3 / 4
最後の最初
しおりを挟む
よく聞く、心電図モニターの音がだんだん大きくなる。ドラマや映画なんかでいつも聞くので人間はこの音を聞くだけですぐに病人を連想する。
田口鉄郎 58歳の老人はしんどそうに呼吸器の中で息をしている。彼の隣で、娘らしき人が心配そうに手を握っている。お年寄りといえばお年寄りだが、現代日本では死ぬのは早い方だ。彼はそんなことを思いながら老人に話しかけた。
「こんにちは。58年間お疲れ様でした。しかし逝くのはちょっとだけ早いですね。」
「?…あなたはどなたですか?」
しわがれた声で老人が答える。脳内で話しているのに、意識が伝えるその波は喉から出る声となんら変わりない、それぞれの個性を持っている。
彼は微笑んだまま老人を見つめていると、老人は納得したように頷いた。
「あぁ。あなたは死神でしょう?先生や娘はああいうが、やはり私はもうダメなんでしょう。」
老人は一筋の涙を流しながら彼に向かって決めつけるような、半ば諦めたような視線を送る。
「えぇ。まあ端的にはそうです。でも私が来なかったらあなたは、今頃、そうですね 22:11分にはご臨終なさっていたことでしょう。しかし、あなたはそれよりもう少し生きられます。先に言っておきますが、私は迎えに来たのでも送りに来たのでもない。あなたの死について少しお知らせに、そして見守りに来たのです。あなたにはもう少し、少なくとも向こう5分は死にたくない理由があるでしょう?」
彼がそう言った途端、病室のドアが勢いよく開いた。さっき階段ですれ違った男が入ってきた。息を切らせながら鞄からタブレットを取り出して?、何か操作する。「彼」には目もくれない。
「そう。あと十分…いやあと18分差し上げます。もっと差し上げたいのは山々ですが、残念ながらもうこれだけしか残っていません。でも、あなたの名誉ある、温かい最後には十分の時間です。」
老人は、脳内で話すことも忘れたようだった。
男が持つタブレットには、別の病室が映し出されていた。画面の向こうにも別の男がいて妻らしき女性の手をしっかりと握っている。女性はうめき、叫びながら歯を食いしばっている。看護師や医者が、「頑張れ。後もう少し!」「もっと力を入れて」と励ましている。
数分後、青いシーツの下から、大きな口を開けた赤子が取り出された。耳の遠くなった老人に声は届かなくとも、力強い新しい命の鼓動はしっかりと伝わったようだった。老人の目に涙が溢れた。
「…58年間お疲れ様でした。20代後半で奥様を亡くされた後一人で子供3人を立派に育てられ、家族の大黒柱として、また地域の見守り役として、いつもみんなの拠り所となっておられました。みんなご主人のことを愛し、慕っています。あなたが息を引き取った後、何十人もの方が、あなたのベットを囲みます。見事な生き様でした。最後にお孫さんのご誕生。おめでとうございまいました。」
「あ…ありが…とう」
老人の最後の言葉は、脳の中の意識ではなく、喉から絞り出された声となって、ベットの側に座る二人と画面の向こうの女性にしっかりと届いたのであった。
田口鉄郎 58歳の老人はしんどそうに呼吸器の中で息をしている。彼の隣で、娘らしき人が心配そうに手を握っている。お年寄りといえばお年寄りだが、現代日本では死ぬのは早い方だ。彼はそんなことを思いながら老人に話しかけた。
「こんにちは。58年間お疲れ様でした。しかし逝くのはちょっとだけ早いですね。」
「?…あなたはどなたですか?」
しわがれた声で老人が答える。脳内で話しているのに、意識が伝えるその波は喉から出る声となんら変わりない、それぞれの個性を持っている。
彼は微笑んだまま老人を見つめていると、老人は納得したように頷いた。
「あぁ。あなたは死神でしょう?先生や娘はああいうが、やはり私はもうダメなんでしょう。」
老人は一筋の涙を流しながら彼に向かって決めつけるような、半ば諦めたような視線を送る。
「えぇ。まあ端的にはそうです。でも私が来なかったらあなたは、今頃、そうですね 22:11分にはご臨終なさっていたことでしょう。しかし、あなたはそれよりもう少し生きられます。先に言っておきますが、私は迎えに来たのでも送りに来たのでもない。あなたの死について少しお知らせに、そして見守りに来たのです。あなたにはもう少し、少なくとも向こう5分は死にたくない理由があるでしょう?」
彼がそう言った途端、病室のドアが勢いよく開いた。さっき階段ですれ違った男が入ってきた。息を切らせながら鞄からタブレットを取り出して?、何か操作する。「彼」には目もくれない。
「そう。あと十分…いやあと18分差し上げます。もっと差し上げたいのは山々ですが、残念ながらもうこれだけしか残っていません。でも、あなたの名誉ある、温かい最後には十分の時間です。」
老人は、脳内で話すことも忘れたようだった。
男が持つタブレットには、別の病室が映し出されていた。画面の向こうにも別の男がいて妻らしき女性の手をしっかりと握っている。女性はうめき、叫びながら歯を食いしばっている。看護師や医者が、「頑張れ。後もう少し!」「もっと力を入れて」と励ましている。
数分後、青いシーツの下から、大きな口を開けた赤子が取り出された。耳の遠くなった老人に声は届かなくとも、力強い新しい命の鼓動はしっかりと伝わったようだった。老人の目に涙が溢れた。
「…58年間お疲れ様でした。20代後半で奥様を亡くされた後一人で子供3人を立派に育てられ、家族の大黒柱として、また地域の見守り役として、いつもみんなの拠り所となっておられました。みんなご主人のことを愛し、慕っています。あなたが息を引き取った後、何十人もの方が、あなたのベットを囲みます。見事な生き様でした。最後にお孫さんのご誕生。おめでとうございまいました。」
「あ…ありが…とう」
老人の最後の言葉は、脳の中の意識ではなく、喉から絞り出された声となって、ベットの側に座る二人と画面の向こうの女性にしっかりと届いたのであった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる