずなのに、時々人々は彼の存在を感じたような反応をする。人間は死期というものに敏感なのだ。


彼は3階の角から2番目の部屋の前に立った。間違えのないよう、手元のカルテとドア横の名札の名前を確認する。


田口鉄郎様


彼はニヤリと笑い、病室の中に足を踏み入れた。
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