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第6章 選択

039 メイ

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「メイ、大丈夫か?」

 いい感じに酔いが回っているメイに、雅司が声をかける。

「この程度で酔うものか。それより雅司、暑くてかなわんのだ。脱ぐのを手伝ってくれ」

「いやいや、それ、十分酔ってるから」

「そういうお前こそ、酒が進んでおらんではないか。折角のうたげだと言うのに、もっと飲まんか」

 そう言って雅司に抱きつく。

「ふふふっ……雅司は本当にいい匂いだな」

「メイったら、ほんとご機嫌ね」

 そう言ってノゾミが微笑む。

「今何時だ……って、そろそろ日付が変わるのか。と言うことは、かれこれ5時間以上騒いでたのか」

「でも楽しかったわ」

 ノゾミの言葉に雅司もうなずく。

「そうだな。こんなに騒いだの、俺も久しぶりだ」

「ほらメイ。こんなところで寝たら、風邪ひくわよ」

「……うるさい……もう少し、このままでいさせろ……」

「はいはい、分かりました」

 メイの頭を優しく撫で、もう一度微笑む。

「いいパーティーになったわね」

「ありがとな、ノゾミ」

「私こそ。こんな楽しいパーティー、初めてだったわ」

「そうか。ならよかった」

「私も少し酔ったみたい。ちょっと外で涼んでくるけど、いいかな」

「戻って来るのか?」



 その言葉に目を伏せる。



「……あなたってば本当、なんでこんな時まで空気を読むのよ……察してる癖に、何も聞かないし……」

「性分なんでな」

「……そうね、そうだった。ふふっ」

 ゆっくりと立ち上がり、玄関に向かう。

「メイのこと、お願いね」

「任せろ」

「メイ、ほどほどにね」

 メイが無言でうなずく。

「じゃあね、雅司」

「ああ」

 振り返り、リビングを見回す。



 この3か月を思い返し。
 雅司と共に過ごした空間を、名残惜しそうに見つめる。



 そして小さく息を吐き。静かに玄関へと向かった。

「……」

 扉が閉まると、部屋が妙に広く感じた。
 しばらく玄関を見つめていた雅司は、やがて唇を歪め、自虐気味に笑った。

 いいうたげだった。
 そう思いながら。




「メイ。本当に大丈夫か」

 しがみつくメイの頭を撫で、雅司が囁く。

「ああ……問題ない……」

「楽しかったよ。ありがとな」

「私もだ。こんな楽しいうたげなら、毎日したいものだ」

「パーティーもなんだが、今までもな」

「……馬鹿者が」

 雅司の服を握り、肩を震わせる。

「契約のおかげで、こんなに幸せな時間を過ごすことが出来た。ノゾミには本当、感謝してる。でも……お前が来てくれたことで、俺はもっと幸せになれた」

「……」

「それにお前は、俺のことを大切だと言ってくれた。好きだと言ってくれた。嬉しかったよ」

「振っておいて、今更その妄言はどうなのだ」

「それもそうだな。ははっ」

「……契約がどうだの、死神としての責務がどうだの……お前の価値にしてもそうだ。私には関係のないことだった。
 私はずっと、お前を見てきて」

「ストーキングだろ?」

「黙って聞け」

「ははっ、すまん」

「お前を観察して……私はお前のことを、一個の存在として意識した。お前の生き様、考え方、行動に魅了された」

「ありがとう」

「お前と共に過ごした時間は、未来永劫色褪せることのない宝だ」

「俺もだ」

「ずっと続いてほしい……そう思っていた。願っていた。だが……そろそろ終わりのようだ」

「終わりがあるからこそ、俺たちは一瞬一瞬を大切に生きるんだ。確かに別れは辛い。でもそれも、いつかいい思い出に変わるさ」

 涙に濡れた瞳で。
 雅司を見つめる。

 やがて微笑み、そっと唇を重ねた。

「……」

 雅司も受け入れ、メイを抱き締めた。

 メイの頬に涙が伝う。
 生まれて初めての想い。
 そして、生まれて初めての失恋。

 永遠の別離わかれ

 雅司を抱き締めて。
 唇を重ねたまま。
 メイは囁いた。




「愛してる……」


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